【3378】 蓉子の全世界の頂点に君臨  (ex 2010-11-08 20:44:02)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:これ】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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〜 10月3日(火) 10時 暗黒ピラミッド 最下層の1階上 〜

「ソロモン王は、わたしたちにこう言ったわ。
 『余にはそなたたちのどのような攻撃も効かぬ。
 余は不死にして万能。 すべての智恵を持つものである。 余に服従せよ』 ってね」

 蓉子が一同を見渡しながら言う。

「ところが、マルバスは、 『ソロモン王は死ぬ』 と言った。ただし 『復活する』 とも。
 そうであれば理解できる。 私たちは既にソロモン王を殺している」

「ええ、令を含め4人の攻撃でボロボロになったわね。 まぁ、すぐに復活したけど」

「祐巳ちゃん、いい? これは重要なこと。 あなたは殺しても復活するものと戦うことになる。 それでも戦えるのかしら?」

「はい! もちろんです。 まだどのように戦えばいいのかわかりません。 でも戦っているなかで見えるものもあるんじゃないでしょうか?」
 祐巳はなぜ蓉子がこのような質問をするのかわからなかった。
 ソロモン王を倒すために、みんなここまで来たのではなかったのか?

「祐巳ちゃん。 あなた以外の5人ではソロモン王を倒す手段はないの。 あなたが無理なら戦うことはあきらめるしかない、そういうこと。
 なんとしてでもソロモン王を倒す方法を考えなさい」

「私だけ…。なんですね?」
 祐巳は静かに蓉子を見つめる。

「そう。 あなただけ。 もうあまり時間がないわ。 よく考えて。
 ではソロモン王を倒すまでの前にしておく準備について説明します」
 蓉子は祐巳に向けていた視線を聖に移す。

「聖。 ソロモン王には側近として2人の男女がいる。
 大地の神”アガレス”と、海の神”ウェパル”
 この二人がこのピラミッドをここに存在させている。 この二人だけは最後の最後まで倒してはいけない。
 でも、ソロモン王と祐巳ちゃんが戦っている間、この二人に邪魔させるわけにはいかないの」

「わかった。 そこで私の出番、ってわけね?」

「あなた、20mほど離れた所にいるこの2人に瞬間的に花束を渡せるかしら? いつものトリックで」

「え?! まぁ、それくらいはお安い御用だけど」

「うん。それなら話が早い。
 まずマルバスのタリスマンで強力な麻痺薬を作成する。 そして花束の中に麻痺薬を仕込んでおいて合図とともに麻痺薬を破裂させてアガレスとウェパルの動きを止める」

「その合図とは?」

「祐巳ちゃんが水天ヴァルナの力で八大竜王を呼びだして壁にかかった松明をすべて消し去る。
 すると暗黒になるから、すぐさま 『ルーモス・マキシマ』 で強力な明かりをともす。 その瞬間よ」

「花束in薬 → 水 → 光 → 薬破裂、だね」

「ええ、そして二人の動きが止まった瞬間に、志摩子が江利子の 秘技『影縫い・五色龍歯』 で二人の動きを完全に止める。
 麻痺薬で動きを止めておけるのはおそらく数秒もないと思うわ。
 でも、止まっている相手になら志摩子でも 『影縫い・五色龍歯』 を当てることができるでしょう。
 ただし、止まっている時間はルーモス・マキシマが輝く10分間。 10分でソロモン王を倒せなければ私たちの負け、よ」

「ちょっと待って、蓉子。 あなたの作戦だと私と祐巳ちゃんと志摩子の3人しか名前が出てこないんだけど。
 あなたと江利子と祥子の3人は何をするの?」

「あら、気付いたのね。 そう。 わたしたちはソロモン王を倒しには行かない。 行けるのはあなたたちだけよ」

「なんですって?!」

 平然と 『ソロモン王を倒しに行かない』 と宣言する蓉子に聖は驚く。
 祐巳と志摩子もあまりの衝撃に言葉も出ない。

「とにかく時間がないわ。 江利子、志摩子に五色龍歯を2組渡して。
 志摩子が必ず 『影縫い・五色龍歯』 を当てることができるように特訓をお願い。
 祐巳ちゃんは祥子と協力してマルバスのタリスマンから麻痺薬を精製しなさい。
 ・・・。
 そうね、このフロアは多分やかましくなるから精神集中のために上に行ったほうがいいわ。
 聖、あなたは私と少しお話に付き合って。 すべてを話すわ。
 祐巳ちゃんと志摩子はあとで聖から話を聞きなさい。 今は質問は無し。 さぁ、急いで」

 江利子は、志摩子を伴い広間の中央部に向かう。
 祥子と祐巳はまた一階上に登ってゆく。

 蓉子は聖と共に江利子と志摩子から離れた場所へ移動する。

 聖は蓉子を問い詰めたかった。 しかし蓉子は言うべきときに言う。 
 長い付き合いだ。 それがわかっているから聖は黙って蓉子の後に従った。



「蓉子、時間が無いって・・・。 あと何時間残っているっていうの?」
「あと2時間を切ったわ。 それまでに祐巳ちゃんと志摩子はやるべきことをする。
 あなたは私の話を聞いて」

「うん、わかった。 残り時間の理由も含めて、私が納得できるように。 頼むわ」
「そうね。 でも途中で大声を出さないでね。 志摩子の集中力を切らしたくないから」

 蓉子の話が始まる。
「まず、ソロモン王と72柱の魔王の関係について話すわ。
 ソロモン王は魔王を使役しているけれど、その支配の仕方が3種類あるの。
 まず第1は、魔王自身がソロモン王を尊敬する、とか信頼する、とか、考え方に共感するなどで、自ら服従していた場合。
 第2は、ソロモン王の力に屈服し、力で支配されていた場合。
 第3は、魔王の精神をすべてソロモン王が支配し、魔王には意志がなくなっている場合」

「まさか、その第3って・・・」

「あなたも見たのでしょう? 令と由乃ちゃんの背中に浮き出したと言うヒトデのような五芒星。
 それが浮き上がった場合、その者は精神さえすべてソロモン王に支配される。
 自らの意志がなくなった状態であなたたちを襲ったのよ。 令は」

「令は、ソロモン王に無理やり服従させられた、っていうのね?! どうして?」

「たぶん、由乃ちゃんが瀕死の重症を負った、ってところでしょうね。
 まず間違いなく ”アスタロト” との戦闘が原因。 私たち3人でアスタロトを追い詰めたけど、他の魔王たちに邪魔されて取り逃がしたのよ。
 令と由乃ちゃんはアスタロトと戦って倒している。 きっとそのときに由乃ちゃんは大怪我をした。
 そしてその瀕死の由乃ちゃんを死なせないですむ方法を令は一つだけ知っていた」

「それがソロモン王に無理やり服従させられた、っていうのとどう繋がるの?」

「令はね。 その時すでに 『永遠の若さ、永遠の生命』 を手に入れていたのよ。
 由乃ちゃんにも、『永遠の若さ、永遠の生命』 を与えてもらうことで死なせないようにした、ってとこでしょうね。
 ふふっ・・・。 令らしいわ。
 でも、多分・・・。 由乃ちゃんの怒る姿が眼に浮かぶようだわ。
 『令ちゃんのバカー』 ってね」

「つまり、令は・・・」

「令は、自らソロモン王に忠誠を誓うことで由乃ちゃんが助かればいい、と思ったのよ。
 でも、由乃ちゃんの性格だもの。 それを良し、とはしなかった。
 きっと、最後の最後までソロモン王に戦いを挑んだんでしょうね。
 そして、令も一度は忠誠を誓ったソロモン王を裏切った。 その結果が、あの姿、ってことね」

「なんてこと・・・」

「そう。 酷い話よね。 それと、あなた達がここまで来る間に倒した魔王たち。 それは大体が第1か第2の理由でソロモン王に従っていた魔王ね。
 意志を支配されていた魔王たちは、自分の割り当てられた部屋に残るか、このフロアに集められて私たちと戦ったのよ。
 その数はここで48体、この上のベルゼブブ、それと最初あなたと倒した4体、その53体ね。
 魔王のほとんどはソロモン王に忠誠を誓っていたのではなく、無理やり支配されていた、ってことね」

「その他の魔王は?」

「あなた達が倒した8体と、マルバス、それに令が倒した7体、これは私たちから逃げ出したりソロモン王の招集に応じなかったと言う事。
 あと、側近の二人はソロモン王の信頼が厚いことから見て絶対の忠誠を誓っていると見て間違いないわ」

「ちょっと・・・。 おかしくない? その合計数は71だよ。 1体少ないじゃない。 それはどうしたの?」

「令と由乃ちゃんに取り付いて支配した魔王。 ”ブエル” よ。
 ブエルは精神を支配する。 洗脳を最も得意とする魔王。 ソロモン王の野望はブエル無しでは出来ないでしょうね」

「その ”ブエル” は今どこにいるの?」

「もともと、精神まで支配していた魔王たち、それに令と由乃ちゃん、それぞれにブエルの分身が潜んでいた。
 でも、もう分身は3体しかないはずだわ。 その3体を倒せば ”ブエル” の最後ね」

「じゃ、ソロモン王と戦う前にまずその ”ブエル” を探し出して倒さないといけないってこと?」

「そうなるわね」

「うわ・・・時間が無いじゃない! ・・・・・え? ・・・・・えぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 ふふっ、と笑みを浮かべる蓉子。

「ようやく気がついたかしら?」

「嘘だ・・・。 嘘だーーー!!!」 絶叫を漏らす聖。

「ねぇ、聖。 あなたも 『永遠の若さ、永遠の生命』 を手に入れたくは無い?
 わたしとあなた、江利子も居るわ。 あなた、志摩子のこと好きでしょう? それに祥子と祐巳ちゃんは似合いの姉妹よ。
 みんなで 『永遠の若さ、永遠の生命』 を手に入れてここで楽しく暮らさない?」

 それまで厳しさに満ちていた蓉子の顔が急に慈悲深いものに変わる。
 まるで聖母のように微笑む蓉子。

「そうか・・・。 おかしいとは思って居たんだ。 この瘴気の満ちたピラミッドの中であなた達三人は3日も過ごしている。
 祥子は一回も瘴気を払う呪文を唱えなかった。
 飲まず食わずで・・・。 魔王たちを60体も倒して・・・。 そうか・・・。 蓉子たちも化け物になったのか・・・」

「あら、化け物は酷いわね。 すでに魔王を超えた存在なのよ? わたしたちは。
 望めばあなた達もそうなれる。 悪い話ではないはずよ」

「蓉子・・・。あなた江利子のお兄様がなぜ死んだと思ってるの?! 栄子センセが私たちに何を託した?!
 そんなことさえ忘れてしまったと言うの?!」

「死んでしまった人たちはもう生き返らないわ。 でも私たちは生きている。
 それなら、生きているわたしたちはよりよい未来を作るために努力すべきじゃないかしら?」

「何を・・・。 あなた何を言っているの?」

「ソロモン王はね、生きている間は最高の王だった。 でも、国民は国のことも省みようともせず堕落していった。
 ソロモン王の死後、彼は堕落した王、として歴史書に書かれることになった。
 変よね? 「成功のバイブル」もソロモン王の業績を褒め称えているのに。
 堕落した国民が彼を絶望させたのよ。 でも、今回は違う。 素晴らしい国民による素晴らしい国を作るの」

「・・・。 蓉子らしくも無い選民思想だね。 反吐が出る」

「山百合会だって同じことじゃない。 私たちだけががんばっても良いリリアンにはならない。
 生徒みんながリリアンのことを考え、リリアンを素晴らしい学園にしようとしてはじめていい学園になるのよ」

「それとこれとは話が違うでしょ!」

「最後まで話を聞きなさい。 いい? 私たちはソロモン王に選ばれて 『永遠の若さ、永遠の生命』 を与えられる。
 ソロモン王に任せていたら、あなたの言うような反吐の出る選民思想の溢れかえった世界になるわ。
 でもね・・・」

 そこまで言って蓉子はにやり、と笑う。

「ソロモン王は傀儡にして 『永遠の若さ、永遠の生命』 を持った私たちがこの世界を統治するのよ。
 ソロモン王は殺せない。 だって殺しても復活するだけだもの。
 だから、殺さない。 私たちのために利用するのよ。
 いい? 私とあなたと江利子、それに祥子もいる。祐巳ちゃんも志摩子も。
 多分、望めば令に由乃ちゃんも現世からもう一度ここに連れてきて私たちの仲間にすることが出来るわ。
 私たちが統治する世界。 きっと素晴らしいものになる。 私は既にそのプランを持っているもの」

「まさか・・・。 本気なの?」

「言ったでしょ? 時間が無いって。 あと1時間少々でわたしは答えを出さないとならないの。
 ソロモン王に謁見する時間。 それが12時なのよ。 そこがタイムリミット。
 あなたが私の言葉に頷いてくれたらわたしたちはこれから先もずっと親友で居られるわ。
 でも、反対するのなら・・・。 そうね、あなたを倒してソロモン王の前に引っ張っていこうかしら?」

「蓉子。 あなたの言いたいことはわかった。 
 でも、最後に質問させて。 どうしてあなたは私と祐巳ちゃんと志摩子にソロモン王を倒す手段を教えたの?」

「あら、決まってるじゃない。 あなたが私との袂を分かち戦うと決めるかもしれない。
 その場合、私たち3人を倒した後で途方にくれないように作戦を考えたのよ。
 ・・・私を誰だと思っているの? 『リリアン史上最高の軍師』 といわれた水野蓉子なのよ」

「あなた・・・。言っている意味がわからないよ! あなたは生きる気なの? 死ぬ気なの?」

「ねぇ、聖。 「生と死」 って何だと思う?
 もうすぐ・・・。 水野蓉子の人間としての生は終わるの。 いえ、『永遠の若さ、永遠の生命』 を手に入れたときからわたしは既に死んだのかもしれない。
 わたしは、生きている間は 「生」 にしがみつくわ。
 生きる、ってことはね、自分の意思で生きること。 そして大事な人に忘れられない記憶を残すことだと思うの。
 大事な人から忘れ去られたときに私は本当の 「死」 を迎えるんだわ。
 私はあなたから憶えていて欲しいの。
 あなたのことが好きだった女の子が居た、ってことをね」

 蓉子は怒りに震える聖の顔を見ながら微笑む。

「しかたないわね。 いい? このままわたしとあなたがソロモン王の前に行ったとして、あなたはソロモン王を倒そうとする。
 その時、私はどうなっていると思う? 令のように意志を支配され、すべてを忘れてあなたを殺そうとするわ。
 ねぇ。 その時の私は、生きているって言えるかしら?」

 聖の眼に涙が溢れ始める。

「嫌だ・・・。 嫌だよ。 蓉子・・・。 あなた今自分で言ったじゃないの!
  『リリアン史上最高の軍師』 なんでしょ?! なんとかしなさいよ!」

「本気でソロモン王を倒しに行く気があるのならわたしたち3人を殺して行きなさい。
 わたしも江利子も祥子も覚悟は出来ている。
 あとは、もう一つの方法だけ。 わたしたちと同じ 『永遠の若さ、永遠の生命』 を手に入れてこの世界に君臨するかどうか。
 もう、その二つの選択肢しか残っていないわ」

 蓉子の言葉を聞いた瞬間、聖はその場にくず折れ嗚咽を漏らす。

「よく考えて頂戴。 あと1時間しかない。 泣いていてもはじまらないわよ」

 蓉子は聖に背を向けると、 秘技『影縫い・五色龍歯』 を特訓中の江利子と志摩子のもとに向かった。



「伍絶切羽っ!」
 と、なぜか志摩子の声で。
「ん〜ダメね。 やはり動くものに当てるのは厳しいか」
 こんどは少々がっかりしたような江利子の声。

「何をさせてるの?」
 蓉子が江利子に近づきながら聞く。

「ん? どうせなら私の技を全部教えようかと思って。
 いちおう刹那五月雨撃まで教えたんだけどね。 伍絶切羽は無理ねぇ」

「ちょっと・・・。 私が頼んだのは 『影縫い・五色龍歯』 のはずよ? そっちはどうなの?」
「あぁ。 動かない的なら百発百中。 ちょっと見てみる?」

 江利子は、地面に長さ1mほどの×印を描く。

「この×印の4角と中央のクロスしたポイント。 この5箇所に当ててみなさい」
 そう言いながら×印の前に立つ。

「わかりました」
 と、志摩子は答え、腕のリストバンドに5本の鏃を装着する。
 そして、×印を背にした江利子に30mほど離れて『ホーリー・バースト』を構える。

 江利子の体で×印は完全に隠され、志摩子からは全く見えない。
 この状態で撃てば間違いなく江利子の体を貫通することになる。

「『影縫い・五色龍歯』っ!」
 志摩子の放った白い精神弾は江利子の体を迂回し、その後ろに描かれた印に寸分の狂いもなく命中する。

「ね。 見てのとおり。 志摩子の精神弾は思ったままに軌道を変えられるのよ。
 私のホームング機能とは違うけど、これはこれでなかなかの優れものよ」

「うふふ、いい後継者ができたじゃないの。 これですべてのパーツが出そろったわね」

「あら? 祐巳ちゃんと祥子の麻痺薬がまだよ? そっちの心配はないの?」

「まさか。 あの二人が組んでいるのよ。 麻痺薬なんてすぐに出来上がっているはず。
 なのに、まだ帰ってきていない、ってことは祥子の説得が長引いているかもう戦っているか、のどちらかでしょうね」

「祥子と祐巳ちゃんが戦うなんて考えられないけどね。 祐巳ちゃんが逃げ回ってるだけじゃないかしら?
 まぁ、こっちは向こうでヘタレている聖をその気にさせればいいだけね」

 急に物騒な話をする蓉子と江利子。
 志摩子は二人の言っている意味が理解できない。
 『聖』、という言葉が出たので探してみると、遠くで蹲っている聖が見えた。

「ロサ・キネンシス! 聖様に何をしたんですか?!
 それに祥子様と祐巳さんが戦う、ってどういう事ですか?!」

「言ったとおりの意味よ。 この上で祥子と祐巳ちゃんは戦っている。 言っておくけど模擬戦じゃないわよ。
 命をかけた戦いをしているの。
 そして、こっちはこっちでそろそろ戦いを始める時間。
 聖の相手は江利子に取られちゃったから、あなたの相手は私がするわ。 両手剣の極意を教えてあげる」

「なんで戦わなくちゃならないんですか!? わたし蓉子様と戦いたくなんてありません!」
 志摩子の瞳に動転の色が浮かぶ。
 それはそうだろう。 ここまで信頼しきっていた蓉子が自分に牙をむける。

「もう説明は面倒だから。 そうね、私は魔王に乗っ取られたのよ。 だからあなたを殺す。 私を殺さないとあなたは生き残れないわよ。
 祥子も魔王に乗っ取られたの。 だから祐巳ちゃんは祥子と戦っていてここに来れない。
 聖は・・・。 私たちが魔王に乗っ取られたのを知ってショックで落ち込んでるのよ」

「嘘! 嘘です! さっきまでロサ・フェティダ、わたしに自分の技を全部教えてくれたじゃないですか!
 それに蓉子さまだって、あんなに素晴らしい作戦を考えてくださったのに!」

「そうね。作戦はあのとおり行えば大丈夫よ。 もっとも、私たちを倒さない限りできないことだけどね」

「蓉子、どうせ時間をかけても同じなんでしょ? もう攻撃してもいいかしら?」

「えぇ。 聖は答えを言わなかったけど、心の中はもう決まっているわ。
 それに祐巳ちゃんも、結局私たちと戦うことになる。 志摩子は祐巳ちゃんに従う、と決めている。
 だから、わたしと志摩子は戦わなくちゃいけない。 結局、結論はこうなるのよ」

「だったらあんなに聖を悩ませなくてもいいのに。 酷い人ね、蓉子」

「私の自己満足かしら。 もっと聖の心に私を刻みつけておきたかったのよ。 でも・・・。もう頃合いね」

「じゃ、いくわね。 口火は私が切るわ。 ・・・何時ものとおり、ね」
 フッ、と笑いながら江利子が言う。

「こっちを向きなさい! 『アメリカ人!』 ボヤボヤしてると死ぬわよ!」

 江利子の放った矢が聖に迫る。



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