【とばっちり】
会議室にマリみてのキャラクターが勢ぞろいしていた。
「やられたことはやりかえーすっ!!」
前回【No:3391】詰め合わせされた蓉子さまはやさぐれてしまわれた。
「ふっ、『がちゃがちゃSS掲示板』は管理人さまを筆頭に『祐瞳派』揃い。キーは『ドリル』ばかりで今だに『眼がくらみます』が引けないやつに都合よく『佐藤聖』キーが引けるはずがないわっ!」
聖さまは余裕の表情である。
「何言ってるのよ。『エロ・ギガンティア』だの『性さま』キーだの強引にこじつけて詰め合わせてあげるわっ」
――がちゃがちゃがちゃがちゃ……
「普段は冷静な方なのに……ここまでやさぐれるほど『詰め合わせ』はハードなのかっ!」
令さまがおののく。
――がちゃがちゃがちゃがちゃ……
「年間投稿数が70本を軽く超えてしまいそうだから投稿本数の節約のために詰め合わせてるのよ。もう、病的な作者の依頼が一回で済むと思えば却って楽かも」
江利子さまが悟りの境地に達した。
――がちゃがちゃがちゃがちゃ……
「なんかキターッ!」
「何っ!?」
全員がのぞきこむとキーはタイトルの通り。
『志摩子の詰め放題何が出るかな?』
「蓉子さま、聖さまのキーを狙っていたのでは?」
「フン、妹が餌食になるのを指をくわえて見てらっしゃい!」
「いや、志摩子が可愛ければ私は別に――」
「おめでとう、志摩子」
……今の気持ちを例えるのであれば、ベンチに座っててすっぽ抜けたボールに当たって『デッドボールだから出塁しなさい』と言われた気分です。
【つぶやき】
由乃「志摩子さん、骨は拾ってあげるよ」
志摩子「由乃さん、『明日は我が身』って知ってる?」
【志摩子1/2】(『らんま1/2』の世界のノリで)
由乃さんに連れられて、志摩子は薔薇の館にやってきた。
「藤堂志摩子です」
中では薔薇さま方が待っていた。
「お呼びだてしてごめんなさいね」
「ちょっとお話をうかがいたくて。座ってちょうだい」
椅子を引いて、半ば強引に座らされてしまった。
「私たちの方も自己紹介が必要かしら」
「いえ、結構です」
席に着いた瞬間どういうはずみか知らないが、テーブルの上の花瓶が倒れて中の水が志摩子にかかった。
「あっ!」
「ああっ!」
「あああっ!」
「ああああっ!!」
カップの中身を浴びた志摩子は、五分刈りのガッチリした男に変化した。
「いったい、どういうこと?」
紅薔薇さま、黄薔薇さま、由乃さんが声をそろえて男を見る。
「そ、その前にお湯をくださいっ!」
「は、はい……」
恐る恐る由乃さんが差し出したお湯を被り、男は見る見るうちに志摩子に戻った。
「説明していただける?」
見られてしまった以上は仕方がない。志摩子は己の境遇を語った。
「私の父は私を伴い世界一周修行の度に出ていたのですが、ある時私たちは呪泉郷とよばれるところに辿り着きました。そこで私はうっかり『男溺泉』という昔男が溺れたという悲劇的伝説が伝わる泉に落ちてしまい、以来、水を被ると『賢文』になり、お湯を被ると『志摩子』に戻るという体質になってしまったのです」
「落ちた直後に『娘溺泉』につかればよかったのに」
「『娘溺泉』は枯れてしまって、似たような効果のある泉を求めて日本に戻ってきたんです」
「それはそれは」
「なんというか」
その時、乱暴に扉が開いた。
「何やってるのよ!」
白薔薇さまがすごい形相で現れた。一瞬だけ場の空気が凍ったが、紅薔薇さまが流しに向かって二つのカップを持ってきて、にやりと白薔薇さまの顔を見て笑った。
「よく見てなさい」
始めに水をかけられた。見る見るうちに志摩子は賢文になってしまう。
「なっ!?」
驚く白薔薇さまをよそに紅薔薇さまは賢文にお湯をかけた。すると今度は志摩子に戻る。
「こういう体質の子を放っておいたら大変なことになっちゃうでしょう? だから、山百合会で責任を持って保護することにしたの」
白薔薇さまはもの凄く志摩子のことを見ている。
「誰かを志摩子のお姉さまにして責任を持って監督してもらおうと思っていたのだけど」
「白薔薇さまに決定よね」
黄薔薇さまと紅薔薇さまが言う。
「勝手に何をっ!?」
「姉妹になった方が都合がいいでしょう? 私たちには既に妹がいるし、他に妹がいないのは祥子もだけど、祥子は男嫌いだし」
「じゃあ、お願いね。白薔薇さま」
「そんなの認めないっ! 出てって!! 出てってよっ!!」
白薔薇さまは泣きそうな声を張り上げた。
志摩子の高等部生活はまだ始まったばかり。
〜続けたくない〜
【つぶやき】
聖「この発想はいらなかった」
乃梨子「なぜ思いついたし」
【乃梨子がノリノリ】【No:3026】の続編なのだが、自サイトで続けたから辻褄合わないわもたもたしてるうちにネタ被るわそれをここで書くと微妙にネタバレになるわなんていうかアイタタタ……
四月。藤堂志摩子はぼんやりと講堂裏の一本桜を眺めていた。
白薔薇さまになってしまった以上、妹を持たなくてはならない。しかし。
志摩子は忍者集団『犬』の一員として現在小笠原家の娘祥子さまに仕えている身。カタギの世界の妹は望めない。
(どうしよう)
桜ばかり見てたって解決しないのはわかってはいるのだが見てしまう。いわゆる現実逃避というやつである。
(……瞳子ちゃんが呼びにきた? いいえ、この気配は一般生徒のようでもあるわ)
他人の気配に気づき、志摩子はゆっくりと振り返る。
そこには日本人形のような少女が立っていた。
それが二条乃梨子との出会いであった。
二、三会話を交わしたが、とても心地よい。まるでずいぶん前から二人は知り合いだったような気さえする。
(私が普通の生徒であれば、あの子を妹にできたのに……)
叶わぬ望みにため息をつき、志摩子は祥子さまの元へと戻った。
薔薇の館では祥子さまといつもの仲間がいる。
「お嬢、一般生徒とお近づきになっていましたが、妹にでも?」
配下の瞳子ちゃんが聞いてきた。
「瞳子ちゃん、学校では誰かが見ているかもしれないからその呼び方はやめて頂戴」
志摩子がそういうと、瞳子は肩をすくめた。
「志摩子さん、妹は普通の子にするの?」
由乃さんが聞いてくる。
「そんな危険なことはできないわよ」
「じゃあ、瞳子ちゃんを妹に?」
祐巳さんに聞かれ、瞳子ちゃんの顔を見る。
「それだけは、なしね」
瞳子ちゃんはがくっ、とずっこけた。
「でも、表向きは『白薔薇さま』なのだから妹は作らなくてはならないのよ」
祥子さまが言う。
「そ、それは……」
視線をそらした。
「一般人を妹にしない、かといって瞳子ちゃんを妹にしないとなると、見ず知らずの裏社会に通じた生徒を探すということになるけど、あなたにそれができるの?」
「うっ」
「それに、そういう子の身元保証は大丈夫なの?」
「ううっ」
「私の身辺を任せるのだから、身元のしっかりとした裏社会の生徒を選んでちょうだいね」
おっしゃりたい事はわかるが、目茶苦茶です。
「はあ〜」
翌日。また現実逃避のため昨日と同じ場所に足を運んだ。
「ごきげんよう」
一本桜の下で昨日の日本人形の子が微笑んでいた。
「ごきげんよう」
たくさんの会話を交わしたわけではなかったが、彼女と一緒にいると心が落ち着く。だが、ふと現実に戻されるとこの子と一緒にいるのはかなわない夢だと思い知らされる。
(私が『犬』でさえなければ……ああっ、もう!)
悶々とした思いを抱えながら、それでも志摩子は日本人形の彼女のことが忘れられなくなっていった。
「……志摩子さん、彼女を妹にするのかしないのか、そろそろ本当に考えた方がいいと思うよ」
ある日の放課後、祐巳さんと二人きりになったときにそう言われた。
「私だって、裏社会のことなんか何にも知らなかったけど、なんとかなってるし。いざって時は――」
「あの子は巻き込みたくないのっ!」
自分でもびっくりするほどきつい物言いになり、志摩子ははっと我に帰る。
「……ごめんなさい」
「ううん、大丈夫。気持ちはわかるから」
祐巳さんはそれ以上この話題を持ち出さなかった。
有効な解決策が見つからないまま新入生歓迎会の日がやってきた。
「新入生の皆さん、おめでとう!」
お聖堂でおメダイの授受が始まった。
「マリア様のご加護がありますように」
狙われやすい祥子さまはいつでも逃げ出せるように出口側にし、不穏な動きをする新入生がいないか気を配る。もちろん、要所要所には小笠原私設軍や『犬』の構成員を配置してある。
――ピピピピ!
ポケットの警報機が鳴った。
それは侵入者があったことを知らせる合図だった。
「何っ!?」
「緊急事態発生! 生徒を速やかに避難させます!」
祐巳さんと瞳子ちゃん、それに志摩子で祥子さまをガードし、令さま、由乃さんが「火事」ということにして一般生徒を避難させる。
いつもの端末を取り出しチェックすると、キリスト教に反対するテロリストがテロの標的としてリリアンを選んだという連絡が入っていた。
四人は薔薇の館に避難した。
「今度の相手はテロリスト……聖さまと蓉子さまに連絡は?」
「お姉さまは外で交戦中。蓉子さまとは今だ連絡が取れず、江利子さまが『JFK』を出撃させるも到着までにはあと7分!」
「うう、それまで私だけで持ちこたえられないよう」
祐巳さんはアサルトライフルを手に一階に待機する。瞳子ちゃんが窓から様子を見ている。
「……志摩子」
祥子さまが呼びかけてきた。
「何でしょうか、祥子さま」
「この、テーブルの上にあるものは何?」
「はい?」
テーブルの上にあったのは一振りの太刀、「二条流秘伝」と書かれた巻物であった。
「なんでしょう、ね?」
「『何でしょうね』じゃないわよ。こんな和風なもの持ち込むのはあなたたちじゃないの? 第三者がこんなものを持ち込んだとしたら、ここのセキュリティはどうなってるわけ?」
薔薇の館のセキュリティ担当は祐巳さんですよ。なんて祥子さまにいっても聞きそうにない。
「む!?」
瞳子ちゃんが声をあげ、するすると天井裏に上っていった。
「ぎゃふん!」
天井裏で声がして、それから、どさり、と何かが落ちてきた。志摩子は祥子さまをかばうように立つ。
「いたたたた……」
それは茶髪の青年であった。それを瞳子ちゃんがしっかりと押さえこんでいる。
「なんで女子校の生徒会本部の屋根裏に茶髪男がいるのよっ!」
金切り声で祥子さまが突っ込んだ。
「大人しく吐きなさい。さもないと――」
と、瞳子ちゃんは【がちゃがちゃSS掲示板の規制に引っ掛かる行為のため描写できません】して【そんなこと二次創作でも書いちゃいけません】して【作者、いい加減にしなさい】した。
「言います! 言います! ですから、これ以上はやめてくださいっ!!」
泣き叫びながら男は語りだした。
「私は神代の時代より伝わりし暗殺の二条流宗家の家元にお仕えする身なのです」
「何よそれ。暗殺って茶道や華道みたいな伝統芸能の一種なの?」
祥子さまが聞く。
「その辺をこれ以上語ると粛清されてしまいますので勘弁してください! ともかくその宗家の跡取りがこちらの学校に通っていまして、次期家元に相応しいか今日、試練を行うことになっていたのです」
じっとりとした目で見ながら瞳子ちゃんが促す。
「試練って?」
「敵をかいくぐり、そこのテーブルの上にある家元の証の太刀と秘伝書を見つけ出すことです」
「ちょっと待って。じゃあ、跡取りはここへ来ちゃうの?」
志摩子は確認する。
「そういうことになります」
「よそでやりなさいよ、そういうの」
ムッとして祥子さまが言う。
「それは、そうですが……」
「じゃあ、この攻めてきている敵はあなたたちの仕業なの?」
もう一つ志摩子は確認する。
「いえ、これは縁もゆかりもないテロリストです!」
きっぱりと男は言った。
「ちょっと、こういう状況でそういうややこしいことされると困るのよ。どうしてくれるわけ?」
と、瞳子ちゃんが言うと。
「……どうしましょう?」
「あなたが何とかしなさいよっ!!」
三人は一斉に突っ込んだ。
「ひいいっ! そんなに責めないでくださいっ!! こっちだって、あんなのが攻めてくるなんて思わなかったんですからっ!」
「知らないわよ、そんな事」
「とにかく、あなたにはその跡取りに連絡を取ってもらいましょうか?」
「わ、わかりましたっ!」
叫ぶと、男はなんと窓から飛び降りた。
「……逃げた」
「ちょ、ちょっと! 逃げるなら太刀と秘伝書持っていきなさいよっ!」
「あ〜」
窓の外を覗いてみると、令さまと由乃さんがテロリストと交戦していたが、逃げた男は由乃さんが吹き飛ばしたテロリストの下敷きになって気を失っていた。
「本当に使えないわねあの男」
「あれって、存在自体が粛清対象になるのでは?」
なんて暢気なことを言っていたら、次の瞬間、信じられないものを見た。
「え?」
由乃さんたちに銃撃しながら、志摩子と親しくなった日本人形のような子が歩いてきたのだ。
「あれは――」
「乃梨子さん!」
瞳子ちゃんが叫んだ。
「誰?」
祥子さまが誰何する。
「クラスメイトの二条乃梨子さんです! 今年の首席入学者で、お嬢が最近よく会っている生徒でもあります」
「なんですって!」
ハッとして巻物を見ると「二条流秘伝」の文字が確認できた。
「彼女が、跡取り……」
二条乃梨子は拾った銃で敵を一掃しながら移動していた。
「さすが家元への試練。今までの試練とは違って本気にさせてくれますね。まあ、これぐらいでなくては張り合いがありませんが」
「覚悟っ!」
黄薔薇のつぼみといったか、三つ編みの生徒が襲いかかってきた。
「やれやれ。失礼します」
俊敏な蹴りを受け止めると、乃梨子は懐から取り出した針を脚に打った。
「な、何っ!?」
「眠っていただくだけです。命はいりません。依頼されてませんから」
斜め後ろから迫る斬撃の気配を感じ、彼女を盾にしてそれをかわす。
「な、何っ!?」
襲ってきたのは間違っていなければ黄薔薇さまだった。ご自身の妹にクリティカルヒットさせて狼狽している。
「こちらも失礼」
吹き矢で首筋に針を当てた。しかし、感触がおかしい。
「おや」
「悪いけど、脳以外は機械なんでね。この程度じゃ倒されないよ」
「ああ、サイボーグですか。お教えいただき感謝します」
乃梨子はスタンガンを使った。
「ぐあああっ!」
黄薔薇さまは膝から崩れ落ちた。回線がショートしたらしい。
何か、飛行音のようなものがしたので上を見ると、ラジコン飛行機がごつくなったようなものが飛んでいた。
「お」
落ちていた銃を拾って乃梨子はそれを……投げつけた。
「意外と当たらないものですね。じゃあ、これでどうでしょう?」
次々と乃梨子は辺りに落ちていたものを放り投げると飛行物体は器用に避ける。
――ガン!
飛行物体に命中したのは投げつけた物体に混じっていたただの石であった。コントロールを失った飛行物体はよろよろと墜落した。
「……黄薔薇、役に立たないわね」
薔薇の館で様子を見ていた祥子さまはイライラしたように吐き捨てた。
「ハイテクはアナログに弱い、って本当ですね」
瞳子ちゃんがじっとりとした目で見ている。
「……志摩子。あなたは乃梨子さんと最近親しくしているのよね?」
祥子さまが切り出した。
「え、あの……」
どう返事をするべきか志摩子は迷った。
「じゃあ、この太刀と秘伝書を乃梨子さんに渡してお引き取り願いなさい。知り合いならいきなりざっくり殺されたりはしないでしょう?」
「へ?」
「間の抜けた返事はおよしなさい。テロリストは祐巳とお姉さまでなんとかするから、あなたは乃梨子さんをなんとかなさい! あなた忍者でしょう? 忍法なんとかとかハニートラップとか使って何とかできるでしょう!!」
そういって祥子さまは太刀と秘伝書を志摩子に渡してきた。
「で、でもっ」
「何が『でも』なのっ……そうねえ、瞳子ちゃんを妹にして、お姉さま権限で役目を譲るというのであれば認めましょう。でも、それ以外は許さなくってよ!」
「そ、そんな!」
「次にやられるのは祐巳なのよっ! 令と由乃ちゃんをあっさり倒すような化け物に祐巳が勝てると思って!?」
それは無理だ、と志摩子は理解した。
「お嬢、こうなったらロザリオを――」
「わかりました。今すぐ彼女に渡してまいります!」
志摩子はずっこける瞳子ちゃんを無視して太刀と秘伝書を持って二階を出て、祐巳さんに後を頼んで外に出た。
乃梨子は驚いた表情をしたが、志摩子の持っていた太刀と秘伝書を認めると微笑んで近づいてきた。
「なるほど。さすが家元」
「あの――」
次の瞬間、志摩子の首に乃梨子の両腕が回された。抱きついてきたと理解するまでにちょっとかかった。
「ありがたくちょうだいいたします」
耳元でそうささやかれた後、志摩子はゆっくりと側の茂みに押し倒された。
その数分後、蓉子さま率いる小笠原私設軍が到着し、祥子さまは無事に脱出された。
翌日、薔薇の館。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんようっ!」
祐巳は驚いた。昨日、暴れまくっていた二条乃梨子が薔薇の館でにこやかにお茶を入れていたのだ。
「どどどどどどど」
道路工事で穴を掘っていた祐巳をよそに志摩子さんが静かに言った。
「乃梨子、ご挨拶なさい」
「はい。昨日、藤堂志摩子さまよりロザリオをいただきまして妹となりました二条乃梨子と申します。新参者で不調法もあるかと思われますがどうかご指導ください」
丁寧に乃梨子ちゃんがお辞儀をした。
「こ、これはご丁寧に。小笠原祥子の妹の福沢祐巳です」
どういうこと? というようにあたりを見ると、「まあ、深く気にしないように」という生温かい視線が返ってきた。
「あの、志摩子さん?」
「ノーコメント」
「……は?」
「ノーコメントよ、祐巳さん」
それにより志摩子さんがどんな手を使って乃梨子ちゃんを手懐けたのかは永遠の謎となったのだった。
【つぶやき】
祥子「ところで、台本に書いてあった『ハニートラップ』ってどういう意味なのかしら?」
志摩子「ノーコメントです」
【定番の精神入れ替わりあなたが私で私があなた島津志摩子】
朝目覚めると見知らぬ天井があった。
ああ、またやってしまったのかとため息をつく。
電話の音がする。誰からかかってきたのか理解できたが、生憎私はこの家の電話の場所を知らない。
まもなく扉がノックされ、由乃さんのお母さまが顔を見せた。
「由乃、起きてる? 藤堂さんから電話だけど」
「あ、はい」
由乃さんのお母さまは私に子機を手渡すと部屋を出ていった。
「由乃さんね」
『志摩子さん? 志摩子さんなの? 私、朝起きたら志摩子さんになってて、お寺にいて、その、それで――』
毎度おなじみの『動揺した志摩子の声』が聞こえてきた。
「由乃さん落ち着いて。私たちは今、精神と肉体が入れ替わっているの。つまり、私は島津志摩子で、由乃さんは藤堂由乃さんってところかしら」
『ええっ、どういうこと?』
「詳しくは学校で説明するからそろそろ身支度をして学校に向かってちょうだい。そうしないと遅刻してしまうわ」
『あの?』
「住居の門から出て、古い塀沿いにある下り坂を通ると大通りに出るから、すぐそばにあるバス停からH駅行きのバスに乗って、電車でM駅まで出れば大丈夫」
『志摩子さん?』
「H駅行きはそのバスを逃すと30分後になってしまうから、お願いね。こっちも身支度して学校に行くわ。詳しいことは学校で」
『志摩子さん!?』
私は藤堂由乃さんからの電話を切った。
特異体質とでもいうのか、私はたまに他人の肉体と精神が入れ替わってしまう事がある。こちらは慣れているが向こうはほとんどが初体験。今日のようにオロオロして電話をかけてくる相手に電話だけで説明するのは非常に難しく、とにかく落ちあうことにしている。
「……毎回毎回他人の部屋のタンスを開けて下着を探すのって抵抗あるわね」
「由乃」
不意に部屋の扉が開いた。令さまが現れた。
「何やってるの、由乃。今日は剣道部の朝練があるから早く出るって言ったじゃない」
「え……あ、ああ」
「早く支度するよ。脱いで脱いで」
令さまは慣れた様子で引き出しから由乃さんの下着などを取りだした。
「ほら、何モタモタしてるの。も〜」
といいながら、令さまは私のパジャマの前ボタンをパパパと外して脱がせ、ズボンとショーツを一緒に下ろした。
「ちょっ」
「急がないと、由乃っ」
いきなり全裸にされ叱られる。ショーツに手を伸ばすと、令さまが私にブラジャーをつけ、キャミソールを被せるように着せてくる。
「何やってるの、ほら、ここ引っかかってる」
腕を引っ張られ、肩ひもを直しているとペティコート、それが終わると制服を着せられ、タイを結んでいる間に令さまがソックスをはかせて三つ折りにまでしてくれた。
「じゃあ、下行くよ」
鞄二つと私を持った令さまは飛ぶように一階に下り、私が歯磨きをしている間に由乃さんのトレードマークの三つ編みにしてくれる。
「令ちゃん、これ」
由乃さんのお母さまがおにぎりを差し出す。
「じゃあ、行くよ」
口におにぎりを詰め込まれると、令さまは手を引いて私を玄関に連れていく。のどが詰まりそうになっていると令さまの片手にはペットボトルがあって、今度はお茶で流し込まれる。
「いってきまーす」
「気をつけるのよ」
口と足を同時に動かし学校に向かってダッシュして、校舎が見えたあたりで令さまはストップした。
「もう、MHの最新作だか何だか知らないけど、これに懲りたら今日から早寝してね」
と言いながら、令さまは慌てて出てきた証拠などないか確認し、曲がっていたタイや乱れたプリーツを直すと今度はリリアンの生徒らしく優雅に歩き始めた。
「ごきげんよう、黄薔薇さま。黄薔薇のつぼみ」
「ごきげんよう」
爽やかに微笑んで、令さまは挨拶する。
「ごきげんよう」
私も同じように挨拶して後に続く。
背の高い門をくぐって銀杏並木を歩き、マリア様にお祈りを済ませると令さまが言った。
「じゃあ、私は時間ずらしてから行くから、先に行ってて」
「あ、はい」
何をどうするのかは知らないが、とりあえず武道館に向かった。
「あれ、由乃さんが遅いって珍しいじゃない」
彼女は確か田沼ちさとさんだ。とりあえず荷物を置いてみなと同じように着替える。
「早く着替えないとみんな来ちゃうわよ」
今度は脱がされなかったけど、剣道着は初めてなので多少手間取る。
「ほら、防具つけないと」
どうしよう。防具のつけ方なんて知らない。
「ごきげんようっ!」
全員が一斉に大声で挨拶する。何事かと思ったら、令さまが現れた。
「ごきげんよう」
令さまは素早く剣道着に着替えた。
見よう見真似で私も防具をつける。
「ここっ」
呆れたように令さまがうまく縛れなかった私の防具の紐を引っ張る。
「す、すみませんっ」
側にいたちさとさんがそっと直してくれた。
「ちょっと、風邪でも引いてるの?」
「そ、そんなことは……」
「では、全員集合!」
令さまの号令で全員が正座する。
「礼」
一礼し、全員が竹刀を持った。
「素振り20回! いーち、にー、さーん……そこっ、力が入ってないっ!」
「は、はいっ」
注意されるが何が何だかよくわからない。
時計を見るとそろそろ藤堂由乃さんが到着する時間だ。
「ご、ごめんなさい。ちょっと」
私はなんとかその場を抜けてマリア像前に向かった。
「ごきげんよう、あれ、由乃さん。今日は何だか雰囲気が違うじゃない」
蔦子さんがシャッターを押しながら声をかけてきた。
「ごきげんよう。志摩子……さん、来なかった?」
「そろそろ来るんじゃないの? あ、あれじゃない?」
銀杏並木の方から全力疾走してくる藤堂由乃さんが見えた。
「ご、ごきげんよう」
「ごきげんようっ!」
お祈りをスルーして、藤堂由乃さんと私は薔薇の館に向かった。
「……なるほど、志摩子さんが入れ替わりやすい体質のはわかった」
藤堂由乃さんは私の説明を聞いて納得してくれた。
「で?」
「で、とは?」
「どうやったら戻るの?」
鋭い目で藤堂由乃さんは聞いてきた。
「自然に……」
「自然にって、何? まさか特に戻る方法がないから我慢しろっていうの?」
ピクリと藤堂由乃さんの眉が上がる。
「うん。後二、三時間で戻るとは思うのだけど」
「何のんきなこと言ってるのよっ! どうしろっていうわけ? 剣道部に出たんでしょう。だったら入れ替わってやってくのが無理だってなんとなくわかってるでしょっ!」
藤堂由乃さんに肩を揺さぶられる。
「そ、そんな事言ったって! 私だって私の意思で入れ替わっているわけではないの」
諦めたような顔になり、藤堂由乃さんは私を離した。
「仕方ないわね……じゃあ、剣道部の方はお腹が痛くなったとか適当なこと言って抜けちゃって。授業は同じようなものだからまかせる」
はあ〜っ、と大きなため息をついて藤堂由乃さんはそう言った。
その後、武道館に戻って言われた通りリタイアして二年松組に向かった。
「ごきげんよう」
祐巳さんが登校してきた。
「ごきげんよう」
「昨日の見た? もう、私は由乃さんと語りたくて仕方なかったんだから」
「ええと?」
私が聞き返すと。
「あれ、見なかったの?」
といって祐巳さんはドラマのタイトルらしいものをあげた。
「えーと、後で、と思ってて……」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、ネタバレになっちゃうからこの話は後でね」
あっさりと話題を引っ込め祐巳さんは荷物をロッカーに入れたりしている。
「あ、そうだ。忘れるところだった」
ポン、と手を叩いて、祐巳さんが私のところにやってきた。
「由乃さん。今日の放課後の会議の打ち合わせが昼休みにずれたからって」
それは昨日聞いていて、由乃さんには祐巳さんが、乃梨子には私から伝えておく手筈になっていたものだ……しまった、言い忘れていた。
「あれ、どこ行くの由乃さん?」
二年藤組。
「よし……志摩子さんを呼んでもらえる?」
藤堂由乃さんは私の姿を認めると何かあったかと思って飛んできてくれた。
「どうしたの?」
「今日の放課後の会議の打ち合わせが昼休みにずれたことを伝え忘れてて。お願い。乃梨子にも伝えてもらえる?」
ちょっと気が抜けたような顔をされてしまった。
「わかった。じゃあ、乃梨子ちゃんに伝えておくね」
「ちゃんと『乃梨子』って呼んであげてね」
「わかってるわよ。いつもの志摩子さんみたいにちゃんとやるから」
そのまま藤堂由乃さんは乃梨子の教室に向かってくれた。
二時間目と三時間目の間、教室移動の時にたまたま一年椿組の生徒たちと遭遇した。乃梨子が祐巳さんと一緒に歩いていた私を見つけて駆け寄ってきた。
「祐巳さま、由乃さま。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「あの、お忙しいとは思うのですが、ちょっと相談が」
「何?」
「どうしたの?」
きょろきょろと乃梨子は辺りを見回してから、小声で言った。
「お姉さまの様子がおかしいのですが、何かあったんでしょうか?」
「何か、って?」
ドキドキしながら私は聞く。
「なんて言うか……その……いつもと雰囲気が違うと言いますか……」
「だから、どうしたの?」
祐巳さんが促すと、乃梨子は意を決したように言った。
「いきなり教室に乱入してきて、私のことを抱きしめたかと思うと耳元で『放課後の会議が昼休みにずれたからって』囁くんです。お二人とも、何をそそのかしたんですか?」
と主に私を睨んできた。
由乃さん、私のことをどう見てるの? 私、そんなことやった覚えないのだけど。
「まあ、ごちそうさま」
それは違うでしょう、祐巳さん。
「私が聞きだしておくわ。あなたは教室に戻りなさい」
「呼びとめてすみませんでした。失礼します」
乃梨子は立ち去った。本当はすぐにでも二年藤組に行きたかったのだが、次の授業が迫っていたので授業が終わってから藤堂由乃さんを問い詰めることにした。
「……乃梨子に何をしたの?」
私は非常階段のところに藤堂由乃さんを引っ張っていって聞いた。
「いや、普通に」
不思議そうに藤堂由乃さんは私を見ている。
「普通? 教室に乱入して抱きしめられたっていってたわ」
「だから、志摩子さんたちなら、それくらい普通なんでしょう?」
「普通しないわよ。どうして抱きしめたりしたの?」
「……心当たりがないとでも?」
「え?」
意味あり気に藤堂由乃さんは唇の端を動かした。つまり、入れ替わっている間に令さまと何かあったと勘づいた藤堂由乃さんは意趣返しをしたということか。
「どうしてっ?」
「だって、こっちは入れ替わって苦労してるのにそっちは楽しそうじゃない。多少のお遊びがないとやってられないわよ。それより、そろそろ戻るっていってたけどさっぱり戻らないじゃないの。どうなってるの? 午後になっても戻らなかったら乃梨子ちゃん、もらっちゃおうかな」
「の、乃梨子は関係ないじゃないっ! お願いっ、乃梨子に変なことしないでっ!」
「変なこと? 乃梨子ちゃんが望んでいることをやってあげるだけよ。大丈夫。犯罪になるようなことはしないし」
「やめてっ!」
私は大声で叫んだ。
「乃梨子は私の大事な妹よっ! 誰にも渡さないわっ!」
「……ぷっ」
叫んだのは藤堂志摩子、目の前で突っ伏して笑っているのは島津由乃さん。
私たちは元に戻ったのだ。
「やっちゃったわね、志摩子さん……一年椿組は体育で外に出てるから、全部聞こえてるんだけど」
「ええっ?」
見ると体操着姿の生徒たちがこちらを見上げていて、ちょっと離れたところで照れている乃梨子を瞳子ちゃんがからかっている。
「二、三時間で戻るっていうからやってみたんだけど、計算以上にタイミングが合うとは……あははははは! どうするのよ?」
「……いいわよ。叫んでしまったことは取り消せないし、本心だもの」
がっくりと全身の力が抜ける思いだったが、何とか二年藤組の教室に辿り着いたのであった。
【つぶやき】
乃梨子「言いしれぬ凌辱感を覚えます」
由乃「前は誰と入れ替わったのかしらね?」
【中世物語風志摩子】(天に召されるダークネタです。ご注意ください)
むかし昔、とある地方を治める伯爵がいた。本当の名前は佐藤聖といったのだが、人々からは紋章にちなんで白薔薇伯と呼ばれていた。
白薔薇伯は交友関係が派手で、特に女性との浮名は絶えなかった。女領主の蓉子さま、騎士団所属の景さま、歌姫の静さまなど多数の女性と噂になっていた。
その地方の暗い森。
「志摩子」
「何でしょうか、祥子さま」
紅い衣の魔女祥子が志摩子を呼び寄せた。
「この地を治める白薔薇伯は多数の女性を泣かせる悪者。お灸をすえてやろうと思わない?」
「どういうことでしょうか?」
「あなたは白薔薇伯の家の召使として白薔薇伯に近づきなさい。そして、白薔薇伯が心を許したらこの薬を飲ませるのよ」
差し出されたのは小瓶に入った紅い薬だった。
「ちょっとお腹を壊して寝込むだけです。お灸にはちょうどいいでしょう」
紅い薬の正体は全て使えばこの地方の住民の半分は殺せるくらいの強力な強さの猛毒である。
「わかりました」
志摩子はそれを受け取った。暗い森に捨てられていた志摩子を助けたのが祥子で、その恩人の頼みという事もあり、志摩子は暗い森を出て白薔薇伯の召使になった。
「志摩子、そこの床の掃除をなさい」
「はい、婦長」
床を磨いていると、とても立派な方が通りかかった。
「おや、あそこにいるのは見かけない娘だね」
白薔薇伯は従者の令に話しかけた。
「お見苦しいものを失礼いたしました。新しく入った召使の娘です。どうかご容赦を」
召使は白薔薇伯の前で掃除をするような真似をしないのがしきたり。慌てて令が頭を下げる。
「いや、いいんだ。それよりあの娘の名前は?」
「白薔薇伯、まさか!」
娘の名前を訪ねるということは側に置きたいということを意味する。しかし、今回は身分卑しい召使が相手なので令は慌てる。
「名前は、と聞いている」
重ねて白薔薇伯に聞かれ、令は観念した。
「は、はいっ! 志摩子と申しておりました」
「ふうん、志摩子ね。志摩子。覚えておこう」
白薔薇伯は行ってしまったが、従者の令がやってきた。
「白薔薇伯のお目に留った。こちらに来なさい」
「私は掃除を――」
「白薔薇伯のご寵愛を受けられる者が床掃除をしている場合ではない」
志摩子は着替えさせられると白薔薇伯の前に出されて二人きりになってしまった。
「あ、あのう――」
「志摩子と言ったね。これからは私の側にいなさい。後は何もしなくていい」
そういうと白薔薇伯は昼寝を始めてしまう。
志摩子は紅い薬を取り出してみたが、今は使うべきではないとそれをしまった。なぜならば、白薔薇伯はとても気持ちよさそうな幸せな顔でぐっすり眠っていたからだった。
この日より、志摩子は白薔薇伯の側にいることになった。
避暑の館に向かうときも、狩り場に行くときも、王都に向かうときも白薔薇伯は志摩子を連れ出し側におく。
初めは戸惑うことが多かったが、白薔薇伯の優しさに触れるにつけ、志摩子は紅い薬を使いたくないと思うようになっていった。
「では、私は休ませてもらうよ。志摩子も休みなさい」
旅先の宿で白薔薇伯はいつものようにそういって寝入ってしまった。
志摩子も休もうとしたのだが、扉を叩く音がする。
「――」
扉の外には祥子の姿があった。
「何をモタモタしているの? 白薔薇伯はあなたに全てを許している。今ならいつでも紅い薬を飲ませることができるでしょう?」
祥子に迫られ、志摩子は迷った。
「何を迷っているの。できないというのであれば紅い薬を返しなさい。私が飲ませ――」
「おやめになって!」
志摩子は祥子の腕にすがって止めた。
「何!? ……そう、そういうことなのね」
祥子はじろりと志摩子を睨みつけた。
「今回だけはあなたに免じて見逃しましょう。しかし、白薔薇伯に私の最愛の人の命と私の魔力を奪った償いはしてもらうわ」
そういうと祥子はその場を立ち去った。どうあっても白薔薇伯に危害を加えるつもりかもしれない。
「どうしたの?」
何か気配に勘づいたのか、白薔薇伯が起きてしまった。
「なんでもありません」
「なんでもないのに、泣いているの?」
優しく白薔薇伯は志摩子の涙をぬぐってくれる。今あったことを伝えれば白薔薇伯は助けられる。しかし、それは恩人の祥子を窮地に追い込むことになる。
「……ごめんなさい、ちょっと……不安になっただけなんです」
そういうと白薔薇伯は志摩子をやさしく受け止めるように抱きしめてくれた。包まれて、志摩子は涙を流した。
何も知らない白薔薇伯は志摩子が落ち着くまでそうしていてくれた。
領主主催の仮面舞踏会が開かれることになった。
白薔薇伯は上等の衣装を身につけ、志摩子にも煌びやかなドレスを着せ、仮面をつけて大勢の来賓の前に出ていった。
「さあ、志摩子。踊ろうか。仮面をつけているから大丈夫」
エスコートされ中央に行くと舞踏曲が聞こえてきた。白薔薇伯にリードされ踊り出す。
「……!?」
曲の途中で何者かが近づいてきて、光るものが目に入った。
「危ないっ!」
考える間もなく志摩子はナイフと白薔薇伯の間に割って入った。
次の瞬間、胸は赤く染まり志摩子は倒れる。
「曲者だっ!」
「取り押さえろっ!」
「おのれっ!! 祐巳の無念を晴らせなかったとはっ!!」
騒然とする会場の中で、無事だろうかと志摩子は白薔薇伯を目で探したが、仮面がずれて何も見えない。
「志摩子っ!」
白薔薇伯の叫び声がして、志摩子は何者かに抱きかかえられた。
「白薔薇伯……ご無事で、よかった」
「よくないっ! 誰か、志摩子を――」
「顔を……」
「何?」
「最期に、顔を……見せていただけませんか……」
仮面が取り除かれ、目の前には志摩子を抱えて泣きそうな顔の白薔薇伯がいた。
「わたし、は……」
それきり、意識がなくなってしまった。
【つぶやき】
志摩子「『死んでるんじゃないのよー』の使いどころがわかりました」
静「連載のネタ探しにオペラのあらすじ本ばかり読んでるからこの程度のものしか書けなくなるのよ」
【魔法少女志摩子・『危機一髪!』】
私、藤堂志摩子。リリアン女学園に通う普通の高校生。
でも、実はみんなに言えない秘密があるの。
◆◇◆
薔薇の館。
志摩子たち一年生は掃除をし、お茶の用意をしていた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
お姉さま方が現れて、席に着く。
「もうすぐクリスマスね」
「今年も薔薇の館でパーティーをやりましょう」
みんなで盛り上がってパーティーの計画が進んでいく。
「何かゲームをやりましょうよ」
「『黒ひげ危機一髪』なんかは?」
「なんです、それ?」
祥子さまが尋ねた。
「樽があって、その中に『黒ひげ』が入れられているの。で、樽に剣を刺していって、『黒ひげ』が飛び出したら負けっていうゲーム」
「パーティーゲームの定番よ」
薔薇さま方が説明した。
「楽しそうですね。手配しましょうか?」
「手配ってほどでもないけど……まあいいでしょう、お願いね」
紅薔薇さまにそう言われ、祥子さまは張り切った。
この時、誰も食い違いに気づいていなかった。
パーティー当日。
「ねえ、これ何?」
薔薇の館には人一人が入れそうな樽と、切れ味がよさそうな剣が十数本置いてある。
一年生はなんだろうとそれを見ている。
「ごきげんよう。あら、ちょうどよかったわ」
祥子さまが現れた。
「あの、祥子さま。これは?」
由乃さんが代表して尋ねる。
「『黒ひげ危機一髪』に使う樽と剣よ。『黒ひげ』はゲームの時に決めるのでしょう?」
すましてそう言った。
「え」
「あなたたち、しっかりなさい。打ち合わせの時ちゃんと聞いていたでしょう?」
「聞いていましたけど……」
「では、準備を手伝って」
祥子さまはそういって指示を出し始める。
(ど、どうするのよ?)
(中の人になったら、死んじゃうよう……)
(でも、これって一年生の役目よね?)
自分たちが話していたのは人形の入ったおもちゃなんですけど、とはもう言えない空気になってしまっていた。
「ごきげんよう。あら、祥子張り切ったわね」
「ごきげんよう。おお、すごいね、祥子」
「ごきげんよう。まあ、楽しそうね」
薔薇さま方は「絶対に私たちは『黒ひげ』役じゃないから、ま、いいか」という感覚ではやし立てる。
(うわあ……)
カメラマンの蔦子さんが呼ばれて、パーティーが始まった。一年生は落ち着かない様子でちらちらと樽を見ている。
「そろそろ、『黒ひげ危機一髪』を始めましょう!」
(げげーっ、ついに!!)
一年生にとっての恐怖の時間がやってきた。
「これからトランプを引いてもらいます。数字は剣を刺す順番で、ジョーカーを引いた人は中にはいる『黒ひげ』になります」
(ひ〜っ!!)
九分の一なら、何とか逃げられるんじゃないだろうか、全員がそう思いながらトランプを取っていく。
「では、見てみましょう。せーの……」
「うひゃ〜っ!!」
「どうしたの、祐巳?」
「おや、祐巳ちゃんがジョーカーだったの?」
「まままままままままさか、そんな……」
祐巳さんは顔面蒼白、涙目になってガタガタと震えている。
「あら、あなたがカードを見せなくても、残り全員のカードにジョーカーがなければわかるのよ」
そこに祥子さまの死刑宣告といってもいいお言葉があった。
「大変、祐巳さんが大ピンチ!」
志摩子は全員の目が祐巳さんに集まっている隙にロザリオを取り出した。
「こんな時には秘密の呪文で大変身! ロサロサ・ギガギガ・ギガンティア〜!」
志摩子は魔法のロザリオの力で『魔法少女志摩子』変身した!
「魔法少女、志摩子にお任せ♪」
志摩子はお約束の決めポーズをとる。
しかし、全員の目が祐巳さんに集まっているので気づかれない。
「とにかく、祐巳さんを助けないと。こういうときは、魔法の力で……えいっ!!」
――しゃららら〜ん♪(魔法効果音だと思ってちょうだい)
「では、カードを見てみましょう」
全員がカードを表に返していく。そこにジョーカーはない。
「祐巳、あなたもカードを見せなさい」
「うっ、うっ、うっ。お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください。祐麒、二人の老後はお願いね……」
ゆっくりと祐巳さんのカードを表に返す。
『A』
「……あれ?」
驚いた顔で祐巳さんはカードを何回も見たり、ひっくり返したりする。
「なんだ、一番始めだから緊張したのね」
「驚かせないでよ、祐巳さんってば」
(ふう。祐巳さんを助ける事が出来たわ。これで解決ね)
志摩子は一度廊下に出て変身を解いた。
「じゃあ、ジョーカーは誰が持ってるのかしら?」
紅薔薇さまが聞く。
「他にひっくり返してない人は?」
黄薔薇さまが呼びかける。
「おかしいな。ジョーカー入れ忘れたの?」
令さまが確認する。
「そんなはずは。たしかに入れましたもの」
祥子さまが答え、全員で確認する。
「あれ、八人?」
「誰がいないの?」
「どうなさいました?」
さりげなく戻ってきて志摩子はみんなの輪に入る。
「ああ、志摩子。カードは何だった?」
白薔薇さまが確認する。
「私のカードはこれです」
『ジョーカー』
……あれ?
「ああ、あなただったのね。志摩子」
「じゃ、中に入って」
「令、手伝ってあげたら?」
魔法少女志摩子はドジっ子だった!
「え、ええと?」
「ほら、祐巳。剣を持ちなさい」
「あ、あの……」
「頑張れー、志摩子」
マリア様、私はどうなってしまうのでしょう?
もう、神頼みしかなかった。
【つぶやき】
志摩子「『危機一髪』どころか正に危機ではないでしょうか?」
令「本当はこのゲーム、黒ひげを救出するゲームで、飛び出させたら勝ちなんだよ」
【小笠原家横断ウルトラクイズ・予選】
小笠原家横断ウルトラクイズ。
リリアン女学園に通っている(いた)ものは全員参加できるというイベントで、優勝者はどんな無謀な願いでも小笠原家が責任を持って叶えてくれるという。
「志摩子さんは出るの?」
イベントの告知を聞いて乃梨子が尋ねる。
「私はそういうの苦手だから迷っているの。乃梨子は?」
「もちろん、優勝を狙います。日本中の仏像を見に行こうかと思って」
ふふ、と微笑んで乃梨子は答えていた。
「エントリー締め切りまでには決めるわ」
「そう。じゃあ、私はエントリーしてくるね」
志摩子が一人で考えていると。
「志摩子さん、志摩子さん」
何者かが志摩子の名を呼んだ。
「どなた?」
「よかった! 私の声が聞こえるのね」
まばゆい光とともに、目の前に少女が現れた。
背後の風景が透け、対面していると軽い寒気を感じるので彼女が幽霊だと理解した。
「私は十年以上前にここに通っていた安倍美嘉というの。わけあって天国から抜けて、今あなたの目の前にいるのよ」
「やっぱり」
志摩子は思わずつぶやいた。
「わけというのは、世界で今、第三次世界大戦が起こりかけているの」
「えっ」
「私は天国にいるけど、私の友達やクラスメイトだった人はまだ生きていて、たぶん日本も巻き込まれてしまう」
「でも、私は戦争と止めることなんて――」
とんでもないことを言いだす美嘉に志摩子はストップをかけようとした。
「できるのよ。小笠原グループの力を利用すれば戦争は止められる。『小笠原家横断ウルトラクイズ』で優勝すれば小笠原グループを動かす事が出来るでしょう」
「そんな壮大な話……私は普通の高校生なのだけど」
困惑して志摩子はつぶやく。
「大丈夫。私は生きていないから、特殊な力を使ってクイズの問題ぐらいはなんとかできるわ。でも、この世界に肉体がないから、肉体を貸してくれそうな人に声をかけたの」
「そ、それが私?」
「お願い。世界を守るため力を貸して。あなたは肉体を貸してくれるだけでいいわ」
しばらく考え、美嘉さんに協力することにした。
「わかったわ。私でよければ協力しましょう。今からエントリーしてくるわね」
「ありがとう、志摩子さん」
そして、いよいよ小笠原家横断ウルトラクイズが始まった。
総合司会の祐麒さんがマイクを手に現れた。
「祥子さまの部屋に入りたいかーっ!?」
「おーっ!」
参加者が声をあげる。
「どんなことをしても祥子さまの部屋に入りたいかーっ!?」
「おーっ!」
「罰ゲームは怖くないかーっ!?」
「ぉー」
「元気がないぞーっ!」
「おーっ!」
やり取りの後、説明が開始される。
「予選の正門前ステージは一人一問の問題を出しまーす。正解したら敷地の中に入って本戦に参加できますが、不正解者は門前払いとなりますので注意してくださーい!」
「おーっ!」
「では、エントリー時に渡した整理券の順番に並んでくださーい!」
言われた通り並ぶ。
順番が近づいてくると、前の人に出されている問題が聞こえてきた。
「明治維新の三傑といえば、桂小五郎、西郷隆盛と後は誰?」
「人類が初めて月面着陸に成功したのはアポロ何号?」
「モータースポーツ“F1”の“F”って何の略?」
「鐘の音から出た言葉 “オジャンになる” の “オジャン” とは、何を知らせる鐘の音?」
「カエルはフランス料理に登場するときは、魚料理、肉料理、どっち?」
「アメリカの州で『赤い島』を意味するオランダ語を語源とするのは?」
「アイスホッケーのリンクでニュートラルゾーンとアタッキングゾーンの間に引かれたラインを何という?」
(難しそう……大丈夫かしら)
「志摩子さん、そろそろ肉体を借りるわよ」
ふわり、と浮き上がるような感触の後、自分の肉体にもう一人の気配を感じた。
『いい? 私に任せて』
脳内に直接語りかける声がする。
『え、ええ』
同じように脳内で返事をする。いよいよ志摩子の番がきた。
「では問題をひいてください……おっと、サービス問題だ!」
祐麒さんが問題を読み上げる。
「あなたの出席番号は?」
「3番」
「不正解!」
志摩子は予選を突破できなかった。
『み、美嘉さん!?』
『ご、ごめんなさいっ。つい、私の出席番号を答えてしまったの……ああっ、脱落したから天国に帰らなくっちゃ!』
世界の平和は救えない、自分の出席番号は答えられない、とても残念な状態で志摩子は家路についた。
【つぶやき】
志摩子「SS内の問題に全部正解できた人はいるのかしら?」
乃梨子「私はAKB48のメンバーの名前が答えられなくて予選突破できませんでした」
【アフター】
SS専用のスタジオ。
「これは確かに蓉子さまでもやさぐれるわね」
最終シーンが終わり、ぐったりして志摩子は引き揚げてきた。スタッフ、キャストにねぎらわれ、お茶を受け取る。
「何だか、ヒドイ目にしか遭っていないような気がするのだけど」
「このSSの作者は令さまと志摩子さんの扱いが酷いと思います」
お茶菓子を差し出しながら乃梨子が相槌を打つ。
「他の候補はなかったのかしら?」
「今回は特に候補がなかったそうです。強いてあげるのであれば『幻想曲』シリーズ【No:2956】以来の天に召されるダークネタがあったことと、去年のがちゃがちゃSS掲示板への投稿数68本を越えてしまったことだそうです」
はあ〜っ、と志摩子はため息をついた。
「志摩子さん、締めの一言が残っているそうです」
「まだあったのね。では……」
【つぶやき】
志摩子「早くパラレル連載を終了させてください」
乃梨子「激しく同意します」