「お、お姉さま、申し訳ありませんが、もう一度言っていただけますか?」
…何だか私は聞き返すことが多い気がする。でも、お姉さまは時々突拍子も無いことおっしゃるから。聞き間違えて、大変なことになると困るから。話を一度で聞けない子だと思われても、失敗してしまうよりは絶対にいいのよ。と、心の中で言い訳しながら尋ねるのだけど、大抵聞き間違いではなくて。
「『よろしくお願いするわね。』だったかしら?』
「も、もう少し前のお言葉です。」
「『あなた達、明日からテストだから集会はないわよ』?」
「その後です!確かお姉さま……」
「『私はこのジャイロボールで、誰にも打てない本物の真っ直ぐを極めてみせるわ!!』」
「そんなことおっしゃいましたっけ!?」
あら言わなかったかしらって。祥子様野球に興味あったかしら?
「『私も試験勉強というものをやってみたいわ。明日の放課後やり方を教えなさい。』」
「そ、それです!どうしていきなりそんなことを?」
「一度もやったことがないからよ。皆しているのに、私だけしていなかったら、これから先恥を掻いてしまうかも知れないわ。ちょうどいい機会だもの。やっておいて損はないでしょう?それに祐巳や由乃ちゃんのその姿を見ていたらなんだか楽しそうだし。それじゃあ明日はお願いね。」
ごきげんよう。と言って祥子様はすぐに帰られた。何かこの後用事があるらしい。
言い忘れてたけど、私と由乃さんは薔薇の館で一緒に勉強している。私は日本史が苦手で、由乃さんは日本史が得意。由乃さんは数学が苦手で、私は数学は(も)そんなに良くはない(平均点)けれど、由乃さんよりはいいほうだから、それなら一緒に勉強しましょうということになったのだ。
「この姿が楽しそう、ですって?いっぺんでいいから言ってみたいわね。何だかこんなことしてるのが馬鹿らしく思えてきた。」
ため息をつきながら、由乃さんがそんなことを言ってくる。
「でもさ由乃さ「わかってるわよ!皆まで言わないで!でも今はこれ以上ここで勉強なんかできやしないわよ。帰りましょう、祐巳さん!」
半ばやけくそで叫ぶ由乃さん。まあ、確かに必死で勉強しているのに楽しそうなんて言われちゃあね。気持ちも分からなくはないけどね。
「祐ー巳ーさーん!ほら、急いで急いで!」
「ま、待ってよ由乃さん。」
−−この時は誰も気付いてなかったのです。祥子様がなぜあんなつまらないギャグを言ったのか。表情が少しにやけていたのか。テンション高めだったのか。−−
次回予告
『ああ、祐巳。その顔、とてもよくってよ。』
『お姉さまや、やさしくしてください。』
祐巳に忍び寄る祥子の魔の手!
その時由乃は!志摩子は!性さまは!
『仮面ライダーお願いです!私を、私を……!!』
『それはできない。こんな苦しみを負うのは私達だけで充分だ』
『志摩子、これを渡すときが来たみたいね。』
『お、お姉さま?』
『白薔薇に伝わる秘薬よ。10時間はもつわ。』
『…ありがとうございます。』
『使うときは私も混ぜてね。』
次回、〔この小笠原祥子には夢がある〜『覚悟』とは!暗闇の荒野に『光』をともすことを言う!!〜〕にご期待ください。