【3437】 一緒に頑張りましょうまだ始まったばかり  (ケテル 2011-01-16 21:45:28)


 宇宙戦艦ヤマトとのクロスです。

 まだ、飛びません。 今回は各員の配置とか役職とかの紹介です。

【No:3084】>【No:3089】>【No:3100】>これ>【No:3626】




S−19 冥王星ガミラス太陽系侵攻軍司令部

 司令官室で副指令官ガンツの報告を受けた太陽系侵攻軍司令長官シュルツは、データ端末から視線を上げるとガンツを睨みつける。

「……嫌な予感が当たったと言うことか」
「は…由々しき事態です」
「この距離で空母を一斉射で撃沈させられるとは…今後の作戦行動に多大な影響を及ぼすではないか!」

 今までの地球の艦船からの攻撃は、ミサイルと艦載機の攻撃を除けば、バリアーを施していれば駆逐艦の装甲すら破ることも出来ない程度のものだった。 現時点でたった一隻とはいえ対抗できるだけの戦力を有する艦の存在は、今後続けて同等の艦が建造される可能性も含めて憂慮すべき事態と言える。

「は、責任は痛感しております」
「で? どうするのかね?」

 情報の分析評価は情報将校でもあるガンツの役目である。 シュルツは腕組みをしてガンツを睨み、おそらくすでに考えて来ているだろう対抗策の提示を促す。

「超大型ミサイルを使用してはいかがでしょうか?」
「なに? あれをか?」
「はい。 あの戦闘艦の発進には、まだ時間がかかると思われます。 超大型ミサイルならばいかに強力な艦と言えど発進前の大気圏内に居る今ならば葬り去ることが出来ましょう。 また、取り逃がしたとしても無駄な抵抗を続けているあの周辺全域を一気に壊滅させられます」
「うむっ……」

 超大型ミサイルは、冥王星前進基地に配備されている物の中で最大の戦略兵器であり厄介者でもある。
 全長500mの巨大なミサイル、だがその大半の部分が加速のためのロケットモーターと燃料である。 弾種は熱核反応弾で、一挙に2000km四方を跡形も無く破壊できる。
 しかしそれは、大気のある所のでの話である。
 アステロイドベルトの攻略戦の時に投入されたものの、気体の無い宇宙空間では衝撃波が発生しない事もあり、その大きさのわりに半径5kmほどの範囲に、電磁波によるECM効果と熱線による物体の加熱、あとは放射線による後天的障害程度の被害しか与えられなかった。
 もちろん大気圏内で使えば強大な衝撃波が発生し、地殻や周辺環境などに甚大な被害を及ぼす、とある理由のため地球の大気圏内での使用は避けられてきた。 

「良かろう、使用を許可する」
「はっ、ありがとうございます」



 5時間後、冥王星前線基地の一角にある巨大なドームが開き、超大型ミサイルは発射された。 着弾予定時間は、地球時間で三日後10:00時。
   T−72時間00分





S−20 マイナス45時間45分 南関東、地球防衛軍日本支部

『みんなよく聞いて。 いよいよ私達は15万7千光年の旅をして、放射能除去装置”コスモクリーナーD”を受領するためイスカンダルへと向けて旅立ちます。 私達は、宇宙戦艦ヤマトを完成させたとはいえ、メインエンジン、武器、航法、何れも今まで地球に無かった技術を使っての未知数の多い旅になります。 敵であるガミラスは、的確に私達の目標を攻撃してくるだけの力を持っているのに対して、私達は、いまだ冥王星の基地以外の目標を発見することすら出来ていない、これは、私達とガミラスとの間にはっきりとした力の差があるということを意味しています。 それでも私達は、一年と言う限られた日数の中で生きて帰り、地球を救わなければならない。  出発前に言っておきます。 私は、あなた達の身の安全を保障する事は出来ない……。 あなた達に選択の機会を与えます。 外にはあなた達のご家族や見送りの人々がいらしています、抜けたい人は自由に抜けるように。 ヤマトへの集合時間は翌1200時。 進宙は翌々1000時。  私は、ヤマトで待っています。 以上』





「あ、祐巳!」
「祐麒! ちょっと来ていいの防空部隊が」
「行って来いって言われたんだ、柏木さんの差し金じゃないかな」
「祐巳…」
「祐巳ちゃん」
「お父さん、お母さん…」
「がんばってな、待ってるぞ」
「元気でがんばってくるのよ…」
「…戦闘班班長がおまえだってのが、一抹の不安があるんだが…」
「言ってくれるじゃない……お父さんとお母さんを頼むわね。 あと…祐麒も……つまんない事で死ぬんじゃないわよ!」
「……そんな…強がらなくたっていいと思うぞ…」
「…強がって…な…て無い……よ…」



「お〜〜志摩子! ここだここだ!」
「お父様! ?! …な…なんでその格好で来ているんですか?!」
「私もやめた方がいいと言ったのだけど、どうしてもって」
「何を言うか、我々の正装といえばこれではないか、慶事の時もこれだぞ、何を恥じることがある」
「一般的には、それはお葬式なんですよ……」
「うむ、まあ心配はいらん、御仏の加護もマリア様のご加護もある、しっかりとお勤めを果たすのだぞ」
「ご心配なく。 さよならは言いません、いってまいります」
「志摩子…生きて…帰ってね……」
「言うでない…湿っぽくなるではないか……」
「お父様、お母様……」



「お父さん、お母さん、どこ見てんのよ!」
「由乃…」
「あ…由乃…どうしてもおまえが行かなきゃいけないの?」
「お母さん…舵取りするのは私よ。 私が行かなきゃヤマトは跳ばないわよ」
「死ぬ時は、三人いっしょと思っていたんだがな…」
「そんな言い方やめて、今生の別れみたいじゃない」
「しかしだな、未知の技術を使っている戦艦だと言うじゃないか、本当に大丈夫なのか?」
「実験艦とか使って検証してるから大丈夫じゃないかな? エンジン始動させたらいきなり爆沈って事は無いと思うわよ」
「遠いんでしょイスカンダルって、大丈夫なの?」
「大丈夫! 私は絶対帰ってくるわ! だから…だから……元気でね…」





S−21 マイナス22時間45分 ヤマト艦長執務室

『水野艦長、集計整いました。 乗員115名、パイロット47名、全員搭乗を確認しました、欠員は無しです』

「ご苦労様、三奈子さん」

『ヤマトの進宙を見届けて、司令部に戻ります』

「明日まで待っている気なの?」

『…姉バカとでも申しましょうか、真美と日出実ちゃんが心配で。 司令部は遠すぎます』

「…そう」

『……蓉子さま…御武運を…』

「………ふふっ、ちょっと気が早いんじゃないかしら? でも、ありがとう。 あなたも気をつけて」





S−22 マイナス21時間35分 第一艦橋

「………はぁ〜」
「なに溜息吐いてんのよ由乃さん?」

 チェックシートを持って操縦席着いた由乃は大きな溜息を吐いた。 先に戦闘指揮席に着いていた祐巳は、照準装置のチェックをしていた手を休めて由乃の方を見る。

「あ……、なんかさ、両親にあったら…なんかね…」

 チェックシートをコンソールの上に放り出して由乃は腕組みをして上を見上げる。 ポップアップされた姿勢制御系のリストのカーソルが、次の入力を待って空中で点滅している。

「まあ、なんとなく分かるけどね…」
「遠いよね…不確定要素も多いし……。 親の前じゃあ大きな事言って来たけど…」
「…それでもここに来たんだから、全力でやるしかないんじゃあないかな?」
「…………祐巳さんに言われるとは…なんか悔しい…」
「あらら〜」

 ジロッっと由乃に睨まれて、祐巳は困ったような笑みを浮かべる。 目を見合わせてクスクス笑いあってから、チェックリストの続きを見ようとしたとき、艦橋の最上にある艦長私室から、蓉子がシートに座ったまま第一艦橋に降りて来た。

「エネルギーチャージが済み次第発進したい所だけれど、終了予定まで…あと20時間ほどかかるわ。 発進時間に今の所変更は無し。 各自持ち場のチェックを徹底するように、チェック終了後は十分に休養を取ること」
「蓉子さま、エネルギーチャージと言いますと?」
「波動エンジンは一度始動してしまえば、ほぼ無限に近いだけのエネルギーを生み出しながら動くんですけれど、その分スタートさせるのに、大きな力で弾みをつけなければいけないんです」

 機関長として機関室へと作業指揮に行っている令の代わりに席に着いて、調整作業をしていた笙子が変わって答える。 一段高い艦長席の集中コンソールから下段に降りた蓉子は、機関席のバックレストに手を掛ける。

「いま、ヤマトを成功させるために世界中から寄付が集まっているわ。 ヤマトは実証1号艦としての役割も持っているの。 成功すれば世界各地区で今建造中の艦に、波動エンジンとともに強力な武装を施せるわ、戦局を挽回させられる最後のチャンスだもの世界中が協力してくれているのよ」
「他にも建造中の艦船があるんですか?」
「もともと種を乗せて地球を脱出するという計画だったのよ、ヤマト一隻で用が足りるわけが無いでしょ。 アメリカのエンタープライズとコンステレーション、EUのドレッドノート、ロシアのペトロバブロフスク、中国の定遠……。 ヤマトクラスの宇宙艦を建造しているのは何も日本だけではないのよ。 さあ、ゆっくり休養を取って明日に備えたかったら目の前の仕事をさっさと片付けてしまいましょう。 時間はあるようでどんどん過ぎていくわよ!」
「「「「「 はい!! 」」」」」



 ―  * *  ―  * *  ―  * *  ―  * *  ―  



S−23 マイナス19時間35分 第一艦橋

「はい、私のセッティングは終わり」
「副操縦士”003-ちさと”……OK、セッティング同期確認。 ご苦労様ちさとさん」

 第一艦橋最前列中央より1つ右側、由乃の着いている主操縦士席のさらに右側の副操縦士席で、ちさとは一つ伸びをして半球状に宙に浮かんでいたポップアップ画面の内、正面の3面を残して他の画面を閉じてから立ち上がる。


 各コントロールシートにモニターやゲージの類は少ない。 モニターの数は艦長の蓉子の席が一番多く、戦闘班班長の祐巳の席と機関長の令の席がそれに続く。
 しかし、殆んどのデータや通信は座席を中心に半球状に空中へと投影され、視線移動を極力抑えるようにされている。


「え〜と、後は中央管制センターよね」
「そっち任せていいかしら? 中央管制センターはちさとさんと菜々がメインで使うんだし」
「お姉さま、ちさとさま。 中央管制センターでの私の方のチェックは終わりました。 これ同期キーです」

 中央管制センターでのチェックを終えた菜々が、同期キーを胸ポケットから出して由乃に渡す。


 艦橋直下、艦体の中央を通る竜骨直上に位置する中央管制センターは、機関部と共に第一級防護区画になっている。 最悪の場合、艦橋などの上部構造物が使い物にならなくなって戦闘不能状態に陥った時でも最低限航行だけはできるよう全艦のコントロールをするのが中央管制センターの役目である。


「菜々……そう…」
「じゃあ、菜々ちゃんは終了かな?」
「いえ、私は第一艦橋での最終セッティング確認がまだです」
「じゃあ、私は中央管制センターの方をやっつけますかね」
「そうね。 あ、第二艦橋で最新のチャートも確認しておいて。 菜々、準備して」


 第一艦橋のすぐ下に航海班が管理している第二艦橋がある。 


「あんまり変化無いだろうけどね〜、分かった、何かあったら連絡するわ。 じゃあ、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう……。 お姉さま、パスワードの入力終わりました」

 副操縦士席に着いた菜々は、すでに航法関係と機関関係の情報を呼び出し始めて、ポップアップ画面が何面か宙に表示されている。

「副操縦士”002-菜々”OK、始めるわよ」
「はい!」
「…嬉しそうね菜々」
「はい! 人跡未踏の地に行くわけじゃないですか、この航海の一員に選ばれて私はラッキーです」
「人跡未踏って意味じゃあ、本来ここら辺一帯は海底だったわけだし人跡未踏の地だったけど? 放射能あるけどね……帰ってこられる保証もないんだし…」

 少し考えた菜々だったが、にっこりと笑う。

「お姉さまと一緒でしたら、どこに行ってもいいですけど…」
「ちょっ?!」
「お姉さまが舵取りするんですから、帰って来られないわけありませんよ」
「……そうね」
「『身の安全を保障する事は出来ない』なんて、『お家に帰るまでが冒険ですよ』って蓉子さまに申し上げた方がいいでしょうかね?」
「要らない事しなくていいから……って、1人で勝手に進めない! チェックリスト読み上げるわよ菜々!」
「は〜い」

『由乃ちょっといい?』

「ん? なに、令ちゃん? ちょっと待ってね菜々」

 由乃がリストを読み上げようとした時、通信画面が浮かび上がり機関部班長の令から通信が入る。

『忙しいところ悪いわね。 波動エンジンと補助エンジンの始動回路チェックが終了したから、その報告ね』

「了解。 あ〜あ、令ちゃんはこれでお休みかいいなぁ〜」

『まだまだこれからよ、波動エンジンのエネルギー注入はまだ掛かるし…、波動砲は…祥子と祐巳ちゃんしだいになるから、機関部はギリギリまで掛かると思うわ。 三交代で休んでる所だけど、私はそうもいかないからね』

「令さま、余り根を詰めるといざと言う時に無理が利かなくなってしまいますよ」
「そうよ、適当に休まなきゃ。 大気圏離脱中にエンジン止まって直せなかったら令ちゃんのせいだからね!」

『そうならないようにやってるんだけどね。 でもそうだね、適当な所で休憩を入れるよ。 じゃあ、そっちもがんばってね』

「…大丈夫かな、令ちゃん」
「…大丈夫ですよ、令さまですよ」
「……そうね、令ちゃんだもんね。 さあ、さっさと終わらせましょ菜々」
「はい、お姉さま」


 由乃と菜々が、操縦系統のポップアップ画面の操作と同調の確認を始めた時、第一艦橋最前列中央の戦闘情報指揮席では、戦艦であるヤマトの戦闘班班長祐巳が、球形状に浮かび上げられている戦闘関係のポップアップ画面と格闘していた。


「ショックカノン、射撃連動装置チェック終了。 瞳子の方はどう?」

 戦闘指揮官席の前面投影画面をいくつか閉じながら、祐巳は砲術管制担当の瞳子に聞く。

「こちらでも確認できました。 副砲もチェック終わりました」
「ミサイル管制装置チェックも終了よ」
「蔦子さま」
「え〜〜と…」

 ミサイル管制担当の蔦子から回されたデータを、祐巳は最終チェックしてから向き直る。

「発射管の方はどう、蔦子さん?」
「艦首8門、艦尾6門、舷側面16門の93cm対艦ミサイル。 煙突の上面長射程対空ミサイル8セル、チェック終了異常無しよ」
「…ごめん。 対空の方、パルスレーザー砲は異常無しだけど、B群のフェーザー光線砲に誤差があって、今修正を技術班に依頼したところよ」

 対空管制担当の典は、ポップアップパネルのキーを操作しながら祐巳に報告する。

「う〜〜ん…お姉さま忙しそうね…、後回しにされる可能性はあるわね」


 技術班班長をしている祥子は、不具合個所の修正で艦内を忙しく飛び回っているはずである。 お姉さまは今夜眠れるのかしら? と心配しつつも、今は自分の仕事をこなさなければならない。 ヤマトは戦艦である、戦闘セクションは当然チェック項目は多岐にわたる。


「完璧な状態で進宙したいんだけどね」
「まあ、航行中も常に調整しなきゃいけないんだけどね。 あ、チャフ散布ロケットの方は異常なし。 でも対空砲の砲身損耗が激しそうだけど、これって何とかなるのかしらね」
「システムそんなに変わってるの?」
「供給されるエネルギーが多くなっているのよ。 射程が長くなってて、威力も5倍になっているわ。 そのくせ砲身自体は今までのと変わってないから損耗が早いのよ。 予備の砲身もっと欲しい所だけど、対空砲群一式分となると……32門の48門……かなりの量じゃない?」
「うん、かなりの量になっちゃうから、それほどストックする訳にはいかないわね。 新型の砲身は設計段階だっていってたし…」
「共食い整備は勘弁して欲しいんだけどなぁ〜」


 同一の機械を複数使っている場合、故障個所の部品を他の稼動機から持ってきてしまう事を共食い整備と言うのだが、当然、これを繰り返すと完全稼動する機械は少なくなる上、中古部品の寄せ集めになるのだから動ける機体でも信頼性は低下する。 もともと移住船として設計されたヤマトは、艦内に材料の精錬から行える万能工作機を設置している工場を設けているので、ストックは最小限に抑えられている。 典が心配しているような事は起こらない事にはなっている。


「レールガンは大丈夫? 瞳子」
「機械自体は大丈夫と報告を受けていますけれど…」
「? どうかしたの?」


 三連装三基の主砲はエネルギー弾を放つショックカノンと、実体弾を撃つレールガンも兼ねている両用砲になっている。
 レールガン自体は地球の技術でも作られている、小惑星帯で要塞砲として実戦配備されていた事もあり、ある程度の戦果も上げていた。 しかし、その加速砲身は500mもあり、小回りが利かないのが難点となっていた。
 ヤマトの主砲砲身は23m、今までの地球の技術では不可能なサイズである。
 火星から引き上げてきたイスカンダルの宇宙船の分析で今までに無い強力な常温超伝導技術を手に出来たためこれを応用して、加速用リニアモーターを作成することが出来たのだ。 砲弾の初速は供給される電力が規定値どうりなら、光速の0.5%。 0.5%と言うとたいした事が無いように聞こえるが、砲弾は一発1.7t、それが秒速約1500km/sで発射されるのである。 エネルギー擾乱ガスなどでショックカノンを無効化されても、このレールガンならダメージを与えられる。


「変換システムの操作に手間取っています。 あのシステム、本当に30秒で変換できるんでしょうか? 今どんなにがんばっても5分以上かかるんですけど」


 機構上、ショックカノンからレールガンへの変換は30秒で出来ることになっている、しかしシミュレーションや実機での訓練では、今の所5分を切ったことが無い。 戦闘中で5分間の空白は長すぎる。


「まだみんな手順を確認しながらだしね……。 いつまでもそれだと困るけど……」
「まあ、しばらく実戦では使えませんね」

『祐巳ちゃん、今いい…。 どうしたの、何か問題でもあったの?』

「あ、静さま。 まあ〜…いろいろと…」

『大変ね、戦闘班班長さんも』

「エアボスも大変だと思いますけれど」


 ヤマトの艦載機群、戦闘攻撃機49機、修理舟艇2機、運搬/救命艇5機、総勢56機。 この艦載機群の管理運用、各種オプションの管理、艦体最下層3/5を占める戦闘攻撃機専用に使われる飛行甲板、コスモゼロと運搬/救命艇を収めている第三砲塔側格納庫、修理舟艇を収めている艦首第一砲塔側格納庫、艦載機射出用重力カタパルト及びリニアカタパルト、昇降用エレベーター等々、凡そ艦載機が絡む部分を一括管理運用するのが飛行甲板長、通称”エアボス”と言われている。
 本来は第一艦橋の最前列左端に航空管制指揮席があるのだが『即応性に欠けるから』と言う理由付けで静はめったに第一艦橋には来ない。


『そのエアボスからの報告よ。 艦載全機チェック終了、いつでも総飛行機発動をかけられるわ、祐巳ちゃんのコスモゼロもスタンバイOKよ。 パイロットのブリーフィングはさっき終わって…江利子さまが身体検査したいって言って来ているのだけれど、どうするの?』


 パイロットは作戦中一定期間ごとに身体検査を受ける事が義務付けられている。 生活班班長で船医の江利子としては当然の要求といえる。


「あ、身体検査は、ヤマトへ乗艦する前に済ませているはずですから、データを提出すればいいはずですよ、江利子さまに連絡行ってなかったのかな? え〜〜と…各中隊長…可南子ちゃんと桂さんと逸江さんに、取り纏めるように伝えてください」

『わかったわ、そのように伝えておくわ。 それと昇降用エレベーター4基とも問題なしよ』


 ヤマトの艦底には戦闘機射出用に艦首方向に向けた重力カタパルトが2台装備されていて、4基の昇降エレベーターと組み合わせて戦闘攻撃部隊を急速展開させられるようになっている。 祐巳の乗るコスモゼロは、艦後部のリニアカタパルトを使って射出される、重力カタパルトと違って加速Gが強烈に伝わる。
 コスモタイガー戦闘攻撃中隊 VF722(中隊長、可南子) VF723(中隊長、桂)、コスモライガー重戦闘攻撃中隊 VF734(中隊長、逸江) 、4機で1飛行小隊、4小隊16機で1飛行中隊、全48機+1機でヤマト飛行大隊となる。 +1機はもちろん総隊長の祐巳のコスモゼロである。


『え〜〜と、そんなところかしらね? ああ、そう言えば、重力カタパルトAの制御プログラムにバグがあったみたい』

「え? ちょっとそれは、そう言えばと言うレベルの話ではない…」

『いま、修正中よ。 ふふ、どうしたの?』

「…よ、よろしくおねがいします、静さま」

『ふふふ、じゃあ、バグの修正の目処がついたら私は休ませてもらうわね』

「はい、お願いします」

『じゃあ、ごきげんよう』

「ごきげんよう、静さま」
「遊ばれてる、祐巳さん?」
「……だわね…」
「ちょっと情けないです、相手が静さまとは言え…」

 蔦子、典、瞳子にまで情けない指摘をされてしまう。 戦闘班班長としては本当に情けない限りである。

「ぅぅぅ…」
「さてっ、ミサイル管制の方は終了ね、取りあえず上がっていいかな」
「私は……はぁ〜…誤差の修正がすまなきゃ上がれないか…」
「え〜と、私はどうしましょうお姉さま?」
「い〜え、3人ともまだまだ上がれないわよ。 志摩子さん、レーダーシステムとの連動シミュレーション・プログラム走らせてくれない?」
「「「 あっ… 」」」
「それ、こっちも乗っていい?」

 菜々のセッティング同期をチェックしていた由乃も、参加すると手を上げる。 どうやら菜々のセッティングはうまくいっているらしい。



「勝手なこと言って…こっちも忙しいのに」
「そう言わないの乃梨子」

 中央管制センター内の統合情報解析部から上がってきて、志摩子のレーダーシステムチェックのサポートをしていた乃梨子が眉をしかめるのを諫める。

「同期シミュレーション・プログラムでいいんですよね?」


 レーダーやセンサーウィング、強行偵察プローブなどから受ける情報の処理、分析評価が統合情報解析部の主な仕事になる。 敵の位置情報のみならず、戦闘空域の次元の揺らぎ、航路の状況、近傍恒星惑星の状況等、扱う情報は多岐に渡る。 中央管制センター内の統合情報解析部にあるのがメインシステムで、第一艦橋のレーダー手席はその端末である。 志摩子が休憩の時は乃梨子が第一艦橋に上がって来る事になっている。


「とびっきりのジェットコースター選びましたから」

 乃梨子はポップアップ画面を呼び出し、連動シミュレーション・プログラムを走らせる。 そのプログラムナンバーを見た志摩子は、苦笑してから祐巳達に告げる。

「祐巳さん、由乃さん。 乃梨子が取って置きのプログラムを選んでくれたから楽しんで」
「楽しめる物なら…志摩子さんデータの読み上げで参加して。 想定は『マゼラニック・ストーム内、正面より敵艦隊襲来』」

 乃梨子は小声で言いかけたが、黙っている事にしてプログラムの想定を読み上げる。

「はは、それは楽しませてもらわなくっちゃね」
「どんなシミュレーションだって、どってこと無いわよ!」

 各人のメインスクリーンにプログラムナンバーが表示される。


 『 ”STS-51-L ” 』 


 配置についたのを確認した乃梨子は、プログラムを走らせる。


 1分13秒


「あああああああ!! やっちゃった!!」
「うわぁ〜?! な、なんで爆沈なのよ!!」

 プログラムの中で、ヤマトは爆沈した。


 1つのトラブルの対処に成功しても、またすぐに新手のトラブルが発生して終わりが無い、あたかもジェットコースターのように次々とトラブルが襲ってくる、もちろん敵からの攻撃もあり、それに反撃しなければならない。


「あ、あの〜お姉さま。 ヤマト爆沈しちゃったみたいですけど…」
「あぁ〜、そうね。 まあ、プログラム内での話しよ」

 プログラム内とはいえ爆沈した瞬間、祐巳と由乃は大きな悲鳴を上げた。 通信機器のチェックをしながら悲鳴を聞いて不安がる日出実を軽くいなす真美。


 二人が着いているのは第一艦橋通信士席、メインの通信機器とバックアップ機器は中央管制センターの中にある。 しかし、今現在の地球の通信圏はエネルギーの問題もあり、エッジワース・カイパーベルトの外、オールトの雲内縁(1万天文単位 約1500億Km)程度までが限界といわれている。 もちろんそこから先は暇になるという訳ではない。 偵察飛行、戦闘中は艦載機とのやり取り、航路上の惑星への呼掛け、敵との折衝、艦内新聞の作成等も仕事となる。


「それに、私の記憶通りで、その番号を意識して付けたんだとすれば、”STS-51-L”には、”生還”は無いわよ」
「え?」
「大昔の…離昇中に爆発事故を起こした宇宙船のミッションナンバーのはずよ」
「真美さまはご存知だったんですか」

 乃梨子は”少し意外”だと言う顔を真美に向けると、手元を見ることも無く艦橋メインスタッフを打ち負かした連動シミュレーションプログラムで得られたパラメーターを表示させる。

「記憶の端っこに引っ掛かってるだけよ、詳しく知ってるわけじゃないわ、なんせ200年も前の事じゃない? そのミッションナンバーが今も伝わってるのがすごいなっとは思ったけど」
「でも、乃梨子さん、さっきのじゃあ何も分からないんじゃない?」
「そんな事ないわよ。 各部門の連動状況、各人の反応と反射神経とか、与えられた情況に対する判断力とか…」
「え? そんなに解るの」
「すごいわね乃梨子ちゃん」
「半分でまかせです」
「ちょっと!」
「…乃梨子……」
「でも、連動の状況は良好です。 各人の反応と反射神経も問題ありません。 短時間で終わってしまった原因として考えられるのは、すべての事象を総合的に判断する”艦長”役がいなかった……と言うところでしょうか……」

 パラメーターを読み解く乃梨子を見て、志摩子はうれしそうに微笑む。

「うぅ〜〜っ! 乃梨子ちゃん! もう一回よ!!」

 うなり声を上げて由乃は乃梨子に吠え掛かる。

「プログラムなんかに負けたとあっちゃ、ヤマトの舵取りなんかしてらんないわよ! もう一回よ!!」
「あ、私が舵取りしていいんですか?」
「言葉のあやよ!」
「まあまあ、由乃さん…」
「え〜〜と、戦闘班はどうしますか?」
「そうね〜…、なんか収まりつかないようだから、ちょっと付き合おうかな?」
「そうですか。 タイム差は出ても何回やっても同じだと思いますけど……。 では、行きます」

 乃梨子は再度”STS-51-L ”を呼び出すと、プログラムを走らせた。




S−24 マイナス17時間20分 波動砲薬室→機関室


「敦子ちゃんと美幸ちゃんは1班だったわね」
「「はい」」
「野菜穀物工場の循環システムのチェックが、まだ済んでいないわね…」

 波動砲の薬室内での点検を終えた祥子は、タブレットでまだチェックがすんでいない艦内個所を探す。


 限られた艦内スペースへと全乗務員分の食料を積み込むのは不可能である。 1つで一食分の栄養が取れるカプセルのような栄養剤もあるのだが、食事の楽しみと言う物が失われ士気にもかかわる。
 ヤマトは元々移民船であるため、微生物を使った合成たんぱく質製造機や、遺伝子操作をして促成栽培できるようにした野菜や穀物の水耕栽培工場、嗜好品などもある程度製造できるだけの設備を搭載している。 これらは、江利子を班長とする生活班が管理運営することになっている。


「そうね…これ、任せてもいいかしら?」
「「はい!」」
「循環システムのチェック後、2班と交代、しっかり休んでおくのよ」
「了解です。 野菜工場の循環システムのチェック終了後、2班と交代して休憩します」
「では、祥子さま令さま、ごきげんよう」
「よろしく頼むわね。 ごきげんよう」
「ごきげんよう。 技術班はそれで終わりなの?」

 敦子と美幸が下甲板へと行くのを見送った祥子の隣で、眠そうに目をこすりながら令が聞く。   

「まだまだよ、取りあえず一番の大物が終わっただけ。 令はどうなの?」


 艦首に大きな砲口を開いている波動砲は、波動エンジンの設計図を起こす際に発想され、祥子が中心になって研究、設計がなされた。 祥子はこれ以外にも幾つかの装備の設計製作に携わっている。
 波動エンジンは無限ともいえるエネルギーを発生させつつ、光速の99%の巡航速度と、光速すら突破するワープ航法を可能にするエンジンだ、その生み出される莫大なエネルギーすべてをシリンダー内に注入、圧縮して、一気に放出するヤマトの切り札である。


「私は…寝られそうも無いわね…」

 いっしょに移動しながらタブレットで波動砲のチェック終了の報告を上げていた手を止めて、祥子は機関室に入ろうとしている令に目を向ける。

「いくら令でも、もたないわよ少しは休まないと」
「ははは、由乃と菜々ちゃんにも言われたよ。 …第3班、第2班と交代して休憩に入って。 第2班は3班の作業を引き継いで補助エンジンのチェックに入って。 第1班は作業を継続、波動エンジンのエネルギー充填のチェックと作動プログラムの再チェックを。 途中でエンジンが止まったりしたら航海班班長にドヤされるわよ!」


 メインの波動エンジンは、今エネルギー充填中でまだ作動させていないが、補助エンジンはアイドリング状態でホールドされている。 ヤマトの補助エンジンは、戦艦アマギのメインエンジンの同型発展型で、アマギのエンジンより50%の小型軽量可を果たし出力は30%アップしている。


「ドヤされるのは機関部班員じゃなくて、あなたでしょうけれどね」
「はは…皆がそれを知っているのが問題なんだけどね…祥子も休みなさいね」

 



S−25 マイナス15時間05分 艦長私室


 艦橋の最上部と言う装甲の施しようの無い、戦闘中は一番危なそうな位置に蓉子の希望であえて作られている艦長私室で、水野蓉子艦長は江利子の訪問を受けていた。 本来なら乗艦前に済ませていなければならなかった身体検査である。

「……………」
「………良い事にしておいてもらえると、助かるんだけど……」
「……本当は ” 荷物まとめて帰れ! ”って言いたい所だけど…無駄でしょ」

 医療用タブレットから伸びているセンサーケーブルを収めながら、江利子は溜息を吐く。


 蓉子と江利子、そして冥王星戦役で戦死扱いとなっている聖とは、リリアン宇宙戦士訓練学校の同期だったのだ。


「そう、無駄よ。 話が早くて助かるわ」
「その代わり、センサーカプセル打ち込まれたくなかったら 定期的に検診に来なさい。 生活班長医療部長の命令」
「…はいはい、この艦の影の支配者の言う事には従うわよ」

 蓉子は艦長服の前を直しながら苦笑して見せたが、江利子が執務机の上に置かれている写真に目を向けているのに気がついた。

 リリアン宇宙戦士訓練学校時代の3人が写っている写真。

「どうしたの、江利子?」
「……いえ、聖がいれば、艦首と舷側のマークもさまになったのに…ってね」
「…そうね…でも………」


 ヤマトの艦首と舷側には、錨と、紅 白 黄の三本の薔薇が寄り添うように描かれている。 移民船計画の頃、艦長は蓉子が、生活部門は江利子が、そして、戦闘部門は聖が受け持っていく予定だった。 このマークはその時にデザインされ、聖が戦死扱いになった後も乗務員全員の希望で残された物である。


 長いこと眺めていた写真を、蓉子は机に伏せる。 ゆっくりと視線を巡らせる。

「先に…逝った人に…何を言ったって……」
「………私の前で強がらなくたって…」

 伏せられた写真から、ゆっくりと視線を巡らせる二人の視線の先には、星の海が広がっていた。






                    〜 * 〜 * 〜 * 〜 第四話 完 〜 * 〜



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* STS-51-L
 1986年1月28日に行われたスペースシャトルの25回目のミッション。 使用機はチャレンジャー。
 発射73秒後空中分解を起こし、乗務員7名全員が死亡する大惨事となった。 この時のミッションナンバーが ”STS-51-L” 。




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