【3438】 ドキドキの放課後2人して勘違い  (翠 2011-01-18 00:48:35)


 無印のパロディで、キャラ設定やら性格やらが作者に都合良く弄られています。なので、殆どの登場人物が、どこかしら変です。また、所々に妙なネタも紛れています。微妙にオリキャラも出ます。それでも構わない、という海どころか宇宙よりも広い心の持ち主な方以外は、読まれない方が良いかと思われます。
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 とある月曜日から一週間と二日後、珍しく変な夢を見なかった水曜日のお昼休み。
 祐巳は桂さんと一緒に、一年桃組の教室で昼食を摂っていた。志摩子さんは、残念ながら今日は薔薇の館の方に行っている。
「そういえば、新聞部ってあれ以来パッタリ来なくなったわね」
 毎日食べても飽きない、と豪語する桂さんが、実際に毎日食べてるね、と呆れる祐巳の前で、大好物のカキフライを箸で摘みながら思い出したように言った。
「うん、祥子さまが手を回してくれたみたい」
「あの新聞部に取材をやめさせるなんて、さすがは祥子さま」
 何でも、新聞部の部長と直談判したとか。同学年なので交渉もやり易かったそうだ。「拳で脅したんじゃないですか?」って冗談で言ってみたら「馬鹿な事を言わないでちょうだい。それは最後の手段よ」と真顔で返された事は、しきりに感心している様子の桂さんには伝えないでおく。
「あ、そうそう。学園祭当日の十時半から十一時までは、祐巳さんは私と一緒にここでお留守番だからね。もしサボったりなんかしたら、静さまに言い付けてやるから」
 山百合会が演劇をやるように、祐巳たちのクラスにも出し物がある。キリストが死刑宣告を受けてから葬られるまでの十四枚の絵を複製し、それに説明文を添えて展示するのだ。その時に、祐巳は桂さんと一緒にお留守番をする事になっていた。勿論ずっとではなく、桂さんが言ったように、十時半から十一時までの間だけだ。その他の時間は、別のクラスメイトたちが担当する。
「はン、わざわざ静ねーさまの名前なんか出して釘刺したりしなくても、真面目が売りのこの私がサボるなんて、そんな事は有り得ないわ」
「そういうのは、私の目を見ながら言いなさいよ。本当はサボる気満々なんでしょ?」
 じとーっ、と視線を向けてくる桂さんに対して、祐巳は「ふふん」と鼻で笑うとお嬢さまモードで尊大に言い放った。
「では、私が嘘を言っているかどうか確認すると良いわ。さあ、その節穴のような目でよく見なさい。この、純粋で無垢な私の美しい目を!」
「だから、そう言いながら何で目を逸らすのよ?」
「だぁってー、大好きな桂さんと視線を合わせるなんて、そんなの恥ずかしいんだもンっ。きゃっ、祐巳ってばもっと恥ずかしい事言っちゃった♪」
 赤くなった頬に両手を添えながら、「いやんいやん」と首を振る。ついでに両足もバタバタさせてみたのだが、桂さんは嫌そうな顔をするだけだった。
「祐巳さんのキャラに全く合ってないというか、むしろ気色悪い」
「あー、そうですか。はいはい、私が悪かったから、ンな顔の造形崩れるほど酷い顔しないでよ」
「……誰が顔の造形が崩れるほど酷い顔してるって?」
「あぁ、ごめんごめん。そーいや元からそんな顔だったね」
「殴るわよ?」
 机の横に鞄と一緒にかけてあった、愛用のテニスラケットを取り出しながら桂さんは言った。いくら何でもそれは反則だと思う。というか、打ち所が悪ければ死ぬ。そこまでいかなくても、記憶くらいは飛んでしまいそうだ。
 いずれにせよ、そんなもので殴られては堪ったものではないので、
「ごめんなさい」
 祐巳は椅子の上ではあるが、この私にプライドなんてものは存在しない! と言わんばかりの見事な土下座を披露したのだった。



「前から思っていた事なんだけどさ」
 ほんの数分前に女子高生の土下座というなかなか珍しいものを披露した祐巳は、そこまで好きなのか、ってほど満面の笑みを浮かべながらカキフライに噛り付こうとしている桂さんを見つめながら言った。
「桂さんって、ハーフだったりする?」
「――」
 瞬間、桂さんの動きがピタリと止まる。彼女の大きく開かれた健康的な桜色の唇の前には、危うい所で一命を取り留めた黄金色のカキフライ。祐巳は「私に救われた命、大切にするが良い」と心の中でそのカキフライに語りかけながら、先ほどの「桂さんって、ハーフだったりする?」発言以降なぜか、しん、と静まっている教室内を見回す。
 次々と視界に入ってきたのは、お弁当を食べながら和気藹々と談笑していたはずのクラスメイトたちが、驚愕の表情を浮かべながら祐巳を凝視して固まっている姿。
 ひょっとして、十年近く友人やってて今更何言ってるの? とでも言いたいのだろうか。若しくは、それは気になっても決して尋ねてはならない事よ、か? ……なるほど。確かにそうかもしれない、と今更ながらに思った。もしかすると桂さんは、自分がハーフだという事を隠そうとしていたのかもしれないからだ――の割に彼女、髪の毛が見事な小麦色なんだけど。
 そんな事を乾いたスポンジみたいに軽い脳みそでぼんやりと考えていると、彫像のように固まっていた桂さんの硬直が解けた。彼女は摘んでいたカキフライを緩やかな動作でお弁当箱に戻すと、まるで顔の筋肉が錆付いてしまったかのような、ぎこちない笑みを浮かべる。
「どうして、そう思ったの?」
 尋ねられた祐巳は、鮮やかな小麦色に輝いている彼女の髪へと視線を向けた。
「その髪、染めてるわけじゃないよね?」
 問いかけたけれど、確信している。桂さんの髪は美しい上に手触りも良く、それは彼女と知り合った初等部の頃から全く変わっていないのだ。ちなみに祐巳の髪は、母と同じくダークブラウン。髪こそ黒くはないが、正真正銘混じりっ気なしの百パーセント日本人。
「それから、桂さんが苗字を名乗らないのは、名乗らないんじゃなくて、名乗れないんじゃないか、って考えてみたの。例えば、日本人が発音できない音を使っているとか――」
 困らせようと思って言ったわけではなかった。勿論、先ほどの土下座の仕返しのつもりでもない。顔を強張らせた桂さんを見て後悔する。こんなに深刻な顔をされるなんて、ちっとも考えてなかった。
「ついにこの日が来てしまったのね」
 桂さんは青褪めた顔で、長年彼女と付き合ってきた祐巳が今までに見た事のない、薄い笑みを浮かべた。
「その通りよ。正確にはハーフではなく、遠い祖先に外国の人がいたってだけなんだけどね。この髪の色は隔世遺伝ってやつらしいわ」
「どっ――」
 どうして隠していたの? それは、私にも言えない事だったの? とは口に出せなかった。大切な友人に隠し事をされていたのは辛くて歯痒いけれど、これ以上彼女を追い詰めたくなかったからだ。
 それでも、十年近くを共に過ごしてきた友人には、それだけで十分過ぎたらしい。口を噤んだ祐巳の気持ちを正確に汲み取って、彼女は悲壮な顔したまま静かに答えた。
「その祖先が、白面金毛九尾の狐だからよ」
「外国人どころか人外じゃねーか……」
 頭の中が真っ白になるのを感じながらも、祐巳はしっかりとツッコミを入れていたのだった。



「っていう夢を見たんだ。新聞部の事とか店番の時間とか、途中まで現実で本当にあった事そのままだったから騙されかけたけど、私の大好きな桂さんは人を困らせるような事はしないし、むしろ栞ねーさまや私に振り回されて困っているか、絶妙に微妙なツッコミを入れて自己嫌悪に陥るくらいしかできない人だから、すぐに『あ、これは夢ね』って分かったよ」
 そう話を締め括ると、祐巳は箸で摘んでいた卵焼きを頬張った。目の前には、「また突飛な夢を見たものねぇ」と呆れ顔の桂さん。彼女は夢の中と同じように、大好物のカキフライを摘みながら続けた。
「祐巳さんがどうしてそんな夢ばかり見るのかは分からないけど、とりあえず夢の中の私の扱いよりも、そんな夢を見る祐巳さんの頭の方がよっぽど酷いって事だけはよく分かったわ」
「大丈夫。現実の桂さんの扱いよりかは、ずっと上だから」
「……」
 桂さんの瞳から光が消えた。



 とある月曜日から一週間と二日後、いつものように変な夢を見た水曜日の放課後。
「祐巳さん、祐巳さん」
 掃除を済ませて、音楽室から出た所で声をかけられる。以前にもこんな風に声をかけられたなぁ、と思いながら声が聞こえてきた方に目を向けると、以前と同じだけどちょこっとだけ違っていて、怪しげな笑みを口元に浮かべている蔦子さんが立っていた。
 正直、あんまり近付きたい雰囲気じゃないな、とは思うのだが今更逃げ出すのもどうかと思ったので、そのまま素直に蔦子さんの下へと足を進める。
「私に何か用?」
 祐巳が以前の時と同じように尋ねると、これまた以前の時と同じように彼女は写真を取り出した。ただし、以前は二枚だったが今回は一枚だけだ。
「どうかしら? よく撮れていると思わない?」
「うげっ」
 蔦子さんの指に挟まれているそれを見て、祐巳は思わず仰け反った。なぜならその写真には、祐巳と柏木さんが二人きりで写っていたからだ。しかもマリア像の前で、よりにもよって柏木さんが祐巳の頭に手を置いている場面。どうやら、この間の土曜日に撮られたものらしい。
「偶然見かけて、気が付けば夢中でシャッターを切っていたわ」
「角度的に茂みの中からの撮影なのに、『偶然見かけて』とか言える蔦子さんってどうかしてると思う」
 写っている祐巳たちの角度から、この写真を撮った時に蔦子さんが隠れていた場所はすぐに分かった。マリア像の前はロザリオ授受の人気スポットなので、近くの茂みの中で呼吸とか気配とかを殺しながらシャッターチャンスを窺っていたのだろう。そこに祐巳たちがたまたま通りがかったのだから、蔦子さんが「偶然」と言ったのも間違いではないのかもしれないが、それでもやっぱり彼女はどうかしてると思う。
「で、この人って誰なの? やたらと親しそうにしていたけれど、祐巳さんの恋人?」
 蔦子さんが写真の中の柏木さんを指差しながら尋ねてくる。
「んなアホな。その人は柏木さんって言って、花寺学院の生徒会長。私は薔薇さま方に頼まれて、お迎えとお見送りをしただけ。親しそうに見えたのは、柏木さんが私の弟の先輩で、何度かウチに遊びに来た事のある人だから。てなワケで、間違っても恋人なんかじゃないから。私、男の人に興味ないし」
 そもそも生徒の恋人だからって、仮にも女子高の敷地内に足を踏み入れる事を「数日前に彼女と別れたんだ。他に好きな男ができたんだってよ。……ちくしょう! 彼女のいる奴なんざ皆不幸になっちまえ!」と同僚(既婚者。迷惑そうにしていた)に向かって愚痴っていた三十歳間近の守衛さんが許すはずがない。強行突破を図ったとしても、嫉妬の鬼と化して地の果てまで追ってくる事だろう。
「勿体ない。せっかく、こんな美形とお知り合いなのに」
 確かに柏木さんは、擦れ違ったら思わず振り返ってしまいそうになるほどの美男子だ。でも祐巳にとっては、どんなに美形であろうと男である限りどうでもいい。
「じゃあ、紹介してあげよっか?」
「遠慮するわ。なにしろ私が興味あるのは」「女子高生と汗とエロス。特にスポーツ少女の、運動した直後の姿に目がないとか」「……うん。まあ、否定はしない」「しようよ。せめて、フリだけでも」
 汗で張り付いたTシャツに浮き出る身体のラインや透けて見える肌に、神々しさを感じるらしい。ここにいるのが祐巳のような真っ当な変人だから良いものの、他の人だったら変人扱いされてる所だ。
「で、話を戻すけれど、この写真はどうする?」
 蔦子さんが、指に挟んでいる写真をヒラヒラさせながら尋ねてくる。別に処理してもらっても構わないのだが、自分も写っている写真を他人に処理されるのは何となく抵抗があった。少し考えた後、祐巳は答えた。
「んー、じゃあ、記念にもらっておくよ」
 アルバムの肥やしくらいにしかならないだろうけれど、捨てられるよりはずっと良いだろう。
「それなら、はい。落とさないように気を付けて」
「んで、変なイベント発生させたりするの? ははは。私、そんなドジっ娘属性は持ってないよ」
 そう言って写真を受け取ろうと手を伸ばしたその瞬間、イタズラな風が吹いた。
「あ」
「あ」
 蔦子さんの手から離れた写真は風の吹くまま廊下を舞い、祐巳たちから少し離れた所で、この時が来るのを待っていたかのように都合良く開いていた窓から飛び出して行く。
 ひゅおおおおぅ。
 祐巳と柏木さんの、何だか良い雰囲気的なツーショット写真は空高く舞い上がり、隣の校舎を越えて行った。
「……嘘ぉ」
「……嘘でしょう?」
 その光景を呆然と眺めていた祐巳と蔦子さんは、写真が完全に見えなくなってしまった所でお互いへと青くなった顔を向けながら叫んだ。
「蔦子さんにドジっ娘属性が!?」
「ごっ、ごめんなさいっ! まさか、こんな事になるとは――って、そっち!? そっちなの!? 怒ってないの!?」
「何で? 別に誰かに見られたからといって、困るような写真じゃないし」

 きちんと説明すれば、誰だってすぐに分かってくれる。そう思っていた時期が、私にもありました。



 薔薇の館の二階では、祥子さまが窓辺に寄せた椅子に腰掛けて外の景色を眺めていた。
 清潔なコットンのカーテンに映える黒髪。柔らかな日差しと、その下で靡く祥子さまの前髪が、緩やかな風の訪れを知らせる。
 飛んで行った写真を追いかけて行った蔦子さんを見送った祐巳は、館に来てからずっと、その様子を扉の隙間から眺めていた。
「どう思う?」
 扉の前にしゃがんで、部屋の中を覗き込んでいる祐巳の頭上から声がかかる。その声は、祐巳に覆い被さるようにして部屋の中を覗き込んでいる白薔薇さまのものだ。
「女神の化身かと見紛うばかりに美しいです。差し込む陽光の絶妙な角度が、その美しさを清浄で透明感のあるものに仕立て上げていますね。狙い澄ましたかのような優しい風は、精霊たちの贈り物でしょうか。彼女の浮かべる儚く物憂げな表情は、思春期特有の不安定さを表しているようです。見る者の心に強く訴えかけるものがありますね。これらの要素が複雑に混ざり合う事によって、この美しくも物悲しい、絵画のような光景が生まれたのだと思います。私たちはきっと、神の与え給うた奇跡を目の当たりにしているに違いありません。この至福とも言える時間を邪魔する者は、来たるべき審判の日、地獄に落ちてその身を灼熱の炎に焼かれるであろう」
「誰が美術評論しろって言ったのよ? それに、どうして途中から予言みたいな言い方なのよ?」
「普通に答えても面白くないと思ったので、意味不明な感じに捻ってみました」
「普通で良いから変に捻らないで」
「二人とも、少し静かにしてちょうだい」
 祐巳たちを注意したのは紅薔薇さまだ。彼女は中腰になって、祐巳たちが覗いている隙間よりも上の隙間から部屋の中を覗いている。その更に上には、黄薔薇さま。こちらは立ったまま、紅薔薇さまよりも上の隙間から中を覗いていた。
 残された令さまと黄薔薇のつぼみの妹、プラス志摩子さんの三人は、部屋の内側から見るとおそらくトーテムポール状態な祐巳たちを後ろから眺めている。こんな人たちが幹部で山百合会は本当に大丈夫なのだろうか、とでも呆れているのかもしれない。
 まあ、自分は幹部ではないのでそんな事はどうでもいい。それよりも、祥子さまの方がずっと心配だ。なぜなら物憂げな表情をしているという事は、思春期特有云々は置いておいて、何か思い通りにならない事があって悩んでいるという事に他ならないからだ。
「とりあえず、何事か悩んでいるみたいですね。内容までは分かりかねますが」
「それくらい、祥子のあの様子を見ていれば分かるわよ」
 じゃあ聞くなよ、と祐巳は白薔薇さまに対して心の中で文句を言った。
「蓉子は? 何か心当たりはないの?」
「……祐巳ちゃんと姉妹(スール)になろうとしている事を悩んでいるとか」
 何を馬鹿な事おっしゃりやがりますか、と一言文句を言ってやろうと顔を上に向けると、祐巳を見下ろす白薔薇さまと目が合った。
「……あー」
「『あー』って何ですか、『あー』って。それから、その『分かる分かる』みたいな顔もやめてください」
 祐巳が白薔薇さまに文句を言っていると、それを聞いていた黄薔薇さまが顎に手をやりながら神妙な顔で呟いた。
「でも、蓉子の言う事も一理あるかもしれないわね」
「いくら打たれ強い私でも、そろそろ泣いちゃうぞ……」
 祥子さまに悩まれる心当たりが多過ぎて、既にちょっぴり涙目だったりする。まだ嫌われてないよね? 手遅れじゃないよね?
「おー、よしよし。泣くな泣くな」
 祐巳の涙に母性本能を刺激されたのか、白薔薇さまが慰めてくれるがちっとも気が晴れない。その胸に顔を埋めさせてくれたなら、こんな不安なんてきっと一瞬で吹き飛んだだろうに。愛が足りない。
「で、どうするの? あの祥子の事だから、私たちが尋ねても素直に答えるわけがないと思うけれど?」
 ちょうど良い位置にあるからか、はたまた手触りが気に入ったのか、白薔薇さまは祐巳の頭を撫で続けながら紅薔薇さまに問う。
「そうね。私たちでは逆効果のような気がするわ。となると、ここは――」
 それはきっと、身内になるかもしれない祐巳に、祥子さまとの距離を縮めさせようという配慮だったのだろう。紅薔薇さまは、可愛い孫を見守る優しいお祖母ちゃん的な微笑みを浮かべながら、祐巳へと視線を向けた。
「祐巳ちゃんの出番ではないかしら?」
「えー? メンドクセーからヤだ」
「……」
 祐巳の返答に表情を凍り付かせた紅薔薇さまは、その場に小さく蹲ると虚ろな視線を中空に彷徨わせた。
「うふふふふっ。姉妹(スール)になりたての頃、あんなに可愛かった祥子は最近やけに反抗的だし、祐巳ちゃんは祐巳ちゃんで、私の言う事なんてちっとも聞いてくれないし……もうイヤ。くすん」
 色々と溜めていたものがあったのだろう。遂には肩を震わせながら床に「の」の字を書き始める。
 そんな紅薔薇さまを、
「ううっ、蓉子……」
「何て不憫な……」
 白薔薇さまと黄薔薇さまが、溢れ出る涙をハンカチで拭いながら見守っていた。



 落ち込んで使い物にならなくなった紅薔薇さまの代わりに、部屋の中へと足を踏み入れる。紅薔薇さまにはあんな返答をしたけれど、本当は心配で心配で堪らなかったのだ。
 祐巳は窓辺に佇む祥子さまの背後に忍び寄ると、普段と比べて随分と小さく見える背中にそっと手を伸ばしながら声をかけた。
「わっ!!!!」
「きゃああああッ!?」
 館の外にまで漏れていそうな(というか、窓が開いているので確実に漏れている)悲鳴と共に、椅子から転げ落ちる祥子さま。床に尻餅を突いた状態で、いったい何事かと祐巳を見上げてくる。
「悩んでばかりだと気が滅入ってしまうのでは? と思ったので驚かせてみました。どうです? 良い気分転換になったでしょう?」
 そう言いながら祐巳は、へたり込んだまま立ち上がろうとしない祥子さまに向かって手を差し出した。その手を見て、まん丸になっていた祥子さまの目がスッと細められる。
「ええ、確かに良い気分転換になったわ。あれほど頭を悩ませていた悩み事が、どこかへ吹き飛んでしまったもの」
「それでこそ、私も驚かせた甲斐があったというものです」
 差し出していた手を祥子さまが掴んだので、その手に力を込めて彼女を立ち上がらせる。「ありがとう。気が利くのね」、と立ち上がった祥子さまは一言お礼を言った後、何だか意味深な微笑を浮かべて祐巳を見つめた。
「ところで祐巳」
「何でしょう?」
「実は私、リンゴを片手で握り潰せるの」
「……」
 祐巳は無言で、祥子さまに握られたままの右手を見下ろした。人間の骨とリンゴって、どっちが硬いのだろう? と疑問に思ったものの、祥子さまなら問題なくどちらも砕けるような気がするので安心だ。……いや、安心してどうする。それに、いくら祥子さまが意外と力持ちだからといって、そこまでできるはずがない。常識で物事を考えろ私。うん、そうとも。祥子さまは、か弱い女性なのだ。
「何かお困りでしたら、何なりと私にお申し付けください」
 でもまあ、万が一、という事もあるし、ここは下手に出た方が良いんじゃあるまいか。
「じゃあ、私と役を替わってちょうだい」
 祐巳の右手を人質に取ったまま、祥子さまが言う。
 思い詰めた顔して何を悩んでいるのかと思えば、まだ柏木さん相手にシンデレラを演じるのが嫌だったらしい。いくら男嫌いと言っても、一度は立ち向かう覚悟を決めたのに、いつまでもウジウジ悩んで情けない。しかし、それとは裏腹に、何という地味で性質の悪い脅しだろうか。ここまでされると、ただの男嫌いなどではなく、何かシンデレラに個人的な恨みを抱いているのではないか、と余計な勘繰りを入れてしまう。例えば、前世が継母だとか、意地悪な姉の生まれ変わりだとか。いや、冗談だけど。
 何はともあれ、とりあえず祥子さまの脅しを跳ね除けよう。この右手は粉砕されるに違いないが、祐巳は非常に強い心を持った人間で、エロには屈するがテロ(暴力行為)には屈しないのだ。
「申し訳ありませんが、それはできません」
 さようなら私の右手、と祐巳が断腸の思いで断ると、祥子さまも本気ではなかったらしく、握っていた手を放して大人しく引き下がってくれた。おかえりなさい私の右手。
「そんなに思い詰めるほど、男の人が近くにいるのが嫌なんですか?」
「嫌よ」
 ほんの僅かな間も置かずに、祥子さまは答えた。彼女の男嫌いは、祐巳の想像以上に根が深いらしい。
「同じ空気を吸っていると思うと、思わず殴り倒してしまいたくなるくらい嫌?」
「あなたね……」
「では、同じ空気を吸っていると思うと、思わず蹴り倒してしまいたくなるくらい嫌?」
「どうして暴力という手段に発想が固定されているのか、私の目を見ながら詳しく説明してもらえるかしら」
「どうしてと言われましても、私としては祥子さまを見てそういう発想にならない方がおかしいかと。ついさっきだって、私の右手を掴みながらリンゴを片手で握り潰せるとか脅されましたし」
 ところで、何か思い詰めているようなので少しでも力になる事ができれば良いな、と思って部屋に足を踏み入れたはずなのに、どうして睨み合っているのだろうか。不思議な事この上ない。
「それよりも、現状を打破する方法を考えましょう。とりあえず、私が思い付いたのは三つ。一つ目は、完全に台詞を覚えられるかどうか相当疑わしい私が頑張ってシンデレラを演じる。二つ目は、祥子さまが気合で男嫌いを克服する。三つ目は、有無を言わさず柏木さんを抹殺する。これら三つのうち、実行するとしたら、どれにします?」
 不機嫌顔で祐巳を睨んでいた祥子さまは、不意に表情を緩めると視線を窓の外へと向けながら言った。
「三つ目で」
「えええっ!?」
 ちょ、本気? え? 本気なの? そこまで――。
「そこまで嫌なのっ!?」
 祐巳の心の声と、落ち込んで使い物にならなくなり、この部屋に唯一存在する扉の向こう側で心優しい友人たちに慰められているはずの紅薔薇さまの声が重なった。
「ちょっと蓉子! 静かにしてよ! 覗いてるのがバレちゃうでしょ!」
「そういう聖だって、自分が大声上げてどうするのよ!?」
「プ――――っ! あっはっはっはっはっはっ! やめてっ! 二人ともやめてっ! ぶふっくくくくくくくっ。しっ、死んじゃうっ! 私っ、笑い過ぎて死んじゃうっ! ひひひはははひーひっひっひっひ――」
 白薔薇さまの窘める声から黄薔薇さまの馬鹿笑いまで聞こえてくる中、祥子さまが咎めるような視線を祐巳に向けてくる。
「あれは何なのかしら?」
 祐巳は祥子さまから目を逸らしながら答えた。
「ラップ現象(誰も、若しくは何も存在しないはずの部屋などで鳴り響く、正体不明な音の事)です」
「でも、お姉さまの声だったわ」
「紅薔薇さま似のラップ現象だったのでしょう」
「白薔薇さまや黄薔薇さまの声も聞こえたわよ?」
「紅薔薇さま似のラップ現象があるのだから、白薔薇さまや黄薔薇さま似のラップ現象があっても不思議ではないです」
「……」
 ただでさえ痛い祥子さまの視線が、物理的攻撃力を伴ってしまいそうなほどに痛くなってきた。どうやら、これ以上惚けるのは無理なようだ。
「ここは、薔薇さま方の威厳と紅薔薇さまの妹(プティ・スール)である祥子さま自身のために、気付かなかった事にするのが最良だと思われます」
「……そうね」
 そもそもの原因は祥子さまにあるはずなのに、それを忘れているらしい彼女は、大きく溜息を吐くのだった。



「ただいまー。あれ? 何でこの靴が……」
 帰宅した祐巳が学校指定のバレーシューズ風皮靴を脱ぎながら首を捻っていると、リビングからお母さんが顔を覗かせた。
「お帰り。静ちゃんたちが遊びに来ているわよ」
「あ、そうなんだ? それで、こうなってるわけか」
 つい今しがた祐巳が脱いだ靴の隣には、それと同じ学校指定の皮靴が二足並べて置かれてある。帰宅して一番に、祐巳はそれを目にしたのだ。
「部屋に上がってもらっているけれど、良かったわよね?」
「うん、構わないよ」
 普段から片付けているので散らかってはいないはずだし、エッチな本だって持っていない。
 しかし、あの二人が平日に遊びに来るとは珍しい事もあるものだ。何事もなければ良いんだけれど、と思いながら、祐巳は三階にある自分の部屋に向かうのだった。



 当然、静ねーさまたちが普段と違う行動をして何事もないわけがなく。
「お帰りなさい。首を長くして待っていたわ。今日は、祐巳ちゃんに色々と聞きたい事があって来たの」
 部屋の扉を開けるなり、待ち構えていた静ねーさまにそう言われた。
 部屋の中央付近に陣取っているねーさま方二人は、帰宅途中にここに寄ったらしくて制服のままだ。足元には、それぞれの荷物が置かれていた。
 とりあえず、「鞄くらい置かせてよ」と伝えて、中身の詰まっている鞄を机の上に置く。教科書を教室に置いて帰るような真似は、今までした事がない。予習復習に使うからだ。その割にテスト結果は、いつも平均点だけど。いや、逆に考えよう。毎日欠かさず予習復習をしているから、平均点で踏み留まっているのだと。
「……ぐふっ」
「祐巳ちゃん?」
 不思議そうな顔した静ねーさまが、急に四つん這いになった祐巳を見下ろしてくる。隣の栞ねーさまは、「まさか、尋ねられる前に土下座するだなんて」と驚いていた。土下座違う。これ、四つん這い。というかこの二人は、祐巳が土下座しなければならないような事を聞くつもりなのだろうか。
「いや、何でもない。ついでに、土下座でもない。ちょっと自爆しただけ」
「自爆? 本当に大丈夫なの?」
 祐巳の頭付近に視線をやりながら静ねーさまが言う。その視線にどういう意味が込められているのか、詳しく説明してもらいたいものだ。本当に説明されたら、泣く自信があるのだけれど。
「大丈夫だってば」
 素早く立ち上がり、本当に何でもない事をアピールする。静ねーさまはそれを見て、「なら良いけれど」と引き下がった。栞ねーさまも、静ねーさまが大人しく引き下がったので、それ以上は何も言う気はないらしい。
「んで、聞きたい事って?」
「祐麒君の学校の先輩――たしか、柏木さんと言ったわね。彼と何があったの?」
「はい?」
 静ねーさまのおかしな質問に、祐巳は首を捻った。
 目の前の幼馴染たちは、福沢家に遊びに来ていた柏木さんと会った事があり、お互いに自己紹介もしているので彼の事を知っていてもおかしくはない。おかしいのは、先ほどの祐巳に対する質問、それ自体だ。
「『何があったの?』って言われても、何もないはずなんだけど……。何かあるの?」
「惚けるつもり? じゃあ、これは何なのかしら」
 差し出されたのは、一枚の写真。今日は写真に縁のある日だなぁ、と思いながら覗き込んでみると、それは蔦子さんが追いかけて行ったはずの、祐巳と柏木さんが良い雰囲気で写っている写真だった。
「何かと思えば……あー、それでさっきの質問なのか。納得した。これって、どうしたの?」
「今日の放課後、お御堂に向かっている途中で拾ったのよ」
 答えたのは、静ねーさまの隣に立っている栞ねーさまだ。
「誰かの落とし物だと思って拾い上げてみて、目を疑ったわ。だってその写真には、マリア様の前で祐巳ちゃんと柏木さんが姉妹に」「なってない」「兄妹に」「違うってば」「……姉弟?」「しつこい」「まあ良いわ」「良いの!?」「私が驚いたのは、その写真に、私の祐巳ちゃんの頭に気安く手を置いている生モノが写っていた事よ」
 生モノっていうのは、ひょっとして柏木さんの事なのだろうか。栞ねーさまの爛々と輝いている二つの瞳と寒気を誘う薄ら笑いが恐ろしくて、祐巳は質問する事はおろかその姿を正視する事さえできなかった。ところで、「私の祐巳ちゃん」の「私の」ってどういう意味?
「祐巳ちゃんはね、足の爪から髪の毛一本に至るまで、全て私のものなのよ」
 ヤバイ。敬虔なクリスチャンでシスター志望なはずの栞ねーさま、超ヤバイ。
「それを、あの生モノ……。始末しなければ……。早急且つ適切に始末しなければ……。くふっ、くふふふふふふ」
 病んでる。敬虔なクリスチャンでシスター志望なはずの栞ねーさま、超病んでる。
「さて、怯える祐巳ちゃんを見て心を和ませるのはここまでにして」
「……私がこんな性格になったのは、栞ねーさまの影響を多大に受けたからだと思う今日この頃です」
「まあ嬉しい。祐巳ちゃんは、わざわざ染めるまでもなく、既に私色に染まっているのね」
 栞ねーさまみたいな変人と一緒に育てば、その影響を受けて変人となるか、逆にしっかり者となるかの二つしか選択肢が残されていないように思える。そしてそれは、きっと間違いじゃない。事実、祐巳はその影響を濃く受けて変人となり、静ねーさまと祐麒はしっかり者となった。
「で、話を戻すのだけれど。結局の所、あの生モノは始末しても良いのかしら?」
「戻ってない! ちっとも戻ってない!」
 正確には、戻ってはいるのだが、戻ってはならない所に戻っている、だ。できるなら、もう少し前に戻って欲しかった。そう祐巳が激しくツッコミを入れていると、栞ねーさまの目がすぅっと細まった。
「柏木さんの事、やけに庇うわね」
「そうね。見ていて怪しく思えるくらい庇うわね」
「へ? いやいやいや、ちょっと待ってよ」
 どうやら、とんでもない誤解をしているらしい。二人揃って、祐巳に疑いの目を向けてくる。
「誤解だって! さっきのは単純にツッコミを入れただけで、別に柏木さんの事を庇ったわけじゃ――」
「ムキになる所が余計に怪しい」
「怒らないから本当の事を言いなさい」
 必死に誤解を解こうとするが、一度疑われてしまうと何を言っても言い訳にしか聞こえないようだ。
「どうして信じてくれないの? 私の言う事が、そんな写真一枚よりも信じられない?」
 幼い頃から一緒だった誰よりも親しいはずの二人に信じてもらえなくて、祐巳は今にも泣き出してしまいそうだった。そんな祐巳に、静ねーさまが「何を言っているのよ」とでも言いたげな顔で問いかけてくる。
「まさか、信じてもらえるとでも思っているの?」
「全く思ってない、って胸を張って言える所が目下の悩みの種なんだよねー」
 過去に自分がしてきた事を思い浮かべてみると、信じてもらえなくて当然だと思うのだ。うん。
 祐巳は、いつだったか白薔薇さまが口にしていた、『嘘をつく子供』の話を思い出した。今まさに、自分はその物語に出てくる嘘吐きな少年と同じ扱いをされているのだ。こんな事になるのなら、慌てふためく様子が面白いからって毎日のように桂さんや桂さんとか桂さんをからかうんじゃなかった、と今だけ後悔する。桂さんばっか。そして、「今だけ」。この部分、とっても重要。
「でもね、今回に限っては本当に何もないの。信じてよ」
「ふぅ。分かったわ」
 おお、静ねーさまってば溜息吐いてるのに分かってくれた? と祐巳は期待に胸を躍らせた。
「それで、彼のどこが好きなの?」
「分かってないじゃん!」
 いったい何に対して、「分かった」って言ったのだろうか。どんなにしっかり者でも時々おかしくなってしまうのは、栞ねーさまと幼馴染な以上、避ける事はできないのかもしれない。
「なるほど。祐巳ちゃんは、その胸の奥に芽生えた淡い恋心を認めたくないのね」
「柏木さん相手に、そんな鼻水飛び出しちゃうくらい爆笑しちゃいそうな代物は芽生えてない」
 そして、これから芽生える予定もない。少なくとも、男の人に興味が湧かないうちは。
「本当にそうかしら? そもそも、何を根拠にそう言い切れるの?」
 静ねーさまの、試すような視線。嘘は決して許さない、という強い想いが込められているそれに対して、祐巳は微笑み返しながら答えた。
「だって私、柏木さんより静ねーさまや栞ねーさまたちの方がずっと好きだもん」
「えっ?」
「い、いいい今、何て?」
 祐巳の突然の告白に、目の前の幼馴染たちは、まるで酸欠状態の金魚のように口をパクパクさせた。
「だーかーらー、柏木さんより静ねーさまや栞ねーさまたちの方がず――――っと好きなんだってば」
「……な、何を言い出すかと思えば、まったくもう。驚いちゃうじゃない……」
「……ゆ、祐巳ちゃんったら、急にそんな事言われても、まだ心の準備が……」
「それから祥子さまは勿論の事、からかい甲斐のある桂さんや、一緒にいるだけで癒しになる志摩子さんの事も好きだし、しっかりしているようで抜けてる蔦子さんとか、何だか妙に可愛い所のある紅薔薇さま、年上なのに友達みたいに接してくれる白薔薇さまの事も好き。美少女を絵に描いたような由乃さんなんて最高だし、私の好みとはちょっと外れてるけど、優しくて凛々しい令さまも良いな。黄薔薇さまとはあんまり会話してないけど、美人って見ているだけで目の保養になるよね。あ、そうそう。忘れちゃいけないのが、この間出会った中等部の子とか、薔薇の館にカレーの差し入れに来た桜組の人たち。皆、すっごく可愛かった。是非ともお近付きになりたい! あとは、他にも何人か気になっている人たちが――って、二人とも顔が超怖いんだけど……」
「刹那の感動をありがとう。お返しに、厳しく躾けてあげるわね」
 ポキポキと指の関節を鳴らす静ねーさま。「そんな事してると指が太くなるよ」と注意してあげると、「祐巳ちゃんを躾けるのにはちょうど良い」と笑顔で返された。今日が祐巳の命日となるかもしれない。
「うふふふふふふふ。調教と洗脳、どちらが良い?」
 栞ねーさまには、最早何を言っても無駄だろう。見る人が見たら、全身から立ち昇るドス黒いオーラが見えるのではないだろうか、というくらい目がヤバイ。過去に、二、三人闇に葬ってきた、と言われても今なら信じられる。
「……えっと。これらの人たちの中でも、やっぱり幼馴染の二人が一番好きな祐巳なのであった、っていう締め括りでどうかな?」
「無駄ね。今更付け足すように言われても、余計に腹が立つだけだわ」
「まあ、調教と洗脳に加えて改造まで選ぶだなんて、さすがは祐巳ちゃん。チャレンジャーね」
 悪魔も裸足で逃げ出しちゃいそうな笑顔を浮かべた二人がにじり寄ってきて――、
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぁあああああああああああああああああああああああああああ…………ッッッ!!!!」
 それから後の事は、よく覚えていない。ただ、思い出そうとすると、激しい頭痛と共に全身が信じられないほどブルブル震え始めるので、きっと思い出してはならないような強烈なお仕置きをされたのだろう、と推測される。


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