【3522】 いい様に弄ばれるパエリアクラッシュ  (bqex 2011-06-02 01:12:01)


【No:3495】【No:3502】【No:3507】【No:3514】【これ】【No:3542】
■『パエリア』は飽きたという件■


 うp主がちょっと寝ている間に相当時間が流れた。
 このうp主の『パエリア』は今、一人の人物によってようやく幕が下ろされる。
 扉がゆっくりと開かれた。

「まあ! 掛け声だけで誤魔化したのに扉が開くなんて」

 驚く祥子。

「開きました〜開きましたよ!」

 涙ぐみ喜ぶ祐巳。

「結局『パエリア』の中にいるんじゃないの」

 やれやれ、と肩をすくめる蓉子。
 扉の向こうに立っていた人物は口を開いた。

「中とか外とかよくわからないけど、今日で最後にしましょうね、水野さん」

 苦笑する山村先生の言葉に祥子と祐巳は同時に「え?」と蓉子の顔を見た。

「ちょっと待ってください、これはもしかして『蓉子さまの書いた小説』だったなんてオチなんですか? それって『夢オチ』並に納得できない最後ですけど!」

 祐巳は抗議する。

「それとも、お姉さまが『超常現象の使い手でどうにでもできる何か』だったなんて、そんなオチだったんですの! 自作自演にも程があります!」

 ヒステリックに祥子が叫ぶ。

「落ち着きなさい。それは『伏線』の回収に失敗して収集が付かなくなったときの最後の手段よ。先生がおっしゃっているのは『過去の話から伏線を拾って話を完結させろ』ということよ」

 平然と蓉子は答える。

「えええええっ!? 『パエリア』に伏線なんて高尚なものがあったとでもいうのですか!」

「お姉さま、今からでも遅くはありませんから、正直に『これから後付けしてまとめます』とおっしゃってください!」

 伏線の存在に驚愕する祐巳と祥子。だが。

「『伏線』はあったのよ。二人とも、なにか気づかない?」

 蓉子の質問に祥子が答える。

「今までは例を除いて台詞の前に名前があり、描写や説明が一切省かれていました」

「それが『伏線』よ」

「えええええっ!」

「無茶をおっしゃらないでください! そんなものが『伏線』のハズがありません!」

 ドヤ顔で答える蓉子に驚く祐巳と怒り心頭の祥子。しかし、蓉子は続ける。

「地の文が完全に三人称で書かれている場合、それは事実の説明であるから誰から見ても事実を書かなくてはならないの。でも、地の文が一人称だったり、それに近い三人称――原作の『マリア様がみてる』の祐巳ちゃん視点のような――だった場合、それには視点者から見た事実の説明だから、第三者が見た場合は事実でなくてもいいの」

「わ、私が嘘付きだというのですか?」

 それは心外だ、というように祐巳は声を上げる。

「そうじゃないわ。一人称やそれに近い三人称の場合には視点者の思い込みや誤解も含まれるってわけ。それが巧みに使われたのが原作の『レイニーブルー』で、『パラソルをさして』での祐巳ちゃんと真美さんの会話で解説がされているわ」

「つまり、視点者が勘違いしたことをそのまま読者に事実であるかのように錯覚させるという……それは卑怯じゃありませんか! そのせいで『レイニーブルー』での私の評判は地に落ちたんですよ!」

 憤慨して祥子がハンカチをぎゅっと握る。

「『レイニーブルー』に限っていえば、白薔薇ファンは支持してくれているはずだから落ち着きなさい。話を戻して、『パエリア』の場合、特殊な形式で書かれてきたおかげで『地の文』というものは前回の『ソーラン節』のあたりに辛うじてあったくらいよね。つまり、中には『思い込み』『誤解』や『ミスリード』というものが含まれているのよ」

「なるほど〜」

 納得して祐巳がうなずく。

「それで、お姉さまが回収する『伏線』とは一体何のことですか?」

「それは、このSSの作者は実は『始めから書いている』ということよ」



■笑撃の展開!!■


 蓉子の衝撃の言葉に促した祥子も聞いていた祐巳もただ目を丸くしている。

「い、いい加減にしてください! 今までやってきた『パエリア』はなんだったんですかっ! 大嘘つきじゃありませんか!」

 無残にも破かれたハンカチが地面に叩きつけられる。

「結局、この話って『釣り』だったんですね〜」

 遠い目でどこかを見つめる祐巳。だが。

「よく読んでちょうだい。【ヤマ】から『決める』とは書いてあるけど【ヤマ】から『書いておく』とは書いてないでしょう」

 同時に「え?」と発した祥子と祐巳は過去の『パエリア』を読み返す。

「確かに『書いておく』とは書いてありませんが」

「『決める』って書いてあったら普通は『書いておく』ものだと思いますよ」

 納得いかないというように二人はじっとりとした目で蓉子を見る。

「このSSの作者、頻繁にコメントで『書けな〜い』って書き込んでるでしょう。つまり、実際はこういうことよ」






 現在連載中の話のネタバレをするわけにはいかないので、
 『幻想曲シリーズ』(【No:2956】→【No:2961】→【No:2964】→【No:2975】→【No:2981】→【No:2982】→【No:2996】→【No:3010】→【No:3013】→【No:3015】→【No:3020】)の場合で説明。

【1】書きたいことを決める
  ・姉妹の一方が死ぬとダークの話になるのでダークではない死亡話を書こう。
   →残された人が生きる姿をたくましくユーモアを交えて書く。

【2】ストーリーを考える
  ・姉妹のAが死亡し残されたBとBが死亡し残されたAとが会う。
   →Bが死亡したパラレルワールドからAがやってきて、再会したBが救われる方向で。

【3】主役キャラクターの決定
  ・暗くならない。
  ・後を追ったりしない。
  ・いないことで他のキャラクターにも影響が大きい。
  ・一緒にいられる期間でいろいろと事件を起こしそう。
  ・納得して別れられる。
  ・原作の設定を考慮する。
   →以上を考え心臓に持病を抱えた由乃と令を主役にする。

【4】【ヤマ】を決める(ただし、思い描くだけで書かない。また、ここが書けそうもない場合はまとまらない話になりそうなのでやめる)
  ・【No:3013】のラストから【No:3015】のダイジェスト版のような場面と【No:3020】の別れるシーンが組み合わさったようなものを思い描けた。
   →この辺り出来上がったものが令視点になっているのは当初令視点で行こうと思っていたから。

【5】問題がないか設定などを確認
  ・誰かの話とかぶってないか? (←これは調べられる範囲でなので、かぶってたかもしれない)
  ・『もし由乃と令がいなかったら?』(舞台となる世界)はどうなっているか?
  ・『もし令がいなかったら?』(由乃が元居た世界)はどうなっているか?
   →設定していき話が破綻しなさそうなので進める。
  ・大雑把に【A】【B】を考えておく
   →【A】は状況説明。【A2】として由乃たちが学校に通うまで。
   →【B】は由乃が事件を起こして解決する。由乃の元気さ、たくましさを書きたい。
   →ストーリーの枠組みからいって由乃視点から令視点にバトンタッチさせた方がよさそうなので視点も決定。

【6】書く(頭から)
  ・由乃は『令が死んだ世界』からきているので伏線も入れておこう。
   →読み直すと『そういえばこれは令が死んでいたからか』と思える表現がいくつかあったはず。
  ・思い描いたシーンはダイジェスト版のようなシナリオに過ぎないので連載を締めくくるラストとして大胆に改変。
   →納得して別れるシーンは変えない。
   →【No:3020】は『ダークではない』に相応しいくらいに笑いを狙いにいったのは秘密だ。






「【No:2982】で由乃ちゃんがちさとさんを二年菊組のムカツク生徒としか認識していないのは『もし、令のいないバレンタインイベントにちさとさんは来るか?』が『来ない』に設定されているから、接点がないためで、『桂さんは由乃ちゃんと一緒のクラスになったことがあるらしい』という『黄薔薇革命』の設定が拾われたんですね」

 一足先に読み返していた祥子が納得する。

「それはコメント欄の話ね」

 何か思い出したように蓉子は苦笑する。

「最後は静かなラストシーンでしたよね」

 読み返した祐巳が感想を述べる。

「あのラストシーンには二つの案があって、自分の世界に戻った由乃ちゃんが祐巳ちゃんに行方不明だった一週間の出来事を語るのだけど『それって、夢だったんじゃない』と言われてしまうというバージョンが考えられたの。それでは救いがないから令視点で静かなクリスマスを迎えるというバージョンが採用になったそうよ」

 なるほど、と二人はうなずく。

「それにしても【5】の記述。由乃さんだと事件を解決するだけではなく起こすのもセットなんですね」

「そ、それは、パラレルワールドから来たから引き金になったという意味ではないのかしら……と言っておくわ」

 蓉子はうつむいたままプルプルと両肩を震わせて笑っている。

「これで、『伏線』を回収したということでよろしいんでしょうか?」

「もう、疲れました。ここまでにしましょう」

 確認する祥子に祐巳が相槌を打ち、蓉子が頷き、三人は出て行った。
 一人残された山村先生は。

「そんなもの、『パエリア』なんていちいちスルーすればいいじゃないの。みんな忘れてる『詰め合わせ』でキーを引いてたのは水野さんじゃない。ねえ」

 と呟いたという。


〜パエリア食べ過ぎのためここでクラッシュ〜


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