※今回はキー一発目で並んでた3つを使用しました。
「と、いうわけで」
いつものように美しい額全開の江利子が切り出した。
「あの、何が『と、いうわけで』なのかさっぱりわからないのだけど」
切り出された方の蓉子は当然尋ねる。
「このタイトルに従って今日の私は大統領なの。大統領として水野蓉子、あなたに出撃を命じます」
「帰るわ」
ドアを開こうとするがびくともしない。ドアノブ必死に押したり引いたりしている間に背後から忍び寄る影があった。
「蓉子さま、失礼します!」
腕を決めるように抱きついてきたのは令だった。
「なんなのよ、いきなり! 離しなさいっ! 離しなさいっ!」
抵抗するが体力で敵う相手ではない。
「大統領、パイロットの身柄を拘束しました」
「ふふふ。諦めてYF-21に乗っちゃいなさい」
「ここまでやって私、YF-19のパイロットじゃないのっ!?」
驚いて蓉子は確認する。
「だからはじめに言ったでしょう。YF-19に乗って地球に向かった聖を追撃しろって」
聞いてなかったの? というように江利子は溜息をつく。
「いきなり『と、いうわけで』で始められたのにその前の話をされてわかるかっ!」
裏拳で突っ込みを入れようとしたが、令に抱きつかれていたので無理だった。
「今、理解できたでしょう。じゃあ出撃しなさいよ」
「なんで私が――」
「だから、大統領命令だって言ったじゃないの」
私の命令、と江利子は自身を指す。
「それは確かに言ってたけれど――」
「大統領命令に逆らったら処分されるのよ」
ニヤリ、と何かを思いついたような表情になる。
「いいわよ、私の責任でやってることだし」
来るなら来なさい、というように江利子を睨みつける蓉子だったが。
「甘いわね、蓉子。凸国では大統領に逆らう大逆罪はファミリー全体が連帯責任で処分されるのよ。そうね、宮殿前広場で祐巳ちゃんと瞳子ちゃんを従えた祥子に肉襦袢にまげ姿で不知火型の土俵入りを披露してもらうっていうのはどうかしら?」
「ぐふあっ! それは絶対にゴ○ゴ13雇われて殺されるから勘弁してっ!」
陥落した。
「あ、それからそこのドアは引き戸になってて――」
「こんなところに小ネタ仕込むのやめてよ!」
なにはともあれYF-21に乗せられ、地球に向かう。
YF-19の姿が見え、蓉子は通信を開始する。
「惜しかったわね。今なら無断出撃の件はとりなしてあげるから戻りなさい」
返信がくる。
『蓉子……何をしに来たわけ? 悪いけど、これからデートの約束があるから後にしてくれる?』
YF-21よりミサイルが発射された。
『そういう物騒なものいきなりぶっ放すのやめてって! なんて暴力女だ! そんなことだから妹がヒステリー起こすんだよ!』
YF-19より迎撃ミサイルが発射された。
「やかましいわね! 昔から自分のことを棚にあげてよくもまあそんなことが言えること! 彼女に捨てられて駅のホームで凍えてるあなたを迎えに行ってあげたのを忘れたのっ!?」
YF-21が本格的に戦闘モードになる。
『それは私のお姉さまっ! 過去を捏造するなっ!』
YF-19も受けて立つように戦闘モードになる。
「志摩子の名前まで調べたのにお近づきになれない人見知りのあなたに代わって薔薇の館に呼び出したのは私よ!」
『その分妹をけしかけて遊んでたのは誰だってのっ!! そっちが受験で忙しい間祐巳ちゃんのフォローをしたのは私だっ!』
「そんなもの、今までの貸しの分の利子ぐらいにしかなってないでしょう!」
『いちご牛乳だって2回はおごったのに!』
「私は13回おごらされたわよ!」
『しっかり数えてるんじゃないよ!』
この間、双方の機体の性能をフルに生かした戦闘が展開されていた。
攻撃をかわすごとに周りの人工衛星などに被害が及ぶ。
『待て、このままでは収拾がつかない』
膠着状態になったとき、聖から通信が入った。
「そうね。この勢いでいったら次は地球終了のお知らせをアナウンスしなくてはならないでしょうね」
その言葉に蓉子は少し冷静になる。
『蓉子はどうせ大統領命令とかであのでこちんに祥子を盾にされてこんなことやってるんでしょう』
でこちん、とは江利子のことである。
「そうだけど」
『じゃあ、でこちんの魔の手から祥子を奪回すれば丸く収まるじゃん』
「反逆罪になるわよ」
『失敗すればね。クーデターは成功すれば罪にならないでしょう。手伝ってあげるから、デートに行くのは見逃してくれる?』
数時間後、凸国の上空に現れたYF-19とYF-21により大統領宮殿が破壊された。
大統領の江利子は消息不明となったという。