「ごめんください」
休日のお昼時、祐麒と二人でおうちでお留守番していたら。
リビングの入り口からのいきなりの声に、驚いて振り向くと、美女が二人並んで立っていた。
我が家では有り得ない光景に目を疑いつつも、祐巳は声をあげる。
「祥子さま! 清子おばさま!」
「こんにちは、祐巳ちゃん。 元気そうね。 あら、そちらは彼氏さん?」
清子おばさまが祐麒を見ながらおっしゃる。 祐麒は固まったまま顔だけ赤くなった。 パニックって感じかな。
「わ、私の弟の祐麒です。 お正月にお会いしたと……」
「そうだったかしら。」
「ごめんなさい、祐巳。 私はお引止めしたのよ。 こんなあつかましくも勝手に上がり込んで……」
「祥子さんの妹なら私の娘だもの。 遠慮なんて必要ないの。 ねえ、祐巳ちゃん。」
「お母さま……」
それからお互い挨拶を交わして。
清子おばさまは、すぐ出来るから待ってて、とおっしゃってキッチンに向かわれた。
祐巳はお飲み物を出そうとしたけれど、お姉さまがご自分でされるというので。
祐麒が、失礼の無い様に着替えて来ると言うのに付き合って、祐巳も着替えることにした。
小一時間後、テーブルに向かって四人で座る。 テーブルの上には銀色の器が三つ乗っかっていて。
「あの、清子おばさまの分は?」
「私はいいのよ。」
「はあ。」
正面に座ってる清子おばさまは、笑顔でおっとりとお答えになる。
両隣を、お美しいお顔をもったいなくも顰められたお姉さまと、スーツにネクタイを呆けた顔で着こなす祐麒に挟まれて。
晴着を身に着けた祐巳は目の前に置かれた存在を見つめた。
例のアレ、鍋焼きうどんに見えなくもないが。
「祥子さんから聞いたのよ。 甘味が祐巳ちゃんの好物なのよね。」
「は、はい…… それはまあ……」
「さあ、皆さん召し上がれ。 鍋焼きぜんざいうどん、私が考えたの。 遠慮なんてしてはダメよ。」
お醤油ベースのおつゆにつぶ餡がたっぷりと混ぜてあって、それが煮詰まっててドロリとしている。 えもいわれぬ香りって、これなんだ。 あ、お餅も入ってる。
「そ、それでは遠慮なく…… いただきます……」
祐巳が意を決して食べ始めると、後の二人もそれに続いた。
「あ、これ…… おいしい……」
結局三杯とも祐巳がペロリと平らげた。 体重計に乗るのがちょっと心配になるけれど。 美味しかったから。
「お醤油のお味が甘みをひき立てていて、麺に絡んだ餡がなんとも得がたい感じで……」
心酔した感じの祐巳の感想を、清子おばさまが嬉しそうに聴いていらっしゃる。
「また、食べてちょうだいね。」
「はい! 喜んで!」
次があるんだ、と祐巳は嬉しくなって笑顔で答える。
お姉さまと祐麒は、なんでか一口ずつしか食べなかった。 そのぶん祐巳が満喫させてもらったけど。
祐麒はテーブルに突っ伏したままピクリとも動かない。 失礼な態度だなあ。 後でお説教しとかないと。
お姉さまは、背筋を伸ばしたきれいな姿勢でお座りになっていたけれど、お顔が蒼い様子で心配になったが。
祐巳がお顔を覗き込むように見つめると。
汗を流しながらも、
「祐巳が喜んでくれて、本当に良かったわ。」
と、笑ってくださった。
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作者:水『きっと幸せあんかけ焼きそば【No:445】』に続く?