「令ちゃん、付き合ってる人を紹介するよ。」
近所の公園で、由乃がいきなりこう切り出すと、令ちゃんは一切の活動を止めた。 そよ風に髪が揺れるだけ。
思わず笑みになる。 ニヤリ。
「ほら、山辺さん。 付き合ってる人よ、江利子さまが。」
「ど、どうも…… 江利子さんに言われて来ましたが、これはどういう……」
ビックリした? と令ちゃんに笑いながら話しかけると、令ちゃんの活動が再開した。 驚異的な敏捷性を伴って。
「由乃…… ほんとにビックリしたよ。 こんな心臓に悪い事やめてよ、もう……」
ぎこちなくも笑顔に戻りながら、のんきな口調で令ちゃんが言ってくる。
だけれども、目の前の光景に圧倒され、由乃は口が利けなかった。
熊男がすごい勢いで、どんどんボロ雑巾になってゆく。
ナニガオキテイルノダロウ。
令ちゃんを見ると、手足がうっすらと透けて見えるだけ。
目の前の出来事の推測はできるが、全くといって現実感に乏しかった。
面白そうだから、と江利子さまのイタズラに気軽に乗っただけなのに、この光景はなに?。
まだまだボロボロになってゆく。
令ちゃんがのんきに声を掛けてくるのも、耳に入ってこない。
(タイムふろしきの中って、こんなかな……)
そんな事を考えつつ、由乃は無表情で見つめ続けた。
遠くの方では公園の立ち木の後ろから、大小ふたつの影がそれを見つめていた。