【3555】 二条乃梨子の消失  (Rosshi 2011-09-30 21:12:46)


初投稿ですが、勇気を出して短編祭りに参加させて頂きます。
宜しくお願いします。


【短編祭り参加作品】

 マリア祭を無事乗り切った、初夏のある日。
「乃梨子、「東寺 所蔵品展」にはもう行きました?」
乃梨子は、今年もクラスメイトになった瞳子からの問いかけに読んでいた雑誌、「週刊 仏像の友」から顔を上げた。
1ヶ月ほど前から都内の博物館で「東寺 所蔵品展」が開催されていた。
「もちろん!初日にタクヤ君や仏像愛好家仲間と行ったし、先週志摩子さんとも行ったわよ。」
乃梨子は、志摩子と一緒に博物館へ行ったときのことを思い出して口元を弛ませた。
初日はタクヤ君達に仏像や書物などの所蔵品について解説を受け、大きくて分厚くてとっても高い図録を自ら購入(おかげで今月はピンチ!)。
しっかり予習した上で志摩子とのデートに望んだのだ。結果は上々で、意気揚々と展示された所蔵品を解説する乃梨子を志摩子は、
「すごいわ乃梨子」「乃梨子は何でも知っているのね」と極上の微笑と共に褒めてくれた。
至福の時間だった。

 瞳子は、突然ニヤニヤしはじめた親友に対する、少し残念な気持ちを胸に隠して、
「そう...。私も行ってみたいと思っているのだけれど、そういったことに詳しい乃梨子と一緒だと心強いと思って。
2度も見に行った後ではご一緒して貰えませんね。」
と残念そうにつぶやいた。それを聞いた乃梨子は、
「別にいいよ。都内で東寺の仏像が見れる機会なんて滅多にあるわけじゃないし、閉館する前にもう一度行こうと思っていたから。」
「本当ですか?では、今度の日曜日に連れて行ってください。」
「いいよ。でも、お出かけするなら祐巳さまと一緒のほうがいいんじゃないの。」
ちょっと意地悪く笑ってみせる乃梨子に
「今回ばかりは、お姉さまより乃梨子とデートがいいですわ。」
と、瞳子はウィンクと一緒に言葉を返した。

 博物館は、結構混んでいた。先週志摩子と来たときよりも人が多く、若い女性、それも高校生くらいの女の子が多かった。
そういえば、と乃梨子は先日送られてきたタクヤ君のメールを思い出した。
「理由は分からないけれど、なぜかリリアンの生徒さんが多く来館してくれているようで、博物館の関係者は首を捻っている。
けれどこういった催し物にしてはお祭りのような華やいだ雰囲気が生まれて嬉しい。」という話を知り合いの学芸員に聞かされたそうだ。
タクヤ君は、「乃梨子ちゃんの影響かね。」なんて書いていたけれど。
メールを読んだときには、半信半疑だった乃梨子も来てびっくり。
確かにリリアンの生徒が多いようで、紅と白の蕾が連れ立っているものだから、
挨拶されたり、キャーと黄色い声を上げられることも少なくなかった。

 図録を手に瞳子と一緒に館内を回った。乃梨子の解説を聴きながら、瞳子は感心しきりだった。
適切な解説を受けながら鑑賞すると、興味のなかったものでも面白いと言って乃梨子を喜ばせた。
ただ時々、瞳子は先の展示室を気にするそぶりを見せるのを乃梨子は気づかなかった。

 古文書(こもんじょ)を集めた展示室に入るとさらに人が多かった。ガラスケースに保管された文書や書を眺めてまわる。
さすがにこういったものの良さは、乃梨子にはまだまだ理解の範囲外だった。
しかし、瞳子のほうはちょっとソワソワして、何かを探しているようだった。
とある古文書の前で瞳子は、瞳を輝かせながら乃梨子に尋ねた。
「ねえねえ、乃梨子。この「東寺百合文書」というものにはどういったことが...」
「...ゆりって読むな。」
「えっ、えーと。」
瞳子は小首をかしげながらしばし思案した後、右手のコブシを左の掌に軽く打ちつけて、合点がいったという顔を乃梨子に向けて言った。
「この「東寺ガチ文書」は、」
「ガチって読むな。平安時代からある、国宝の古文書をガチなんて読み方する訳ないでしょ!」
「では、なんと読むんですの?」
「とうじひゃくごうもんじょ。古文書を収めた桐箱の大きさが100合あったことからそう呼ばれているの。」
「じゃあ、中身は・・・」
「主に寺院の宗教的な活動について書かれているって、タクヤ君が教えてくれたわよ。」
「では、ガチな事柄については・・・」
「そんなモン、書いてあるか〜!」
乃梨子はそう叫びながら、手に持った図録で瞳子にツッコミを入れるのだった。

 この日を境にリリアンの生徒たちがパッタリ来なくなり、博物館の関係者はさらにくびを捻るのだった。


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