【3584】 私だけを見てくれない  (紅蒼碧 2011-11-06 23:24:32)


≪何時からだろう≫
今の関係に物足りないと感じるようになったのは…。

≪何故だろう≫
見ているだけで満ち足りていた心が、『寂しい』と感じてしまうようになったのは…。

≪何処でだろう≫
二人の仲を羨ましいと思うようになってしまったのは…。


・・・・・
・・・



〜とある日の放課後〜

「ちょっと祐巳さん!!いい加減に白状しなさい!!」
「もぅ〜、由乃さんしつこいよ〜」
「何ぉ〜〜!!こらっ!!待てっ!!」

薔薇の館の2階(サロン)では、二人の騒がしい声が響き渡っていた。
一人は由乃の声。
もう一人は祐巳の声である。
二人以外にも、自分の席について話しをているのは、志摩子と乃梨子である。
瞳子は、演劇部に出席しているため、本日は休んでいる。

「あぁ〜疲れた〜」
「由乃さんが無茶するからだよ・・・」
「だって、気になることはそのままにしておけないでしょ?気になったら直ぐに追及すれば済むんだから!!」
「もぅ〜」

祐巳は『仕方ないな…』とばかりに苦笑する。
何故こんなことになっているのか・・・。
それは教室で祐巳と由乃に蔦子や真美を含めて話をしていたとき、由乃だけ知らない話が出てきた。
内容は昨夜のテレビ番組についてだった。
丁度そのとき、由乃の姉(スール)である令が家に来たため見逃してしまったのだ。
大した内容ではなかったのだが、皆が面白がって説明しなかった。
そのため、由乃の性格を考えると『気になってしょうがない!!』ことと、簡単に白状しそうな祐巳に狙いを絞ったため現在に至ることとなった。

「相変わらずですね、お二人は・・・」
「・・・」

苦笑しながら二人の方を見ていた乃梨子が志摩子に問いかける。
しかし、一向に返答が返ってこない。
不思議に思い志摩子の方を見ると、志摩子は呆然と二人を見ていた。

「志摩子さん?」
「え?、あっごめんなさい。何かしら?」
「どうかしたの?大丈夫?」
「ええぇ、何でもないわ。大丈夫・・・」

こちらを向いて話をしているのだが、目線は二人に向いたままだった。

「志摩子さん、何か気になることでも?」
「ごめんなさい何でもないの・・・ただ」
「ただ?」
「・・・・・・・・・・仲良しだなって思っただけ」
「???、ぅうん、そうだね・・・」

長い溜めの後に言った志摩子の言葉に対し、首を傾げる乃梨子。
普段の志摩子の態度でないことは一目瞭然。
しかし、何に対して志摩子が思案しているのか見当もつかなかった。

「そうだ祐巳さん」
「何?」
「次の休日、遊びに行っても良い?」
「えっ!?」
「『えっ!?』って何よ『えっ!?』って!!」
「ごめんごめん、急に聞かれたから驚いただけ」
「・・・まぁいいわ、それで?良いの悪いの?」
「もちろん良いよ。けど急にどうしたの?」
「祐巳さんは私の家に来たことあるでしょ?」
「うん」
「そういえば祐巳さんの家へ行ったことないな〜って思ったら、急に行きたくなって」

『てへっ』っと悪戯した後の様な顔をしながら祐巳にそう言った。

「それにね、友達の家へ遊びに行ってみたいってのが本音かな」
「っ!!」

それは、少しだけ重い言葉だった。
心臓に疾患のあった由乃は周りから一歩引かれ、由乃もまた一歩引いた付き合い方をしてきた。
それにより、『友達の家へ遊びに行く』ことがなかったのだ。

「・・・そうだ!!」
「なっ何!?」

突如、大声をあげた祐巳に由乃が目を見開いて驚いた。

「折角だから泊まっていかない?由乃さんが良ければだけど♪」
「えっ!?・・・いいの?」
「もちろん!!お母さんもその方が喜ぶよ♪」
「じゃ〜お言葉に甘えて!!楽しみだな〜」

それから二人は暫しの間、『祐巳さん家どの辺?』とか『何持って行ったらいいかな?』という話で盛り上がっていた。


・・・・・
・・・


翌日 〜銀杏並木道にて〜

やはり志摩子さんの様子が可笑しい。
昨日、薔薇の館へ一緒に向かったときは笑顔もあり、いつも通りの様子だった。
しかし、薔薇の館に着き、しばらくしてから様子が変わったのだ。
一言で言えば、感情が読み取りにくい表情をするようになった。
元々、祐巳さまの様に表情の機微が良くはないが、花が綻ぶ様な淡い笑顔が素敵だった。
様子も、考え事をしているのか反応もあまり良くなかった。
私が心配して『大丈夫ですか?』と問いかけても『大丈夫よ』『何でもないの』としか返ってこなかった。

「・・・っ」

あの時は、由乃さまと祐巳さまが話している以外特に何もなかったはず・・・。
話の内容も志摩子さんのことではなく、由乃さまが祐巳さまのお宅に泊まりに行くといった友達なら当たり前の話。
まぁ〜二人は自他共に認める親友同士だから、今まで話に無かったのが不思議なくらい・・・。

「・り・っ」

じゃ〜何が志摩子さんをあんな風にしたのだろう。
まさか私の入れた紅茶が美味しくなくて固まっていた!?
いや、それは流石に・・・いつも通りだし、祐巳さまは美味しいと仰っていたし・・・。

「ちょっと、乃梨子ってば!!」
「うわぁぁ!!」
「きゃっ!!な、何!?」

銀杏並木を校舎の方に歩きながら考え事に耽っていた乃梨子は、瞳子に呼びかけられ、肩を叩かれたことに驚いてしまった。

「びっくりした〜、何だ瞳子か・・・」
「何だじゃ、ないはわよ・・・。こっちこそ驚いたのだから。何回呼びかけても無視されるし」
「ごめん、ごめん。考え事してて気づかなかった」
「もぅ、しっかりしてよね」

『ブゥトンなのだから』瞳子はそう言わなかったけど、何となく分かったしまった。
気を引き締めないと。
私の一挙手一投足で、志摩子さんや山百合会にまで迷惑をかけることもあるのだ。

「それで、考え事ってどうかしたの?」
「実は、志摩子さんのことで・・・」
「ロサ・ギガンティアのこと?」
「瞳子は昨日演劇部に参加していたから知らないと思うけど、薔薇の館で話をしていたら、急に様子が変わったんだ」
「どんなふうに?」

乃梨子は、昨日の出来事を瞳子に話した。
薔薇の館に二人で行くところから、電車で分かれるまでの流れを語った。

「確かにロサ・ギガンティアらしくないわね」
「でしょ?今の話で何か気づいたことない?」
「話の内容も、普通だしロサ・ギガンティアが気になさる点は思いつかないわ」
「やっぱりそうだよね〜」
「でも由乃さまがお姉さまのお宅にお泊りなんて・・・。私ですら泊まったことはないのに・・・」
「・・・。こらこら、今は志摩子さんのことでしょ?」
「ごめんなさい、つい・・・」

瞳子も親バカならぬ妹バカになってるな。
何か微笑ましいかも。

「前ロサ・ギガンティアに相談してみたら?」
「ええぇ〜、私あの人苦手だから無理・・・」
「・・・。それなら、お姉さまに聞いてみたら?もしかしたら何か分かるかも知れないわよ?場合によっては協力して頂けると思うし」
「そうだね。志摩子さんの友人で一番近いところにいるの祐巳さまだし、もしかしたら何か気づかれているかもしれない」
「余り、期待過多にしない方がいいと思うわよ」
「了解。昼休みにでも行ってみる」
「私も気になるから付き合うわ」
「気になるのは祐巳さまでしょ?」
「うっっ。そ、そうよ。悪い!?変なこと言っていると置いていくわよ!!」
「ごめん、ごめん」

改善はされてきたけど、まだ素直じゃないな。
何て思いながら校舎の中に入って行くのだった。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


放課後 〜古い温室にて〜

「急に呼び出してしまい申し訳御座いません」

二時間目の休み時間、祐巳に会いに行った乃梨子は、昼休みに温室へ来て欲しいとお願いしに行ったのだった。
祐巳の答えは一言『良いよ』とのこと。
内容を聞いてきたけど、『その時に』と言ってその場を別かれた。
由乃さまには内緒でと言うこともプラスして。

「大丈夫だよ、って瞳子も来てるんだ」
「ごきげんよう、お姉さま。私が一緒では問題があるのでしょうか?」
「そんなことないよ?すっごく嬉しい♪」

その一言で、瞳子の顔が瞬時に赤くなり、それを隠すように俯いた。

「コホンッ。本題に入っても宜しいでしょうか?」
「あぁ〜ごめんね、何かな?」

あのまま放っておくと惚気られそうなので瞬時に話を切った。
瞳子も気持ちを切り替えたようで、話を聞く体制に入った。
しかし、顔はまだ赤い。

「話というのは、お姉さまのことなんです」
「志摩子さんのこと?」
「はい、昨日の志摩子さんの様子で何か気づかれたことは御座いませんか?」

まず、何も説明せずに問いかけてみた。

「うぅんん・・・。薔薇の館に入ってきたときは何時もの志摩子さんだったけど、由乃さんと話した後作業に戻ったあたりから、ぼぅっとしていたような・・・」
「やっぱりそうですか!?」
「えっ!?、自身はないけど何となくそう思ったんだ」

乃梨子と瞳子はお互い驚いた顔をしながら見合った。

「もっと具体的に何か分かりませんか?」
「うぅんん・・・。それ以上はちょっと分かんないかな・・・」
「そうですか・・・」

祐巳も結局は乃梨子と同程度くらいしか分からなかったみたいだ。

「でも偶にだけど、あんな表情してるときあるよね。あんなあからさまな表情を見たのは久しぶりだけど・・・」
「他にもあったんですか!?」

乃梨子は驚いた。
自分の知らないところで、何か悩み事があるのではないかと思ってしまった。

「まだ最近だと思うよ?まぁ〜私がそう思っただけだから分からないけれど」
「いいえ、参考になりました。ありがとう御座います」
「もういいかな?」
「はい、また相談させて頂くかもしれませんが・・・」
「何時でも大丈夫だよ♪さっ、志摩子さんと由乃さんも待たせているし、薔薇の館に行こっか♪」
「お姉さまは、ただ単にお腹が空き過ぎただけではありませんか?」
「うっ!?なんて鋭いところを・・・」
「お姉さまは丸分かりなんです」
「じゃ〜私のお腹のために急いで行くよ〜」
「ちょ、ちょっと!!」

祐巳は瞳子の手を引っ張りながら薔薇の館へと急かした。
それを一部始終見ていた乃梨子は、まだ昼ごはんを食べていないにも関わらず『ごちそうさまです』と苦笑しながら二人の後を急いで追いかけるのだった。



【To Be Continued??】


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