「……クイズでもやりましょうか」
いきなり祥子さまがそう言い出したのは、暇で暇でしょうがない、山百合会の稼動状況が原因だったと思われる。
「クイズ、ですか?」
「そうよ。無為にぼんやりと過ごすなんて、もったいないわ。少し頭でも鍛えてみましょう」
戸惑いがちに尋ねた由乃さんに、祥子さまがうんうんと頷きながら言う。
「回答者は志摩子に由乃ちゃんに祐巳。出題者は私と令と乃梨子ちゃん。これでどうかしら?」
「2年生対決ということですね。面白そうじゃないですか!」
祥子さまの提案に由乃さんがノリノリになる。志摩子さんは特に反対する様子もないし、祐巳としても祥子さまの暇つぶしになるのなら、まぁクイズくらいは良いかな、と思う。暇だったし。
「どうせなら、賞品を決めましょう。そうね……今度の日曜日に、好きな相手とのデート権、なんてどうかしら? ちょうどここに、お父様から頂いた映画の無料チケットがあるのよ」
祥子さまの提案に由乃さんが「賛成!」と声を上げる。これまた反対意見は出てこなかった。祥子さまが提示した無料チケットは、中々ロマンチックで好評な映画だったからだ。祐巳も是非、みたいと思っていた映画だ。
「では、クイズは10問。分かった人は手を挙げて回答。出題は私、令、乃梨子ちゃんの順番で良いわね?」
祥子さまがルールを決めて、突発的に山百合会クイズ大会二年生カップは始まった。
「では、第一問」
祥子さまが指を顎に当てながら、ちょっと考え込む。ぐっと身構える由乃さん。なんか由乃さんが一人ノリノリだ。
「私の一番好きな食べ物はなんでしょう?」
「はぁ!?」
いきなりレベルの低い問題に、由乃さんが思わず声を上げる。
「なんですか、その問題!?」
「あら、良いじゃないの、別に。さ、分かった人は?」
祥子さまは涼しげに由乃さんのツッコミをかわし、祐巳たちを見る。
「うー……じゃあ、はい!」
由乃さんがしゅた、と手を挙げた。
「ズバリ、メロン!」
「外れよ」
祥子さまが首を振る。悔しそうな表情になる由乃さんに続いて、志摩子さんが手を挙げた。
「では、銀杏の茶碗蒸しで」
「外れ。それはあなたの好物でしょう? さ、祐巳。残るは祐巳だけよ?」
「え? えーと……」
祥子さまに促され、祐巳はちょっと困る。祥子さまの嫌いなものなら、色々と浮かんでくるのだけど、好きなものって実はあまり記憶にない。妹として情けないことだけど。
「うーんと……えっと……は、はんばーぐ?」
「祐巳、正解」
適当に答えた祐巳に、祥子さまがあっさり頷く。
「ちょ……祥子!? あんた、いつからハンバーグ好きになったのよ!?」
「あら、心外だわ、令。私は昔からハンバーグが好きよ。ええ、それはもう、幼稚舎の頃から、ハンバーグが夕食の時は、一日中うきうき気分だったわ」
涼しげに答える祥子さまに、令さまは「そういうこと……」と呟いた。
「なるほど、祥子がそのつもりなら……第二問! 今日の私の下着の柄はなに!?」
そんなの分かるか、と祐巳が思うより早く、由乃さんが手を挙げて叫ぶ。
「いちごパンツ!」
「由乃正解!」
ビシッと由乃さんを指差す令さま。
そうか、令さまいちごパンツなんだ、と微妙な空気が紅と白の姉妹の間に流れた。
「これで祐巳ちゃんと由乃が1対1ね」
ふふん、と鼻で笑う令さまに、何故か祥子さまが悔しそうに歯軋りする。なんで出題側の祥子さまが悔しそうなんだろう、と祐巳は首を傾げたけれど、もう一人の出題者である乃梨子ちゃんは、何か思いついたことでもあったのか、ポンと一つ手を打った。
「では、次は私の番ですね。問題です。奈良の観奏寺に祭られている仏像の種類はなんでしょう?」
そんなの分かるわけないと、祐巳と由乃さんが顔を歪める横で、志摩子さんがはい、と手を挙げる。
「確か、久世観音像だったかしら?」
「志摩子さん正解! これで3者1点ですね!」
嬉しそうな乃梨子ちゃんと、悔しそうな祥子さまと令さま。いやだから、なんで出題者側が悔しそうなんだろう?
首を傾げる祐巳を他所に、祥子さまが「問題よ!」と祐巳の方を見る。
「祐巳のバストサイズは!?」
「な、なんでそんな問題を!?」
「良いから、挙手! 分かった人は挙手!」
祥子さまに促されて、仕方なく祐巳は手を挙げた。だってこんな問題、祐巳以外に分かるわけないじゃないか。
「はい、祐巳」
「えっと…………センチです」
「正解よ、祐巳」
にっこりと微笑む祥子さま。その横では、怖い顔をした令さまと乃梨子ちゃんが祥子さまを睨んでいる。
なんだろう、この雰囲気。
ただの暇つぶしのクイズ大会は、一種異様な雰囲気のまま、第5問目を迎えるのだった。
「優勝は4点を獲得した祐巳で決定ね」
祥子さまの問題を祐巳が、令さまの問題を由乃さんが、乃梨子ちゃんの問題を志摩子さんがそれぞれ正解し、3−3−3で迎えた10問目。
順番通りを強固に主張し、10問目を出題をしたのは祥子さまだった。その問題を祐巳が答え、最終的に4−3−3で祐巳が優勝したらしい。
なんか釈然としないものを感じつつ、それでも祐巳は祥子さまから映画のチケットを渡されて、ちょっと嬉しくなる。
「さ、祐巳。賞品のデート権はあなたのものよ。誰でも良いから、指名してちょうだい」
祥子さまに促され、祐巳はほんのりと頬を染めた。
こんなクイズ大会の賞品でデートなんて良いのかな、と思いつつ、せっかくの機会なんだから逃すなんてもったいないよね、と自分を奮い立たせ。
祐巳は答えた。
「じゃあ、瞳子ちゃんで!」
なんか祥子さまが半狂乱になって叫んでいたような気がするけれど、祐巳はるんるん気分で瞳子ちゃんをデートに誘うべく、薔薇の館を後にするのだった。