「ねえ、瞳子ちゃん。」
「なんですか? 祐巳さま。」
「これ、ちょっと見て欲しいのよ。」
「なんでしょうか。つぎの怪盗紅薔薇のターゲットですか?」
「そうでもあり、そうでもなし。」
「例によってなんだかわからない出だしですね。」
「ここのページ。」
「プレミアムブックの祐麒さんの紹介の所ですね。あーーー。祐巳さま。今更、祐巳さまと祐麒さんが双子だって、このファンの間では有名な誤記ネタで行くんじゃないでしょうね。それでアンタッチャブルその4とか言ったらぐーで・・・」
「まあまあまあ。それだけじゃなくて私も知らなかったんだけど、jokerさまがね。双子っていうのは前世で想いを遂げられなかった恋人同士だと。」
「ええええええ。やっぱり。やっぱりやっぱり。祐麒さんってそのあの。」
「ちょっとまってよ瞳子ちゃん。伝説だってば。とはいえ、調べてみたのだけれど。」
「けれど?」
「出所がわからない。」
「うーん、検索してみるとわりとよく出てくる設定みたいですねえ。漫画とかゲームとか。」
「でも元祖がわからないのよ。どうも、前世占いか怪しげな前世療法、いずれにしても20世紀中葉以前にはなさそうなの。それ以前は、日本では『畜生腹』って言葉があったでしょ。」
「不吉だからって片方を里子に出したりっていう迷信ですわね。」
「そ。ローマの建国伝説みたいな『こんなすごい双子が居ました』という話はあっても、わりとどこでも不吉と思われてた、みたい。不妊治療とかが進んで双子三つ子が多い現代とはぜんぜん感覚が違うわ。」
「でも、祐巳さま。それってものすごく残酷な設定ではありませんか。せっかく生まれ変わって一番近くにいる。なのに、恋人として愛し合うことはできない運命にある。ふむ、これでシナリオ一つ書けそうだわ、メモメモ。」
「おーい、瞳子ちゃーん。いきなり没頭してノートにドリルで穴が開くぞー。」
「祐巳さま!!!」
「ここからがちょっと深刻な話でね。」
「はあ。祐麒さんに迫られましたか。」
「祐麒はそんな子じゃないわよっ。その、ね。戸籍、がね。もう一人分あるのよ。」
「はああああっ。どどどどどどういうことですか。」
「私、ずっとリリアンだから入学の時なんかに戸籍を提出したことないわけよね。修学旅行でパスポート取る時に初めて自分の戸籍謄本を見たの。」
「・・・・・祐巳さま、もうひとり兄弟が・・・・・。」
「いるらしいのよ。生年月日は私と同じ。名前は祐麒。」
「まさか。」
「ほんとよ。」
「それで・・・・・その・・・」
「抹消されてはいないわ。生きてるのよ。」
「えええええええっ。その、その、兄祐麒さんは、今の弟祐麒さんの一つ上で、祐巳さまの双子で、ええとええと、行方が」
「わからない、ことはないのよね。」
「どどどどどどこにいるんですか。」
「アニメの中。」
「はあ?」
「だからね、アニメでは、私の双子の祐麒が出てきて、小説と漫画では、年子の弟の祐麒が出てるの。」
「うっそだああああ。」
「嘘じゃないわよ。そのうち原作の方には両方出てくるわよ。」
「うそだうそだうそだ。祐巳さま顔笑ってる、ツインテール立ってる、それは瞳子をおちょくる時の顔ですわ。」
「だって、志摩子さんだって突然兄が増えたじゃない。私だって前世で恋人の双子の兄が居てはいけない? 今まで書いてなかっただけじゃない。」
「そんなこと聞いてませんよっっっ。」
「聞かれなかったもの。」
「志摩子さまですかあああああああっ。」
「と、いうようなムリヤリなつじつま合わせをしてくれると、兄が増えてうれしいなっと思ったんだけど、今野先生、プレミアムブックは別口、なんて宣言しちゃうんだもんな。祐巳はお兄さまが欲しいです。」
「やっぱりぐーで殴る。絶対殴る。って逃げるな祐巳さまっ。」
「・・・・・・と思ったけど、それもおもしろいですわね。前世で恋人だった双子が居る。ところがどういうわけか兄とソックリの弟が生まれる。祐巳を挟んで二人の祐麒がまるで江利子さまと由乃さまみたいに取り合いを・・・・・。」
「しかたがないので、兄祐麒はアニメ、弟祐麒は小説、と出番をわけて」
「しつこいっっっっ。そんなわけねーだろ。」
「うぐぐぐぐくっ。結局やっぱり瞳子ちゃんぐーでなぐったあ。」