お久しぶりのパレスチナ自治区です。
…ああ、あいつかと思い出せてもらえたらうれしいです。
一応、ノージャンルもOKとの事ですので、オリジナルです。
バッドっぽいハッピーエンド(逆?)なお話です。
尚、百合です。それに加え“神隠し”を題材にしてみました。
後、ネタが枯渇している、作文があまり得意でないやつが書くとこうなる、という言い訳を最初にしちゃいます。すみません。
―
鈴は夢を見ていた。
小さい頃の、懐かしい記憶を呼び起こす、そんな夢だった。
実の所、この夢は何度か見ている。
小学生の頃、田舎の祖母の処に行った時の事だ。
入ってはいけないと言われていた裏山に、好奇心を抑えられず入ってしまったのだが…
案の定迷ってしまい、泣きながら彷徨った。
そんな時だった。あの子と出会ったのは。
美しい少女だった。自分より少しお姉さんで、綺麗な着物を着ていた。
着物を見るのは初めてだったので、物珍しかった。
その少女に案内してもらい、裏山を出た。
『もう、此処には来てはいけませんよ』
そう彼女に言われたが、一人っ子の鈴は『遊び相手がいない』と駄々をこねた。
すると少女は困惑気味に、
『では、貴女がこの地に居る間だけ、一緒に遊びましょう』
と言ってくれた。
鈴は初めて友達が出来て、すごく嬉しかった。
それから5日間、二人は一日中一緒に遊んだ。
自宅へ戻らなければならない日、鈴は泣きじゃくった。
『○○ちゃんとまだ遊びたい』、と。
困り果てた両親は何とか鈴を説得すると、鈴にお別れを言いに行かせた。
鈴は泣きながら、5日間少女と待ち合わせた裏山の麓にある鳥居に向った。
少女は何時もの通り、鳥居のそばの生け垣に腰掛けていた。
泣きじゃくる鈴を見て、
『鈴ちゃん、どうしました?』
と。
優しく微笑む彼女を見て安心した鈴は、今日帰らなければならないと伝えた。
少女は残念そうに苦笑すると、
『それなら、また会えるように、おまじない』
と言いながら、鈴の額に口づけをした。
…
と、夢は必ずここで終わる。
さらにどうしてか、少女の名前を思い出せない。
鈴は彼女にもう一度会いたいのだろう。
その証拠なのか、最近この夢を何度も見る。
「会いに行こう。○○ちゃんに」
鈴は決心した。
―
「まさか…」
少女はそう言うが、既に綻びが生じているのを感じた。
―
1日目。
鈴は有給をもらい、祖母の田舎へと向かっていた。
夢を見始めた頃、仕事に対する理想と現実の乖離に悩んでいた。
鈴の若さを妬むお局上司、理不尽な客。
つまりは、一番楽しく愛しい思い出が欲しくてあの頃の夢を見るようになったのだろう。
今回の旅行は良い気分転換になるだろう。
電車に揺られて半日、鈴は目的地に降り立った。
祖母は既に亡くなっており、この地と疎遠になってから十数年。
「ん〜」
鈴は伸びをしてから、予約を入れた民宿に向った。
民宿のおかみは鈴を部屋に案内する際、妙な事を言っていた。
曰く、
『山の鳥居はくぐってはいけません。貴女に想いを寄せる妖が居ると連れてかれてしまいますよ』
鈴はその鳥居についてすぐに見当がついたが、黙っておいた。
鈴はまず、湯につかり旅の疲れを癒した。
しかし、その間も少女の事を考えていた。
「あんなに一緒に遊んだのにな」
その後部屋に戻りくつろいでいると、窓際のある物に気付いた。
風鈴だ。
そう言えば…
『貴女と私を合わせると風鈴になるね』
少女とそんな会話をした事を思い出した。
「……あ」
彼女は、
「風雪ちゃんだ…」
そう。
あの時、新しい友達が出来た事が嬉しくて両親に話をした。
そうしたら両親が、
『風流な名前だね』
と言っていた。
「風雪ちゃん」
鈴はいてもたってもいられず、
「もう直お食事ですよ」
というおかみを振り切り、裏山へと急いだ。
―
「ハア、ハア…」
全力を込めて走ったので息は絶え絶え。
しかし道程は身体が覚えており、直についた。
鳥居は前より苔生し、より風格が出ていた。
そして、
「風雪ちゃん、いますか?私、鈴です。貴女に会いたくて会いに来ました」
鈴は数回呼びかけたが返事はなく、ただ木々がざわめくだけ。
「ハア…だいたい、待ち合わせの場所ってだけだったもんね」
ああ、あの時の大好きな子とはもう…
落胆した鈴。
帰ろうとしたその時だった。
「鈴ちゃん?」
と呼ぶ声。
「!!」
振り向いた先に居たのは、何度も夢を見て、会いたくて焦がれたあの子だった。
―
「鈴ちゃん…」
風雪は焦っていた。
『また5日間だけど、一緒に遊ぼう』
そう鈴は言っていた。あの頃と変わらず無邪気に。
しかし、変わっていなかったのは彼女の人となりだけで…
背は伸び、体つきも大人になり、すっかり美人になって。
「私も、会いたかったですけど…」
しかし自分はというと、あの頃と全く変わらない姿。
これ以上の成長を必要としない風雪は既に数えきれない年月、この姿のままだ。
やはり自分は鈴たち人間にとっては異端なのだと、触れ合ってはいけない者同士だったのだと突きつけられてしまったのだ。
「鈴ちゃん…」
―
2日目。
「あの後、おかみさんに叱られちゃったんだ」
「ふふふ。でも、仕方ないですよね?片づけもあるんですから」
10時頃、二人は鳥居のそばの生け垣に腰掛けて談笑していた。
あの時、お別れをした後から今までの事、冗談を交えながら鈴は風雪に披露した。
鈴は穏やかな顔でそれに相槌を打つだけだったが、楽しい時間が流れた。
しかし、風雪は決して自分の事を語ろうとはしなかった。
彼女には人とは理の違う時間が流れているのだから。
それをわかっているのか、鈴の方もあえて訊こうとはしなかった。
風雪にとってそれはありがたかったが、自分の正体は既にばれているのかと思うと複雑な気持ちだった。
―
「……すみません鈴ちゃん。私、少し眠いです」
暫くの後、風雪は不覚にも睡魔に襲われた。
「あ〜。今日はいい風吹いてるしね」
「ええ」
「ふふふ。じゃあ膝枕してあげるよ?」
「ええ?恥しいですよ…」
「いいから」
「は、はい…じゃあ…」
風雪は鈴に圧されて、鈴の膝を枕にして静かに寝息を立て始めた。
まぶたを閉じた風雪を見て鈴は思った。
「はあ…風雪ちゃん。昔と変わらず、綺麗だな」
以前にも同じ事があった。
談笑している際に風雪が眠りだしたのだ。
そんな彼女の寝顔に、愛らしさに心を奪われた事も。
「風雪ちゃん…ほんとに綺麗…」
鈴はそう言うと、無意識に彼女の淡い色の唇に自分のそれを合わせていた。
「ごめんね…我慢、できないや。あの時とおんなじで…」
その感触や温かさまで、あの時と同じだった。
「ごめんね…」
この後風雪が起きた後、申し訳なさで少しぎこちなかった。
―
風雪は鈴と別れた後、生け垣に座り自分の唇をなぞっていた。
「鈴ちゃん…貴女って人は…こんな事、いけないんですよ…」
―
3日目。
鳥居で待ち合わせた二人は、以前魚釣りに出かけた池に来ていた。
あの時と同じ遊びをしたい、と二人の意見が一致したためである。
鳥居の近くの池も以前と変わらず、綺麗なままだった。
鈴はそれを見て、まるで私たち二人の想い出のようだと思った。
あの時はボウズで、二人して悔しがったのもいい想い出だ。
―
釣り糸を垂らし既に一時間。
二人とも全く当たりはなく…
「全然ダメですね」
「ね」
二人して苦笑しながら顔を合わせる。
そして、昨日とは逆に鈴が眠気を覚えた。
「ごめんね、風雪ちゃん。ちょっと眠いから、肩を貸してくれる?」
「え?はい、どうぞ」
「ふふ。じゃ、遠慮なく…」
そうして鈴が静かになった。
―
静かな時間が流れる。
先ほどまでは談笑しながらあたりのこない仕掛けに文句を垂れたりしていたが。
「鈴ちゃん…」
風雪は仕掛けに視線を送るのをやめ、鈴の脱力した手に向けた。
大人になり美しく成長した彼女の手。
指の一本一本、つま先まで素晴らしい芸術品だ。
あの時は可愛らしかったが、見違えてしまう。
ダメだとわかっているのに…
「少し、少しだけです」
そう自分に言い聞かせ鈴の手に触れる。
滑らかな肌が心地よい。
やはり、いけなかった。
風雪は自制が出来ず、鈴の指と自分の指を絡ませるように手をつないだ。
自分のそれよりも大きくなった鈴の手のひらは自分を包み込む暖かさだった。
さらに、
「ふう、せつ、ちゃん」
鈴は夢の中でも風雪を求めているのか、絡む指に力を込めてきた。
「!!!!」
風雪は心まで鷲掴みにされてしまった。
離そうかとも思ったが、ここ最近悩む彼女が自分に安らぎを求めているのだろうと考えたらそんな事は出来なかった。
「…へ、へへ。…だいすき、ふーせつちゃん…」
それが止めだった。
彼女を愛しく思う気持ちと、彼女の日常を壊してはいけないという思いが鬩ぎ合い、風雪の目尻から涙を溢れさせた。
あの時、誓った筈だった。
彼女を、鈴をこちらの世界に引きずり込まないために、あの時封じたはずなのに…
『だめです、だめです…』
心でそう思うも、あの時自分を押し殺してまで諦めたあの子が自分を想ってくれている。
何とか嗚咽を防ごうと、美しい唇はひたすらに切なく歪み続けた。
この日も魚は一匹も釣れなかった。
―
4日目。
この日は雨だった。
あの時の約束では雨の日は待ち合わせない、だった。
風雪は何時もの生け垣に腰を下ろし、笛を吹いていた。
決して人に聴こえる事のないその音色は苦悩に満ちていた。
「鈴ちゃん…」
―
5日目。
この日は夜に待ち合わせをしていた。
鈴が花火をしようと言ったからである。
「ふふふ。綺麗ですね」
「うん。夏の風物詩なんだけど最近やってなかったからさ。風雪ちゃんとやりたかったんだ」
「そ、そうですか」
風雪は鈴の言葉一つ一つに心が躍るのを感じていた。
「ねえ、運命の赤い糸って知ってる?」
唐突に鈴がそんな事を訊いた。
「赤い糸ですか?」
「そう。なんだかね。ここにきて思ったんだ。私の赤い糸は風雪ちゃんなのかなって」
「っ!えっと、そんな」
これまで何度も使い古されてきた言葉である筈なのに、愛しい者から言われるのがこれほど幸せな物なのかと風雪は思ったが、自分の中の誓いを思い出し、必死に抵抗する。
そんな風雪の心の中を知ってか知らずか鈴は続ける。
「だってね、最近まで思い出せなかった。それなのに今こうして一緒にいられるんだもん。そう思っちゃうよ」
「そ、そうですか…」
風雪は弱弱しく返すので精いっぱいだった。
―
「閉めは線香花火だよ」
「これですか?」
「うん」
なんだかこれまでの物より地味な印象を受ける。
が、
「確かにそんな感じですね」
ぱちぱちと弾けるそれを見て風雪も線香花火を気に入ったようだ。
儚く燃えるそれを眺める風雪が今にもいなくなってしまいそうだと思った鈴は、
「えい!」
「鈴ちゃん?」
風雪のそれと自分のそれをくっ付けた。
「ふふふ。少し大きくなったよ」
「は、はい」
「えへへ。ずっとこうしていられればいいのにな…」
「……」
風雪は何も答えられなかった。
なんだかどんな答えをしても、彼女を引きずり込んでしまいそうだったから。
―
6日目。
鈴はこの日で田舎を離れる。
電車の時間も考慮し、朝霧漂う頃合いに二人は待ち合わせた。
「今日、お帰りになるんですね」
「そ、そうだよ」
「さびしいです…」
「私も…」
これは二人の正直な気持ちだった。
十数年ぶりに再会した二人。
あの頃と何も変わってなく、再び幸せな時間を過ごせた二人。
二人にとってこの時間を手放すのは何とも惜しかった。
が、そうも言ってはいられない。
二人の理は違うのだから。
「では、鈴ちゃん。あの時と同じように、また会えるおまじない、しましょ?屈んで?」
「うん」
鈴は風雪が額に口づけ出来るように背をかがめた。
そんな鈴を見て風雪は心が締め付けられた。
これで、もう鈴と会う事はなくなるだろうと。
「鈴ちゃん…」
風雪は涙を流しながら自分の唇を鈴の額に近づけていく。ゆっくり、ゆっくりと。
ゆっくりなのは当然、風雪の未練からくる迷いだった。
そして、ゼロになる瞬間…
「??!!」
風雪の唇は鈴のそれと重なっていた。
「鈴!どうして!!」
風雪は初めて鈴を呼び捨てにした。
鈴の行動に困惑と怒りを感じていたからだ。
自分はこんなにも心を締め付けているというのに…
しかし、鈴はどこ吹く風。
「へへへ。風雪ちゃん。大好き。風雪ちゃんは?」
「鈴!」
風雪が答えられる筈もない。
答えてしまえば、鈴をこちら側に引き込んでしまう事になる。
妖たちにとってお互いの体液の混同と想いの同調は契りを意味する。
それを“人”と行う事は人を人でないもの、妖に変えてしまう事である。
つまりは、鈴の“人”としての永遠の死を意味するのだ。
風雪との未来と引き換えに、未来永劫輪廻転生することも、地獄に落ちて罪を償う事もできない、永遠の死だ。
だからこそ、鈴と交わってしまったにもかかわらず、それでも人としての幸せを、人生を歩んでほしいと願う風雪はこれまで心を押しとどめてきたのだ。
「私は!貴女に!貴女の理の中で幸せになって欲しい…だけ…それだけなのに…」
最初は強かった語気がどんどん弱くなる。
つまりはそういう事だ。
鈴はその隙を逃がさなかった。
「私、いいんだ。風雪ちゃんにまた会ってわかった。私は貴女と一緒に居たい。それが私の理だよ」
「鈴……」
「風雪ちゃん…」
鈴はもう一度風雪の唇を奪った。
「……貴女を好きになんてなれなかったら、よかったのに…」
風雪はそう弱く呟くと、鈴を抱きしめた。
「もう、後戻りはできませんよ」
そのままの体勢で鈴に囁く。
鈴は黙って頷いた。
「私は貴女が欲しいです」
―
「さあ、私は貴女をみんなに紹介しないといけません。早く行きましょう?」
「うん」
鈴は風雪の手を取ると共に鳥居をくぐった。
そして二度と戻ってくることはなかった。
風雪との“永遠の”幸せと引き換えに。
さらなる言い訳
いやあ、やっぱり駄文を書くのって難しいですね。
マリみてって縛りがないのにもかかわらずですよ?
人外百合って結構好きなんですよね。
ゆきの咲くにわとか。
だいぶ前に書いた、志摩子さんと猫又のイチャ甘の180度くらい毛色の違いを出せた気がするので、ある程度満足してます。
此処までありがとうございました。