【3759】 食い倒れたい  (bqex 2013-09-14 01:06:13)


【2013短編祭り企画目録】



 その日、『マリア様がみてる』の出演者たちは思い出した。
 自分たちが単なるエキストラではなかったことを。
 ささやかでも輝きを放っていたエピソードの主人公であったことを。


 薔薇の館に由乃は菜々を伴って現れた。

「ごきげんよう。あれ、もうお茶会やってる」

 ビスケットの扉を開くと志摩子と乃梨子が会議室兼サロンの中でお茶を飲みながら談笑していた。

「由乃さんたちもいかが?」

 由乃が席に着くと同時に志摩子から差し入れのクッキーを勧められる。

「いや、あの、仕事は?」

 白薔薇姉妹の後ろには書類の山があった。

「今日は雑用ばかりだから。つまみながらでも仕事はできるでしょう?」

「そんなんで、イザって時に戦えんの!?」

 由乃は声を上げた。

「イザ?」

「戦う?」

 きょとんとして顔を見合わせる白薔薇姉妹。

「何言ってんの、決まってんでしょ! 『お釈迦様もみてる』の出番が回ってきたときよ!」

「由乃さん、急に大声出さないで」

 声を荒げる由乃を志摩子がなだめる。

「そうですよ。そういう時がきたらしっかりやりますから。しかし、私には当分出番なんてないと思うんですけどね」

 自嘲気味に乃梨子が笑う。

「で、でも! そーやって安心している時があぶないって、令ちゃんが言ってた!!」

「確かにそうかもしれませんね。でも、私たち一出演者に『マリア様がみてる』と『お釈迦様もみてる』の壁をどうこうできるとは思えません」

 遠い目をして乃梨子が語る。

「そもそも『お釈迦様もみてる』に出演する気がないのね!?」

「ないわね」

 詰問する由乃に苦笑しながら答える志摩子。

「な、なによ!! もう『白薔薇』なんて名乗るのやめて『ウサギガンティア』にしなさいよ!!」

「それも悪くないわね。でも」

 一息ついて志摩子が続ける。

「私たちが『お釈迦様もみてる』で活躍するってことは、最悪のときよ。売れないBL本の販促のためにエキストラとして酷使されるだけですもの」

「そうですよ。進んでBL本の準レギュラーになろうとする紅薔薇姉妹の気がしれません」

 微笑みあう白薔薇姉妹に由乃は反論した。

「もう二度と出られなくても、ファンの人は私たちのことをお覚えててくれるわよ。でも、それじゃ……桂さんみたいじゃない……」

 由乃はサロンを立ち去った。菜々が後を追う。

「由乃さまは『お釈迦様もみてる』のレギュラーでも狙っていたのでしょうか?」

「まさか」

 白薔薇姉妹は不安気に窓を覗き薔薇の館から出て行く黄薔薇姉妹を見送った。
 黄薔薇姉妹がとぼとぼと歩いているとマリア像前に生徒たちが集まっている。どうやら『お釈迦様もみてる』のお当番を終えた紅薔薇姉妹が戻ってきたらしい。

「主人公の凱旋ね! 行くわよ、菜々!」

 人を押しのけるように前に出るとくたびれた顔をした祐巳一人が立っていた。

「祐巳さまだけしか帰ってこれなかったのかしら?」

「今回もひどいわね」

「瞳子さまと出演したはずなのに、一人しかいないだなんて……」

 ざわつく生徒たち。
 その時、集団の中から一人の生徒が飛び出してきた。笙子だった。

「あの、瞳子さんが、紅薔薇のつぼみが見当たらないんですが……紅薔薇のつぼみはどこでしょうか?」

 無言で祐巳はハンカチに包んだものを笙子に差し出す。

「……え?」

 始めは訳が分からないという顔をしていた笙子だったが不意に思い当ってハンカチを開くと、中からチョココロネが一つ出てきた。

「それだけしか、取り返せなかったわ……」

「うわあああああぁぁ」

 チョココロネを抱いて膝から笙子は崩れ落ちる。

「う、うぅ……でも、でも、瞳子さんは、役に立ったのですよね……」

 真っ青な顔が更に白くなる祐巳。

「何か新しい展開に関わったわけではなくても! 瞳子さんの出番は『マリみて』の反撃の糧になったのですよね!?」

 しばらく無言の祐巳がようやく口を開いた。

「もちろん――」

 言いかけて顔がゆがむ。

「……イヤ、今回の出番で……我々は、今回も……何の成果も得られなかったわ! 私が無能なばかりに! ただいたずらにエキストラのように出演し……新しい『マリみて』のエピソードを作ってもらうことができなかった!!」

 落涙しながら祐巳は説明し、最後は絶叫していた。

「ひどいものね」

「懐かしの作品の主人公のままでいれば桂さん扱いなんてされなかったのに」

 批判的な生徒たちの言葉に由乃は反論しようと前に出た。その時、衝撃が走った。

「な、何!?」

 そこには以下の内容のプレートを持った可南子が立っていた。






■2013短編祭り■

企画責任者:bqex

★企画内容

【短編祭り参加作品】と本文冒頭に書いて未発表の一話完結の短編を投稿するだけです。
シリーズものでも何でも投稿した一話で完結していれば一話完結ということにします。

・がちゃがちゃSS掲示板の規約は厳守が鉄則です。

・特に参加表明は必要ないので飛び入り歓迎です。

・期間中なら何本投稿してもOKです。

・通常の投稿や連載を邪魔したり自粛を求めたりするものではありません。利用者同士の交流や同好の士と盛り上がることが目的です。

・「マリア様がみてる」に関係する内容のものに限定します。キャラが一人でも出てたり、設定や舞台が作中のものならOKなのでオリジナル、クロスオーバーはいつもの注意書きがあれば大丈夫です。

-----期間とテーマ-----

★投稿期間

2013年9月28日から2013年10月14日までの約2週間

★テーマ

「食べる」

★キーを三つ引いて組み合わせてテーマで書くだけじゃつまんないなーという猛者の方への『シバリ』:

 紅薔薇コース『原作本のサブタイトルを本文に入れる』

 白薔薇コース『登場人物は三人までにする』

 黄薔薇コース『2000文字以内にする』

※できるだけ新規参加を促したいので今年のハードルはこれだけにしました。
 必須じゃありませんので、余裕のある人だけお願いします。

【2013/9/20追記】

間違って投稿してしまったり、期間中都合が悪くて投稿出来ない場合など、やむを得ない理由で期間前に投稿する場合は冒頭に【短編祭りフライング作品】と加えてくだされば閉会式SSに参加出来ることにします。
システム上投稿してしまったタイトルをもう一度引くのは不可能に近いので別タイトルで投稿しなくてはならなくなってしまうのを避けるための救済措置で、極力期間内での投稿をお願いします。
また、遅刻の場合も閉会式SS投稿までの時間であれば紹介している事例が過去にありますので、諦めないで頑張ってみてください。






 その日、『マリア様がみてる』の出演者たちは思い出した。
 自分たちが単なるエキストラではなかったことを。
 ささやかでも輝きを放っていたエピソードの主人公であったことを。

「カット! はい、OKでーす!」

 声がかかり『進撃の巨人』パロディの2013短編祭りの告知が滞りなく終了――

「ちょっと待ったーっ!」

 撮影現場に現れたのは瞳子と桂だった。

「お姉さま、そのチョココロネ――」

 まず口を開いたのは瞳子だった。全身を震わせて、がっしがっしと足音が聞こえてきそうな勢いで祐巳に迫る。

「いや、ほら、私はこれを持たされて台詞を言うようにって指示に従っただけだから――」

「お・ね・え・さ・まっ!!」

 ひっと悲鳴を上げた祐巳を見かねたのか笙子が機転を利かせた。

「瞳子さん、このチョココロネは駅前の評判のパン屋さんで売り切れ必至のものよ。この機会に食べてみたら?」

 そういうなり笙子は瞳子の口にチョココロネを押し込んだ。

「もぎゅ! ……もぐもぐ、あら、美味しい……そうではなくって!」

 チョココロネの美味しさに思わず笑顔になりかけたが、瞳子は我に返ったのか大事そうにチョココロネを持つと再び祐巳に向き直る。

「そうよ祐巳さん、私の扱いが「桂さま後にしてください! 今私はお姉さまと大切な話の最中なんです!」」

「……」

「あらあら、なんの騒ぎかしら?」

 そこに白薔薇姉妹が現れた。

「聞いてください、白薔薇さま! お姉さまったらリリアン女学園高等部演劇部の誇るカリスマ女優の瞳子に演技をさせずチョココロネに代役をさせたんです!」

「そっちかよ!」

 乃梨子が突っ込んだ。

「もちろんよ! 私であれば腹筋割れ女だろうが女型の巨人であろうが登場人物全員であろうが完璧に演じ分けてみせられるというのに! お姉さまったら! お姉さまったら!」

「私がクリスタ、乃梨子がそばかすを引き受けるから全員やる必要は「白薔薇さま、何言ってるんですか!?」」

 瞳子はチョココロネを持った手で突っ込みそうになったが、寸前で気が付き、チョココロネをくわえてから両手で志摩子と乃梨子に裏拳で突っ込む。

「わ、私は無実だっ!「そうよ! それより私の――」桂さま、人の台詞にかぶせないでください!」

「……」

「ところで、今日のはいったいなんだったんですか?」

 菜々が尋ねる。

「今やらないと腐るネタを淡々と消化しただけよ。勢いだけのものにツッコんではいけないわ」

「ネタは置いといて、冒頭の書類の山、あれは私たちの担当のやつですよね?」

「《不本意な現状》を変えるのは戦う覚悟だ!」

 びしっ! とキメ顔で蔦子のカメラのレンズに向かう由乃。

「あの、お姉さま、何と戦ってるんですか?」

「いろいろよ。さて、参加者の皆さま、主役を『食う』ぐらいの勢いで私たちを活躍させてくださいね!」

 というわけで、今回もよろしくお願いします。


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