【短編祭り参加作品】
「志摩子、今日は中秋の名月だから一緒にお月見しない? あと、夜遅くなるから志摩子の家に泊めて欲しいのだけど問題ない?」
そんなお姉さまの誘いがあって、私は今、お姉さまと一緒にお月見をしている。
九月の半ばが過ぎ、夜はもうめっきり涼しくなった。
少し肌寒いと思いながら、私たちは縁側で、ただぼんやりと月を眺めていた。
「そうだ。月見団子を用意したんだっけ。せっかくだから食べようよ」
そう言ってお姉さまは、カバンからコンビニで買ったみたらし団子取り出した。
「では。せっかくなので、いただきます」
私は三本のうちの一本を手に取り、口に運ぶ。
甘いたれの味と白玉のもちもちした食感が口の中に溢れる。
しばらくの間、私とお姉さまは月を見ながら、みたらし団子食べていた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
そう言い合い、お互いにくすりと笑う。
鈴虫の声を聞きながら、ただただぼんやりとお姉さまと月を眺める。
そんな静かで穏やかな時間が過ぎていった。
「志摩子と一緒にいると、月が綺麗だね」
どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。穏やかな沈黙を破ったのはお姉さまのそんな言葉だった。
その言葉に、私ははっとして、お姉さまを見る。
お姉さまは、今言ったことに気づいているのかいないのか、今までと同じように、ただ、ぼんやりと月を眺めていた。
お姉さまが、その言葉をどのような意図で言ったかわからない。
これが祥子さまや蓉子さまだったら、そんな意図で言ったと確信できるし、祐巳さんや由乃さんなら、そんな意図で言っていないと確信できる。
私は少し考えて、すぐに考えるのを放棄した。
月が綺麗なのは、確かなことだったから。
だから、私はこう言ったのだ。
「そうですね。私、お姉さまと一緒にこんな綺麗な月が見られるなら、死んでも良いです」
私のその言葉に、お姉さまはちょっとびっくりして、私の顔をのぞき込んだ。
「なんですか?」
そういう私の顔は少し赤くなっていたに違いない。
お姉さまは私の表情を見て、合点がいったのか、何も言わず、ただ首を横に振った。
「ねえ、志摩子、こっちにおいで」
「なんですか?」
「えい!」
私がお姉さまに近づくと、お姉さまは、背中から私を抱きしめた。
「お姉さまは甘えん坊ですね」
「そうだね」
それからまた会話はとぎれ、私たちはその体勢のまま月を眺めた。
鈴虫の声を聞きながら、お姉さまの体温を感じながらの会話が全くない、静かなお月見。
そのお月見はお姉さまが船をこぎだすまで、続いたのだった。
紅薔薇コース NG サブタイトル無し
白薔薇コース クリア 登場人物3名以下
黄薔薇コース クリア 2000字以下