【3786】 密室に女子二人お菓子でーすゴチになるまで  (紫豆腐 2013-10-13 22:37:53)


【短編祭り参加作品】


薔薇の館で仕事をしていると、いつの間にか暗くなっていた。
「お汁粉食べたいなあ」
「まーた祐巳さんは甘いものばかり欲しがって〜」
祐巳さまの甘党は今に始まった話ではないが、今回はちょっと共感したい。
「脳って、使える栄養は糖分だけらしいですね。
今日は頭を使ったので、確かに甘いものが欲しいです」
糖分ならば、煎餅のような甘くないものでもいいのだけど、
あいにくそれらも含め、お菓子類は切らしている。

そんな時に珍しい方がやってきた。今年リリアンを卒業された聖さまだ。
「おー祐巳ちゃん、元気かい。志摩子も頑張っているようだね」
「ええ、お姉さまの苦労をようやく分かってきました」
「やめて。本当に苦労していたのは蓉子なんだからさ」
やはりこの人は天然のスターなのか、疲れた雰囲気が和らいでいく。
孫としては悔しい面もあるのだが、ここは甘えよう。
話も一通り終わったあたりで、聖さまが言う。
「実は今日は受け取ってほしいものがあって来たんだ。
下に置いてるから取りに来てくれるかな」

1階に下りると、たくさんの大袋に何かがいっぱい入っている。
「これは飴玉らしいんだけど、大量にもらっちゃってさ。
一人で食べられる量じゃないからこうやって人がいる所にあげて回っているわけ」
タイミングのいいことに、甘いものの件が解決された。
腐るものでもないので、食べる分よりもかなり多目にいただき、貯めておくことにした。

今は祥子さまも令さまもいないし、少しくらい休んで楽しんでもいいだろう。
「瞳子瞳子瞳子。早く食べよう」
「もう、お姉さまはがっつきすぎですわ」
二人が大量に飴をかかえて階段を上っていく。
「ところで乃梨子ちゃんは行かないの?」
由乃さまが尋ねる。私も早く食べたかったが、志摩子さんが聖さまの見送りに行っている。
妹としては、姉が帰ってくるのを待つのが筋だろう。
「お〜相変わらず真面目なのか熱いのか。でもまあ、
待っていたらなくなっちゃうような量でもないし、それでいいかもね。
じゃあ私も先に上で食べているわよ」


ようやく志摩子さんが戻ってきたころ、
先程上がっていった由乃さまが真っ赤な顔をして降りてきた。
「あのタヌキとドリル、頭腐ってんじゃないの。
私がいるところでお互いに見詰め合って、
『あーん』とか言って食べさせ合っているのよ。
見ていて下手なエロ場面よりも恥ずかしかったわ」
「えっ、祐巳さまはそういうこと好きそうですが、
瞳子が自分から人前でするのは珍しいですね。本当はしたかったんでしょうけど」
「…そう言われてみればそうね。でも本当よ」
お邪魔してはいけないのかもしれないけれど、やはり不安なので確認に上がった。

「…エロ場面ですね。由乃さまご期待の」
「期待してないわよ!」
服こそまだ脱いでいないものの、祐巳さまは瞳子に、おさわりを楽しんでいた。
瞳子も嫌がるどころか、むしろ積極的に祐巳さまに体をすり寄せている。
気になるのは、二人が私たちに気付いていない、または眼中にないことだ。
見ると、既に飴の包み紙が何十個も散乱している。もうこんなに食べていたとは。
「これ、ウイスキーボンボンですよ!
チョコでくるんでいるのといないのとあるけど、全部お酒入りです!」

私たちはあわてて、酔っぱらった二人を起こしにかかる。
だが、祥子さまに見つかってしまった。
「祐巳、瞳子ちゃん、これはどういうことなの。説明して頂戴」
祥子さまの威光はすごいもので、
あれほど酔っていた二人はもう目覚めて泣きそうになっている。
結局二人は散々叱られ、残りのボンボンも
取り上げられて祥子さまのロッカーに入れられてしまった。


「お菓子、なくなっちゃったわね」
祥子さまが出て行った後、志摩子さんががっかりした感じでつぶやいた。
私も同感だ。甘いもの問題は振り出しに戻ってしまった。
「ふふふ。志摩子さまも素人ですわね」
「いや、あんた方の不注意で取り上げられたんじゃん。素人呼ばわりって何様」
「この松平瞳子がむざむざ取られるとお思いで?」
瞳子は指をパチンと鳴らすと、両方のドリルの先が開いて、
中からかなりの量のボンボンが落ちてきた。
「わあ、瞳子、すごいよ」
「女は男にない隠し場所を持っているものですわ」
「それ意味わかって言っとるんかー!」
騒動で一層疲れてしまったこともあって、
結局その日は瞳子が隠し持っていた分をみんなで食べて解散になった。


翌日、私たち白薔薇姉妹は用事があって、遅めの時刻に薔薇の館に向かった。
するとちょうど、祥子さまと祐巳さまが出ていくところだった。
「ごきげんよう」
「あ、…う……ごきげんよう」

「どうしたのかしら。二人ともそわそわして」
「さあ、なぜでしょうね」
今は薔薇の館の中には私たちしかいない。黄薔薇姉妹は剣道部、瞳子も演劇部の日だ。
志摩子さんが昨日の残務処理に熱中しているときを見計らって、
私はカバンから竹ひごを取り出し、
祥子さまのロッカーの隙間から中に差し込んだ。
(よい子は真似してはいけません)
予想通り、昨日と比べてボンボンの山がかなり低くなっていた。


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