(おっ、瞳子のやつ。 今日はいったいどーゆー風の吹き回しだ?)
前方に現れた瞳子は、縦ロ−ルを解いてちょっぴり大人の雰囲気。 向こうも乃梨子に気付いたようだ。 微笑みを浮かべて近寄ってくる。
(ちょっと遊んでやれ……)
「ごきげんよう、乃梨子さん。 これから図書館に行くのですが、よろしかったら……」
「ごきげんよう。 あら? 今日、瞳子さんはご一緒ではないんですの?」
ワザとらしくキョロキョロしてみせる。
「は? なにをおっしゃっているんです? 瞳子はここに……」
訳が分からない、といった風の瞳子。
「まあ! そうでしたの。 目立つものだから、ドリルが瞳子本体かと。 今日は付属品だけなのかと思いましたわ」
乃梨子がニヤニヤしながら言い放った瞬間、瞳子はハッとして隠すように髪に両手を当てて。 言いたい事も声にならない様子で、口をパクパクさせちゃって。
「ダメですわよ。 そこで『んなあほな』って、お突っ込みをお入れにならなくては…………プッ」
我慢出来ず、乃梨子は吹き出してしまう。 瞳子の取り乱し様がたまらない。
瞳子は真っ赤になって恥ずかしそうに顔を伏せて。 プルプル震えながら、髪をふたつにまとめ始めた。
「へえ、鏡も無いのに上手いもんだ、って、わざわざドリル装備しなくていいって。 冗談、冗談。 あはははは――」
「……おっしゃりたい事はそれだけですの?」
「――はははは……は?」
なんか不穏な空気が…… 瞳子がゆっくりと顔をあげて……
「覚悟はおよろしいのですわね、乃梨子さん……」
真っ赤なふくれっ面のはずのそこには、見たことも無い――
「……あれ?」
乃梨子は歯医者に行けない体になった。