【381】 ズームイン第二山百合会  (まつのめ 2005-08-17 23:45:24)


No291 No299 No320 の関係。




 ここは旧理科準備室。
 設定ばかり先行してキャラの掴みにくい三人組とその妹達の一部が集合していた。

「……その対応は不適切であり、生徒達の疑念を晴らそうという意思が感じられない。と」
 パタパタと団扇を扇ぐ音とカタカタとキーボードを叩く音をBGMに彩のどちらかというと淡々とした声が響いている。
「なにまじめにやってるのよ」
 絵美子がうちわを扇ぎつつ微妙にダレた声で言った。
「いや、嘆願書の草案だけど?」
「そんなこと判ってるわよ」
 そう。彩が文書の内容を考えて喋り、それを柚葉がタイプしているのである。
「それ、マジで出す気?」
「うん。出さなきゃしょうがないよね」
「生徒会不信任?」
「そう、それ決める為の生徒総会を開いてくれって」
「それはもう聞いた。じゃなくって今度はただの連絡役じゃ済まないわよ?」
「そうだったね」
 既に例のリリアンPressの影響で『改革派』とでも言おうか、この3人を対立候補と考えて盛り上がってる生徒が結構大勢いたりするのだ。
 実際に彼女らが生徒の意見をリサーチする手段を有していることも大きいのだが、山百合会が与党ならば彼女らは野党的立場に成りつつあるのだ。
 まあ、この時点では本人達は現薔薇さま方と取って代わろうなんて思ってもいなかったわけだが。

「まあ、最悪、再選挙なんてことになっても、結局元通りだと思うけどね」
 なんだかんだいっても山百合会のカリスマ的人気は根強い。それに物珍しさから騒いでいる改革派だって、まじめに生徒を引っ張る人を選ぶとなれば考えるはずだ。
 絵美子はそんな彩の意見にちょっと考えた後、言った。
「それもなんか悔しいわね」
「あれ、薔薇さまになりたいんだ?」
「んー、まあ憧れたことはあったけど、そういうんじゃなくって、戦って負けるのはやっぱり嫌」
「絵美子、負けず嫌いねー」
「でもさ、改革なんて現実的じゃないし……」
「そうよね、どっちかというと私も薔薇さまのファンの立場だし」
「彩は先々代と先代の紅薔薇さまのファンだったものね」
「ん、今の紅薔薇さま、蓉子さんも素敵よ」
「わー、妖しげ。美春ちゃん、あんたのお姉さんこんなこといってるわよ」
 団扇を美春の方にひと扇ぎ。美春の前髪が吹き上げられておでこが一瞬全開になる。
「へんな話題振らないの。美春が困ってるじゃない」
「あらら」
「誰が妖しいいんだか。汗の匂いが好きとかほざいたのは誰だっけ?」
「うーん、席が対面なのが残念」
「わざわざ対面に座ったのよ」
「彩の匂いは私の歴代ベスト5に入るんだけどな」
 がたがたと一席あけて隣に座っていた美春がさらに椅子をずらした。
 が、
「ひっ!」
 反対側に居たあゆみが音も無く近寄り、美春の首筋に鼻を近づけてフンフンと匂いを嗅いでいた。
「……絵美子、妹に何を教えてるの?」
「別に?」
 葉統絵美子はかつて語ったことがあった。『匂いで相手の心が判る』と。


「で、まあ、最悪の事態にだけはなってもらいたくないんだけど」
 つまり、再選挙になって、しかもこの中の誰かが当選までしてしまうなんていう非常事態だ。
「現薔薇さまたちなら大丈夫でしょ。容姿・能力・人望と三拍子揃っていらっしゃるし」
「そうよねぇ、まさに天上人って感じだもんねぇ」
「……誉めていただけるのは嬉しいんだけど、その天上人っていうのはいただけないわ」
「「え?」」
 その侵入者の声は風を通すために開け放たれていた廊下側の扉の方から聞こえてきた。

「ごきげんよう、第二山百合会、で良かったのかしら? の皆さま」
 立っていたのは現紅薔薇さま、水野蓉子だった。
「ごきげんよう。紅薔薇さま。良くないわよ。私らそんな気これっぽっちもないんだから」
 紅薔薇さまが口にした不穏な単語に絵美子の眉が下がる。
「ごきげんよう蓉子さん、偵察ですか?」
 彩は蓉子のことを職名でなく名前で呼ぶ。
「偵察ね……まあそういえないことも無いけど」
「ということはそうでもないのかしら?」
「まあ、今の絵美子さんの台詞で目的の半分は果たせたかな」
「半分?」
「ちょっと判らなくなってきたから確かめにね。個人的に、だけど」
 個人的にというからには山百合会として接触してきたつもりではないのであろう。
「まあ座りなよ」
 絵美子が椅子を勧める。ちなみにここの椅子は背もたれの無い丸椅子である。
 蓉子が「じゃあお邪魔して」と椅子に座るとタイミングよく美春がコップに入った麦茶を運んできた。
「あら、ありがとう……」
 よく冷えた麦茶に氷まで入っているのを見て蓉子は目を瞬かせた。
「製氷機あるのよね。理科準備室だから」
 雰囲気を察して絵美子が解説した。
「大丈夫よ私達も飲んでるし」
 理科の実験用の製氷機!? と飲むのを躊躇していた蓉子に今度は彩が苦笑しつつ言った。
 そう、理科準備室は『新』があるから『旧』なだけで使用されていないわけではないのである。
 ちなみに、最近訪問者も多いのでお茶は(麦茶だが)常時用意されている。

「で、残りの半分の用件って?」
「そうね」
 冷たい麦茶でのどを潤してから蓉子は言った。
「これは私の個人的な考えなんだけど」
 蓉子の眼に力がこもる。流石、紅薔薇さまだと思うのはこういうときだ。人に話を聞かせるのが上手いのだ。
 そして蓉子はその山百合会で培ってきたであろう話術でとんでもないことを強調した。
「私は山百合会の再選があってメンバーが入れ替わってもいいと思ってるわ」
「はぁ?」
 絵美子はこんなリアクションをしているが、彩は絶句した。
 他に柚葉や2年生二人もいるが、リアクションが薄いので割愛する。
「だからね、最初に戻るけど、そういう気が無いって聞いてがっかりしたのよ」
 ここから蓉子はなにやら饒舌になった。
「これはチャンスだと思うの。私は今の山百合会って確かに皆から愛されて信頼されてるけど『ちょっと近寄りがたい』っていうのがとてもマイナス点になってるって気になってたのよ。だからここで本当に普通の生徒の中から推薦されて出てきた貴方たちが山百合会の幹部になることで一気に生徒の側に立った本当の生徒会に変われるんじゃないかって。そうじゃなくてもこういう形で山百合会の運営にたくさんの生徒が関われる機会をもてるじゃない? ほら、生徒総会なんていままでだと薔薇さまリサイタルみたいでちょっと違うなって思ってたのよね。でも今回の……」
「蓉子さん、蓉子さん」
 なにやら止まらなくなりかけてた蓉子の演説を彩が止めた。
「なあに?」
 いいとこだったのに、とちょっと不満そう。
「言いたいことは判りました。要は煽りにきたわけでしょ?」
「言葉が悪いわね。煽るだなんて」
「心配しなくてもあれは出しますよ。どうなるか判らないけど」
「そう。でも絵美子さんはあまり気乗りしてなさそうだけど?」
 話を振られた絵美子は少し考えた後、言った。
「そうね……、一つだけ聞いていい?」
「私で答えられることなら」

「あの事件について今、言い訳する気はある?」

 直球な質問に部屋の空気が凍りつく。
 蓉子は慎重に、言葉を選ぶように答えた。
「それは個人的にも、山百合会としても答えるわけにはいかないわ」
「そう」
 不満、というより憤慨といった感じで、いつものいいかげんな態度ではない。おそらく本気で怒っているのであろう。絵美子は蓉子に言い放った。
「判ったわ。あなたの煽りに乗ってあげる」
 絵美子は椅子から立ち上がり、蓉子を見下ろした。
「乗った以上あなたとは今から敵同士よ、すぐ出て行って」
「ちょっと絵美子」
「そうね。じゃあお暇するわ。麦茶ごちそうさま」
 蓉子は仁王立ちする絵美子に対して微笑みつつ席を立った。
「貴方たちには期待してるわ。だから期待外れなことだけはしないでね」
「するもんかっ」
 絵美子に追い払われた蓉子は、なぜか満足そうな表情で物置部屋から去っていった。




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自分用覚え書き:
 彩:ボケ役
 絵美子:ボケと突っ込み両用。イケイケ。匂いフェチ?
 柚葉:冷静突っ込み
 美春:彩の妹
 あゆみ:絵美子の妹、秀才。ちょっと変?

#既存のキャラを動かすのとキャラクタを0から彫り起すのでは全然違って大変です。


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