【短編祭り参加作品】
「これなーんだ?」
聞き慣れた声とともに瞳子の目の前に現れたのは白い紙のようなもの。
ただの紙にしてはちょっと厚い。
そして見慣れた大きさの長方形。
「写真?」
「正解っ」
たぶん間違いないだろうという程度の自信で答えると、やたらとテンションの高い声が返ってきた。
目の前の白い長方形は写真の裏側で合っていたらしい。
表側に何が写っているのか確認しようと手を伸ばすと、逃げるように写真は瞳子の頭の上を通って背中の後ろへ。
瞳子の眉間にちょっとシワが寄った。
なんだか嫌な予感がするのはたぶん気のせいではない。
ゆっくりと振り返って今度は満面の笑顔で挨拶をした。
「ごきげんよう、お姉さま」
「ごきげんよう、瞳子。っと、残念」
祐巳が口を開いている隙に写真を取ろうと手を動かしたが、あとわずかというところでまたもや逃げられる。
どうやら読まれていたらしい。
まだまだ演技力が足りなかったと少し悔やむ瞳子。
嫌な予感がどんどん強くなるのは気にしない。
「いきなり取ろうとするのはいただけないんじゃないかな、瞳子」
「正解したのですから見せてくださってもいいのでは?」
ニヤリと笑う祐巳に対して、瞳子は小首を傾げて可愛らしさをアピール。
今度はそれなりに上手くいったようで、祐巳の心がちょっと揺れたのが表情からわかった。
もうひと押しと、瞳子は次の手を打とうとしたがその前に祐巳が次の手を打った。
「もう一問正解したら見せてあげる」
「……なんですか?」
瞳子は少し逡巡して、とりあえずここは祐巳のいうことを聞くことにした。
「第二問。この写真には何が写っているでしょう?」
「はい?」
思わず瞳子の口から間抜けな声が出た。
何が写っているのか知りたいのに、それを当てろとはこれ如何に?
瞳子の反応が面白かったのか、笑いたいのをこらえているような顔をする祐巳も瞳子の神経を逆なでする。
ここで素直に悔しがっても相手を喜ばすだけなのはわかってる。
内心で「お姉さまのいじわるっ!」と叫んで、表面上は平静を装う瞳子。
「何かヒントをくださらなければ、いくらなんでもわかりませんわ」
「それはそうだねー。じゃあヒント。写っているのはリリアン生で、人数は二人です」
上手いこと瞳子に見えないようにヒラヒラと写真を動かす祐巳。
なんとか写真が見えないものかと動きたくなる瞳子の目。
それを抑えて祐巳の顔をまっすぐ見据えたまま瞳子は答えた。
普通に考えれば答えはこれしかないはずだ。
「私とお姉さまですか?」
「おしいね、半分だけ正解」
半分ということはどちらかが正解ということ。
そしてわざわざ瞳子以外のリリアン生と写っている写真を妹に見せるようなお姉さまではない。
ということは瞳子と誰かの写真ということになるわけだけど……。
ここにきて瞳子は自分の嫌な予感があたったことを確信した。
それとおそらく写真に写っているであろう瞳子ともう一人の一年生についても。
「どうしたの瞳子。答えはわかった?」
まっすぐにこちらを見つめてくる祐巳の視線がつらい。
勝手に写真を撮られたことを怒ればいいのか、内緒にしていたことを謝ればいいのか。
瞳子にわかったのはお姉さまに言われるのではなく、自分から言わなければいけないということだけだった。
「お姉さま、私……お姉さまに報告したいことが……えっ?」
「うん。……ん? どうかした……って、ああっ!?」
意を決した瞳子を見て、満足そうに頷く祐巳。
その瞬間、気が緩んだのか祐巳が手にしている写真が少しめくれ、その表側が瞳子の目に入った。
「……も、もしかして……見えた?」
おそるおそる瞳子に尋ねる祐巳。
その姿には先程まであった威厳や余裕は微塵も感じられなかった。
「ええ、見えましたわ。私と乃梨子が写っているのが」
「あはは……」
ニッコリと口元を上げる瞳子とそれに対して乾いた声を出すしかない祐巳。
瞳子の顔は微笑んでいるはずなのに、祐巳を見つめるその目は全く笑っているように見えなかった。
祐巳は顔をひきつらせながらも懸命に頭を働かせるが、いい解決策は思いつかない。
「答え、わかっちゃったね」
「そうですわね」
少しずつ祐巳は後ろに下がるが、すぐにその分を瞳子が前に進んで二人の間が狭まる。
なんとか時間を稼ぎたい祐巳だが、瞳子はそれを許してくれる気はないらしい。
「それとお姉さまが私にカマをかけたということも」
「きゃっ!」
ドンッと瞳子の手が祐巳の肩越しに壁を叩いた。
どうやら逃げるのは許してくれないらしい。
瞳子が私に言わなければいけないことがあるというのは変わっていないはずなのに、なんでここまで立場が変わってしまうのか。
この後は私が攻める番なんだからと心の中で誓う祐巳。
でもそれにはまずこの状況をどうにかしないといけない。
中腰で壁に寄りかかった状態で妹を見上げる姉、という誰かに見られたら誤解されること間違いなしなこの状況で一体なにができるのか。
謝るだけで許してくれるかなあ、と思う祐巳だった。