【393】 カウントダウンお願いだから・・・  (ケテル・ウィスパー 2005-08-19 16:30:40)


No.363→No.364→No.375→No.379の続きです。


 D-day 2月14日 PM 15:37 薔薇の館

「じゃあ、いってくるわ」

 自分の分の仕事をいつもの三倍速で片付けた由乃は、祐巳、志摩子、乃梨子、そして今日は手伝いに来ている瞳子にそう言うと席を立ち、スクールコートとカバンを手にしてビスケット扉に向かっていく。 

「由乃さん、がんばって!」
「緊張しすぎることは無いと思うわよ、もうお付き合いしているのだし」
「あたって砕けろですわ」
「いや砕けちゃいかんだろ、砕けないだろうし」
「外野うるさい!! ……由乃、行きます!! ってわけで、ごきげんよう」
「「ごきげんよう」」
「がんばれ〜〜〜」

 軽快とは言いがたい微妙な足音を残して由乃は階段を下りて薔薇の館から出て行った。 目指すは花寺学院正門前。

 少し開いたままにされたビスケット扉を眺めていた4人だったが、乃梨子が席を立ち扉を閉める。
 今日由乃に渡された仕事はもともと簡単に処理できるものばかり、それも由乃が気付かれない程度であるが少し少な目になるよう配慮されていた。 

「だいじょうぶかなぁ〜由乃さん」
「そうね、少し寝不足のようだったけれど、”告白”しに行くわけじゃないのだし緊張しなければ大丈夫よ」
「……緊張していらっしゃっると思いますわ。 歩くときに手足の動きが3/4くらいずれていましたもの」
「ずいぶん器用なずれ方だね。 由乃さまは初めてですよね、男性にチョコを渡すの」
「令さまには毎回渡していたらしいけれど、殿方に渡すのは初めてでしょうね。 お父さまにあげるのは別にして」
「昨夜もずいぶんがんばって作ってたみたい。 自分で毒見……味見して上出来だって言ってたよ」
「舌が麻痺していなければいいのだけれど……」
「でも……今日だと花寺学院の正門前は賑わっているのではないですか?」
「そんなところに黄薔薇つぼみが登場したら、いやでも目立ちますわね」
「…………」
「‥‥‥‥‥‥‥」

 3人で顔を見合わせていると、乃梨子が自分の所に回っていた書類に気が付いた。

「お姉さま、祐巳さま。 これを……」
「なに、乃梨子………あら?」
「どうしたの? 志摩子さん? ………あ」

 乃梨子が志摩子に渡した書類を祐巳が覗き見て、その内容を確認すると……。



 

 D-day 2月14日 PM 15:55 花寺学院正門前

「……うかつだったわ………」

 由乃は花寺学院の正門に向かう最後の曲がり角の所で立ち往生していた。
 いるのだ、リリアン女学園の生徒達が。 もちろん他校の生徒も混じっている。

「まいったなぁ〜、このまま出て行くと他の人たちにもばれちゃうよ」

 山百合会の面々は口が堅いからある程度ばれても問題ない、でも一般生徒となると話は別。 噂話になって新聞部の耳に入った場合ちょっと厄介だ。 真美はいい加減な憶測記事は書かないが、その分取材やインタビューには神経を使う。

 そ〜〜っと角から正門のほうを覗くと30人ほどの女生徒で賑わっている。
 一人で不安そうに佇んでいたり、四〜五人でにぎやかにしていたり、お目当ての男子が出て来たらしくそちらに小走りで駆けて行く娘がいたり、顔を赤らめて男子生徒と話をしている娘がいたり……。 

 こんな時ほど自分の立場を恨めしく思うことは無い。 普通の一生徒だったらこんな所で立ち止まらずあの女生徒の中に入って行けただろう。

「でもそれだと祐麒君にも出会えなかったのよね……」

 山百合会で祐巳さんと友達になれたから、学園祭の劇の時祐麒君の着物の裾をふんずけるミスをしたから(そういう設定です:ケテ)巡り合えたのだし。

「祐麒君は……生徒会の仕事もあるわよね、出てくるのは遅いはず。 待ちますかそれまで」

 消極的だとは思うけれどまさか男子校の中に単身飛び込むわけにも行かない、由乃もそこまで無謀ではない。 

 曲がり角から花寺学院の正門を監視する黄薔薇のつぼみの姿は、かなり怪しかった。




 D-day 2月14日 PM 15:55 花寺学院生徒会室

「高田、運動部からの申請ってこれだけか? なんか去年のに比べて少なくねぇ?」
「………」
「少なくさせた。 去年度かなり強引に申請を通させたからな。 文化部系と軋轢を作るのは得策じゃないだろう?」
「…………」
「アリスはこのことは?」
「………………」
「伝えてある、アリスのことだ無茶な用件は持ってこないだろうがな」
「………………………」
「うん………通しやすい物ばかりだな、助かったよありがとう」
「………………………………」
「ただいま〜〜、ねえねえ正門の前今年もすごいわよ〜、リリアンの娘とか他の学校の生徒とか、華やかでいいわね〜」
「うぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」

 文化部の申請書をまとめてきたアリスが生徒会室に戻って来て開口一番そう言った、とたん今まで下を向いて書類に目を通している振りをしていた小林が叫び声をあげた。

「ど、どうしたの小林?」
「ほっとけ、いつんもの病気だ」
「うむ」
「あ〜、この時期に発病するあれね」
「お、おまえらなんでそんなに冷静でいられるんだ?! 正門の前には俺を待っている女生徒がたくさんいるんだぞ!!」
「言い切ったよ」
「性犯罪に走る前に絞めるか?」
「たのむ」
「絶対にいるんだ! 絶対にいるんだ〜〜〜!! きゅぅ……」
「あ、そうそう、バレンタインチョコと言えば〜。 はいユキチこれ」

 高田が小林を絞めている横でアリスは提げてきた紙袋を祐麒に渡す。

「……これは?」
「文化部を回ってきたら”ユキチに渡してくれ”って言われたチョコ」
「…………マジかよ……賄賂とか毒入りじゃあないだろうな?」
「賄賂はともかく毒入りかどうかは分からないわ。 それから〜、これは私からね」
「あ、あ〜……ありがとう………」

 げんなりした顔で紙袋とアリスからのとっても”ふぁんし〜”にラッピングされたチョコを受け取る。

「どうせユキチは祐巳さんからしか貰えないでしょうから、愛情たっぷり込めておいたわよ」
「いや……今年はもう一つ貰えるかもしれないけど……」
「お母さんから?」
「い、いや! なんでもない! それより早く仕事片付けようぜ、帰れなくなるぞ」

                   
                        〜〜〜まだ続く・・・・


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