きらめく朝日に照らされた早朝のリリアン女学院で、祐巳はいそいそと薔薇の館へと向かって歩いていた。
朝の静寂に遠慮するかのように静かに階段を登り、ビスケット扉を開ける。
「ごきげんよう、祐巳さん」
「・・・ごきげんよう、志摩子さん。・・・誰もいないかと思ったのに」
柔らかく微笑む志摩子の姿に一瞬固まった祐巳だったが、どうにか挨拶を返せたようだ。
「昼に職員室に提出する書類をもう一度確認したくて」
「そうなんだ」
透明な朝の空気に溶け込むかのように、志摩子は静かに紅茶を飲んでいる。
「祐巳さんは?」
「昨日、筆箱をココに忘れて行っちゃって」
そう言いながら、テーブルの上の筆箱を取り上げる。
祐巳が筆箱をカバンにしまっていると、志摩子が話しかけてきた。
「祐巳さんも紅茶をいかが?」
そう言いながら、テーブルの上のティーポットを手で示している。
「そうだね・・・うん、私もいただこうかな」
まだ早い時間なので問題は無いだろうと判断した祐巳は、自分のカップを持ってきて席に着いた。
朝の空気というのは特殊なもので、なんとなく静寂を破るのがためらわれる厳格さがある。二人は示し合わせた訳でもないのに無言で穏やかに紅茶を飲んでいる。
「・・・・・・静かだね」
「そうね、なにか神聖な感じがするわ。こんな静かな朝は」
祐巳の問いかけに、志摩子は窓の外の朝日に目をやりながら答えた。
「・・・・・・・・・・それにしても、本当に静かじゃない?」
「そうね」
志摩子は紅茶を一口飲むと、こう続けた。
「それは、今日が日曜日だからじゃないかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・気が付かないで登校しちゃった」
「私もよ」
「・・・そっか」
『ボケが揃っていてもツッコミがいないと話にオチがつかない』
二人はそう結論を出し、「こんな時、由乃さんがいてくれたら・・・」と、由乃に思いをはせ、薔薇の館を後にした。
どうやら由乃には山百合会と剣道部の他に「ツッコミ」という三足目のワラジを履く多忙な学園生活が待っているとしのばれる、そんな朝の一コマだった。