【431】 何度でもデンプシーロール  (いぬいぬ 2005-08-28 09:48:45)


「はあぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
「どうしたんですか?祐巳さま」
放課後、薔薇の館に向かう途中で、長々と溜息をつく祐巳を見て、乃梨子は問いかけた。
「いやぁ、最近瞳子ちゃんがね・・・」
「瞳子が何か?」
乃梨子が聞き返すと、ちょうど瞳子が通りかかった。ふと横を見ると、瞳子を見つけた祐巳の瞳に闘志が宿っている。
「よし!何度でもチャレンジするもんね!」
そう言って祐巳は駆け出して行ってしまった。
「祐巳さま?!」
乃梨子の呼びかけにも答えず駆け続け、祐巳は瞳子のところに辿り着いた。
「瞳子ちゃ〜ん」
そのまま瞳子の頭をなでようとする祐巳。しかし瞳子がフイっとその手をかわす。
「ごきげんよう祐巳さま。気安く頭に触らないで下さいと何度言ったら解かるんですか」
「ん〜、思う存分撫でられるまでかな?」
笑顔で答える祐巳に、瞳子は頬を赤らめる。
「何でそんなに撫でたがるんですか!」
「瞳子ちゃんがカワイイからだよ」
その台詞に瞳子は首まで赤くなる。
「そ!・・・そんな事言っても誤魔化されませんからね!私は祐巳さまの妹でも何でもないんですから!」
「妹になれば良いの?」
「え・・・いやそれはそのあの・・・またアナタは!」
真っ赤になって口ごもる瞳子の隙を衝き祐巳が手を出すが、瞳子もすかさず頭を振ってかわす。
「ちょ・・・瞳子ちゃん・・・・・少しくらい」
「このっ!・・・・祐巳さま・・・・・・いい加減に!」
祐巳が手を伸ばせば瞳子は反対側へ頭を振って逃げる。逃げた方向に祐巳が手を出せば瞳子は動きを止めずに円運動で逆方向へ再度頭を振る。
「瞳子ちゃん・・・まっ・・・・・少しだけ・・・」
瞳子は両足を肩幅に開き上半身のみで祐巳の手をかわし続ける。
「祐巳さ・・・・・あなたって人は・・・・・まったく・・・・・・」
瞳子の動きはしだいに滑らかな8の字を描き出した。高速の体重移動、そして体を振った反動を殺さずに次のモーションへと繋げる。その洗練された動きは、8の字と言うよりも無限軌道の『∞』を連想させた。
「・・・・・・・・デンプシー・ロール」
二人の様子を見ていた乃梨子が呟く。
「1920年代の古(いにしえ)のブロー・・・って何してんだよあの二人は」
二人の攻防は、通りかかった祥子の「はしたなくてよ祐巳」の一言と共に繰り出されたガゼル・パンチに祐巳が沈黙させられるまで続いたのだった。


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