【432】 祥子お嬢様の運転免許取得日記  (いぬいぬ 2005-08-28 10:50:26)


薔薇さまの選挙も終わり、新しい紅薔薇となった祐巳に引き継ぎも終わった頃、祥子は突然運転免許を取得しようと思い立った。
いまさら受験勉強などしなくとも平気なだけの学力はあるし、なんと言っても祐巳を隣りに乗せてドライブができるというのが魅力的だったから。
祥子は夢想する。助手席に座る祐巳、きっとデートの時にはお弁当を用意してくれるだろう。そしてお弁当を食べ終わったら今度は祐巳を美味しく「小笠原さん?聞いてますか?」
祥子ははっと我に帰る。ここはすでに教習所の中、これから所内で実技講習の一時間目を受けるところであった。
「すみません。ちょっと考え事を・・・」
「何を考えたらあんな妖しげな笑顔に・・・いや何でもありません。それではさっそく始めましょうか」
相手はあの小笠原財閥の一人娘である。しかも何やら一人で妄想の世界に浸って笑っている。あまり深く関わるとロクな事が無さそうだと判断した講師は、祥子の妖しい微笑みを華麗にスルーして講習を開始した。
「それでは乗車する前に、車の前後を確認して下さい」
そう言われ、祥子は素直に車の前後を見る。
「汚れていますわ」
「・・・・・・それはほっといて下さい。前後に走行の障害になる物が無いかどうか確認するだけで良いんです」
しょっぱなからくじけそうになる気持ちを無理矢理奮い立たせ、講師は次のステップに移る事にした。
「じゃあ、とりあえず乗ってもらいましょうか」
そう言って運転席を指し示す。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・どうしました?小笠原さん」
何故か車に乗ろうとしない祥子に講師が聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「ドアを開けてくれないと乗れないじゃないですか」
「あぁ、それは気がつきませんで・・・・・・いやそうじゃないでしょう!自分で開けるんですよ!」
あまりにも堂々と祥子に言われたもので講師は思わずドアを開けかけたが、我に帰ってそう叫んだ。
「時間が限られてますから早く乗って下さいね」
講師はそう言って、自分は助手席へと乗り込む。今度はドアの開く音がして、祥子が自分で乗り込んできたようだ。
「それではまずはシートベルトを・・・・・・・・・」
運転席に呼びかける講師。しかし、そこには誰もいなかった。
「あれ?小笠原さん?!」
「何ですか?」
答えは後ろから帰ってきた。講師が慌てて振り返ると、後部座席にちゃっかり納まる祥子と目が合った。
「・・・・・・何で後ろに乗ってるんですか」
そう言われ、祥子は「あ」という顔をしている。
「すいません。いつものクセで」
車といえば乗せてもらうだけか?後ろでふんぞり返りやがってこのブルジョワめ、庶民を舐めんなよ!などと口には怖くて出せないので心の中で叫んだ講師は、祥子に運転席に座るよう指示する。
しかし祥子は「はい」と答えたまま動かない。
「・・・・・・・・・・・小笠原さん?」
「ドアを・・・」
「自分で開けて下さい!!」
祥子が卒業するまでに、この教習所では五人の講師がストレスで病院送りになったそうな。


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