「祐巳さまのバカぁーー!!」
「と、瞳子ちゃん〜。」
「あれは、言わない約束でしたのにー!!」
(ドスドス)
「や、やめてよー、瞳子ちゃん〜」
「……何をやってるの、二人とも。」
薔薇の館から聞こえてきた叫び声を聞き、何事かと急いで館に入ると、そこには祐巳をどつく瞳子の姿があった。
「「げっ、由乃さん(さま)」」
祐巳と瞳子は由乃の姿を見るなり、淑女らしからぬ声をあげる。
「げっ、て何よ、二人とも。それより、さっきのは、何?」
怪訝そうな顔をして問いつめる由乃に、祐巳も瞳子もオロオロ。
「え〜っとね、う〜んとね……」
「ゆ、祐巳さま、正直に白状したほうが助かるかも知れませんわよ。」
「で、でも……」
二人の煮えきらない態度に、由乃のイライラも限界を突破する。
「ああっ、もう!イライラするわね!何をやっていたのよ!」
ついに爆発した由乃に、物凄い形相で睨みつけられた二人は、脅えながら、恐る恐るといった感じで答えた。
「「………黄薔薇ごっこ」」
「ごきげん――」
「れーいちゃーん♪」
「よ、由乃?」
剣道部の会合も終わり、令が薔薇の館に行くと、中に入るなり、由乃に抱きつかれた。
ここしばらく由乃に怒鳴られてばかりであった令は思わず目頭を熱くする。
「?涙なんか流して、令ちゃん、どうしたの?」
心配そうに覗きこんでくる由乃に令は、何でもないよ、と軽く答える。
「…?そう?それより、令ちゃん。この前テレビでやってた、美味しいコーヒーの作り方で、コーヒーを『令ちゃんの為に』作ってみたの。今から煎れるから、早く座って?」
かいがいしい由乃の姿を見て、「あぁ、私はなんて幸せなんだろう」と感動しながら、自分の席に急ぐ。
「……ん?」
席に目をやると、何故か祐巳と瞳子が暗い表情で黙ってコーヒーを飲んでいた。