琴吹が書いた【No:424】「間が悪かった二条乃梨子」の続きになります。
私たちが乗ったのはいつものバス。
いつも通学で使っているバス。だから、リリアンの生徒が乗っていてもおかしくないのだけれど、今は時間が中途半端なせいか、リリアンの生徒らしい人は乗っていない。そもそも指折り数えられるくらいの人数しか乗っていないのだけれども。
そんな中、私はバスの一番後の右の端に座った。
入り口で傘を折りたたんだ祐麒さんが、私の隣に座る。
そうこうしているうちにバスが発車した。
その距離は少し離れた距離。どきどきしない距離。
その距離に私は少しほっとする。ほっとしたもつかの間、祐麒さんの左半身を見てびっくりする。
彼の左半身は雨でぐっしょりと濡れていたから。
私は自分の右半身を軽くなで回した。わかっていたことだが、私は一つも濡れていなかった。
さりげない気遣いだなと思った。でも、あの状態だったら、男の子は普通女の子を優先してくれるものではないだろうか?
そう考えるのは男女平等の現代に置いて、やはり良くない事なのだろうか。
少し迷って、メモ帳に、−3(保留)とつけた。次にマイナス点があったときに、一緒に減点することにする。
「かばってもらったようで済みませんでした」
私はそう言って鞄の中から、ハンカチを取り出した。
「気にしないで。傘に入れてもらったのは俺の方だからね、むしろこれで済んでるんだから助かったよ」
祐麒さんはそう言いながら、私の差し出したハンカチを押しとどめると、自分のポケットからしわくちゃなハンカチを取り出した。
いかにも男の子らしいなと思い、何となく目尻が下がる。
祐麒さんはそんな私を見て少し顔を赤くすると、そっぽを向きながら濡れた服にハンカチを押し当てた。
そんな祐麒さんを見て、かわいいなと思う自分がいた。
それから、二人の間に特に会話がなかった。
公共施設であるバスの中で騒がしくするのはどうかと思い、私は祐麒さんに話しかけず窓の外を見ていたし、祐麒さんも私に話しかけることはなかった。
そんな中、雨の風景はバスの進行と共に流れていく。
「次はリリアン女学園。リリアン女学園でございます。お降りの方は御手近のブザーを押してください」
バスのアナウンスが流れると、ピンポーンとボタンが押される音がした。
思わず身体がぴくりと反応してしまう。何しろここは毎日降りている場所なのだから。
リリアンで降りたのは、恰幅の良い頭の髪の毛が少し後退したおじさんだった。家にでも帰るところなのだろうか。
ぼんやりと、おじさんを見つめているとバスが発車した。
そしてすぐに、次の停留所のアナウンスを始める。
「次は花寺学院前。花寺学院前ございます。お降りの方は御手近のブザーを押してください」
そのアナウンスに、祐麒さんが近くのブザーを押し、ピンポーンと言う音が車内に響いた。
バスはしばらく走ると減速し止まった。
ます、祐麒さんが先に定期券を見せてバスを降る。
私も、運転手さんに定期券を見せ、差額の160円を払いバスを降りた。
バスを降りた私に祐麒さんは直ぐに傘を差し掛けてくれた。
私が降りると、バスは軽快にウインカーをならし走り去っていった。
私たちは花寺学院の校門前に立っていた。
「直ぐ近くなんですけど、ここにくるのは久し振りです」
「花寺の文化祭以来だものね」
あの時、あの話を聞いたときからもう一度は必ずここに来たいと思っていたから、ある意味この場所に帰ってきたとも言えるだろう。
「それじゃあ、いこうか」
しばらくの間、私は花寺学院の校門を見つめていた私を祐麒さんがそう言って促した。
【No:446】に続く