【47】 紅いメイドさん!  (くま一号 2005-06-18 06:41:36)


事の起こりは,蔦子さんの一言だった。
「こうなったらオークションでも何でもするしかないと思うのよね、部長」
「お?オークション?」
「だって,部費が足りないのよ。そろそろフィルムも買えなくなってくるわ」
「それは蔦子が大量に使うからじゃない」
「部長,写真を撮らない写真部なんて写真部じゃありません」
「だからって,機材を売るの?それじゃ活動ができなくなるわよ、蔦子」
「そんなことしませんって。まあ見ててください」

そして茶話会準備中
「祐巳さん」
「あれ?蔦子さん戻ってきたの?茶話会の写真は撮らないって言ってたのに」
「うん,始まる前には部室に戻るけどね,そのまえにエプロン姿を撮りたいなって。それでこれをつけてほしいの」
「何これ、カチューシャじゃない」
「そう,カチューシャ。そのエプロンにはカチューシャが似合うのよ,絶対。表紙カバーの写真にカチューシャつけたら萌え間違いなし」
「なに?表紙カバーって。それに萌えって・・・蔦子さんなんかたくらんでない?」
「いえいえ,こっちの話。はいはいカチューシャつけてつけて」
「わ,かわいい。祐巳さん。似合ってるわよ。ちょっと、由乃さんとなりでポット持ってくださらない?はい,チーズ」パシャ。もう一枚パシャ。
えーと、ちょっとこちら側からパシャ。
・・・・・・・・・・・・・・・
「じゃあねー,部室で待機してるから」
「・・・由乃さん,なんだったんだろう,あれ」
「なんかたくらんでるわよ,蔦子さん」


数日後
「写真部主催、『紅薔薇のつぼみ1/1フィギュア秘密オークション』!」
「おおおお」
「ぱちぱちぱち」
「やんややんや」

 放課後の教室に集まる怪しい面々。説明しているのは蔦子。
「これは、私が撮影した写真を元にして3次元プロファイリングした紅薔薇のつぼみ祐巳さんの精巧なフィギュアです。今時、ただのメイド服じゃもの足りません。リリアンの古風な制服にフリフリエプロンとカチューシャ。これです」
さっ、と掛けてある布を引くと、祐巳そのもののフィギュアが。
「うおおお」
「きゃー」
「材料は特殊開発したウレタンフォームを使い、抱き心地も満点です。代表で聖さまに試して頂きます」

「ふふふふ」
手をわきわきしながら登場する聖。そこへ祥子が割ってはいる。
「どうして高等部にいらっしゃるんですか」
「カメラちゃんが呼んでくれたんだよー」

「祐巳は私の妹です。メイドさんが恋しかったらご自分の妹の1/1フィギュアをお抱きになったら」
「志摩子のフィギュアを?考えたこともない。だいたいあれは乃梨子ちゃんのだよ」
「私の妹のフィギュアには手出し無用に願います」
「そっちを考えておくよ」
聖はふふふふとか笑いながら引き下がる。

「それではえーと、聖さまにかわって紅薔薇さまが抱き心地をお試しに」
「そうです。姉として当然でしょう。」
「紅薔薇さま、顔真っ赤ですよ、大丈夫ですか」
「ええ、これしきのことでめげていては、家に持って帰ってあんなことやこんなことやまあそんなことまでできませんわ」
「・・・・ってあの・・・」
「祐巳、いいわねいくわよ」だきっ

『ぎゃう』
「このようにコミュニケーション機能標準装備です」

「祥子、鼻血」
「お姉さま、なぜこんなところに」
「いいじゃない」
「まさかお姉さままで祐巳のメイドさん萌えに」
「かわいいじゃない」
「そうするともしや、えり・・・・」
「はーーーい」
「やっぱりorz」
「こんなおもしろいこと見逃すわけないじゃない」

「はいはい、それではスタートは大学部麺食券1週間分です」
「いちご牛乳2週間分」
「はい蓉子さまいちご牛乳2週間分」

「花寺推理小説同好会の会誌10年分」
「優さんっどうしてあなたが」
「いや、後輩に頼まれるとねえ」
「会誌10年分は無価値と認め無効です」
「あああああ」

「メープルパーラーのバラエティギフト大、5個、賞味期限来年のマリア祭まで」
「その期限はなに?江利子」
「由乃ちゃんが菜々ちゃんを落とすまでひとつきぐらいはあげないとね、蓉子」
「そこまでするか」

そこで、聖が蔦子になにか耳打ちを・・・・
「カメラちゃん、これ、欲しくない?」
取り出したのはカギ。
「な・なんですかそれは、聖さま」
「薔薇の館の合い鍵。いつでもだれでも撮り放題」
「欲しいですーーーーーー」

「聖さまから非常に高額のご提案がありましたのでこれでらくさ・・・」
「待ちなさい」
「祥子さま」
「これを見てから決めてもいいでしょう。ニキャンF8オートフォーカス一眼レフ特注仕様オールチタン。望遠レンズと、米軍仕様赤外線暗視・透視レンズ、小笠原研究所で開発したエックス線撮影フィルムとレンズもつけるわ。どう?」

「落札祥子さまっ」

「それじゃあこれ、カメラとレンズね」
「はい確かに・・・

「またんかいっ」
「わ、由乃ちゃん、祐巳ちゃん」
「フィギュアとはいえ、たとえ紅薔薇さまといえども、祐巳さんをあーしたりこーしたりまあそんなことまでさせるわけにはいかないわ。だいたい蔦子さん。祐巳さん本人にフィギュアにする許可取ったの?」
「いえ、あのまあ、売れたら取ろうかな、と」
「写真部の意地も地に落ちたわね」
「いえ、あの」
「そういうわけで、このフィギュアは没収っ。持って帰るわよ祐巳さん」

「ちょっとまって」
「蓉子さま」
「さっきから祐巳ちゃんがひとこともしゃべらないわ。それに祐巳ちゃん、あなたずいぶん身長が伸びたわね」
「ま、まさか・・・・・」
「祐麒くん!」
「ユキチっやっぱり女装癖が」
「このシスコンっ」
「ばれた!」
「逃げるわよっ祐麒君っ」
「おうっ」

「逃げたぞ、追えっ」
「こら待て由乃」

「ストーップ、そこまでよ」
「乃梨子ちゃん!」
「祐巳さまにあんなことやこんなことやまあそんなことをするのは、たとえフィギュアでも」
「可南子ちゃん!」
「この一年生トリオが許しませんのですわ」
「瞳子ちゃん!」

「乃梨子ちゃん、あなた自分は志摩子さんフィギュアをすりすりなめなめしておきながら」
「なめてませんっ。あれは志摩子さん本人のお許しがあるからいいんですっ」
「行くわよっ」
「きゃああ」

「蔦子さん、そのニキャンF8オートフォーカス一眼レフ持ってひとりでどこへ行くのかなあ?」
「蓉子さま、あの、今日もご機嫌麗しく美しきご尊顔を拝し奉り欣快至極・・・」
「この騒ぎの責任、どうするわけ?あ、こら、逃げるなっ」

『がしゃーん』『どかっぐしゃ』『ばきばきばき』『ぼき』

「あーあ」
「こわれた」
「こなごな」
「ニキャンF8が・・・」
「祐巳、祐巳、なんてことを」

「こーゆーの高いんだぞお、祐巳の1/4フィギュア実在なんて×万もするんだから」
「どーするの?」
「蔦子さん」
「カメラちゃん」
「蔦子っ」

「あ・の・・・」



「それで?蔦子」
「あの、フィギュア制作費がこんだけかかりまして」
「で、この部室、ずいぶん風通しが良くなったみたいなんだけど、その棚にあったカメラとか三脚とかレンズとかはどうしたのかな」
「小笠原家にニキャンF8の弁償がありましてその・・・」
「で、隣の暗室にあった、高校の写真部では唯一と言われるカラー自動現像機も」
「はい、さきほど小笠原梱包運輸の方が引き取りに・・・」
「蔦子?」
「こうなったらオークションでも何でもするしかないと・・・
「やめなさいっっ」


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