【471】 気をつけて寒すぎる冬の一日は  (春霞 2005-09-03 22:37:12)


  【No:436】 『月の光の下で眼鏡を取った蔦子さん』 (無印)、
  【No:463】 『女心と秋の空すなわちそんな一日』  (黄薔薇革命)、

  【No:481】 『ダンス・イン・ザ・タイトロープ』       (ロサ・カニーナ)、 
  【No:889】 『麗しき夢は覚め私に出来ること』     (ウァレンティーヌスの贈り物〔前編〕)、            と同じ世界観ですが、単独でもご賞味いただけます。
           原作『マリア様がみてる --いばらの森--』 を読了後、ご覧下さい。


               ◆◆◆


「どうして?」 
 靴のスナップを留めながら祐巳が尋ねると、 …… 

      チュキ、チュキ、チュキ、チュキン 
      チュキ、チュキ、チュキ、チュキン 
      チュキ、チュキ、チュキ、チュキン 

      ああ、好い! ちょっと屈んだその姿。 
      スクールコートの裾からまぶしく覗くふくらはぎ。 
      私のほうを上目遣いで見つめる小動物のような瞳。 
      襟元にちらりと輝くロザリオの鎖。 
      『靴のスナップを留める女子高生』 このタイトルが 
      これほど麗しくハマルなんて。 祐巳さん最高ー! 

      って、落ち着け蔦子。 せっかく祐巳さんとお話しているんだから。 

      とは言え、桂探偵事務所のチーフから大凡の事を聞いているだけに、 
      この件には、深入りしにくいものが有るわね。 
      充分に時間をかけて、祐巳さんの会話を楽しんだ上で、 
      バックボーン情報だけを伝えたほうがいいかな? 

      (この間、約3.7秒) 

「ちょっと、蔦子さん」 
「失礼。ちょっと夢中になっちゃって……。 で、何だっけ?」
      さーて、巧く話を転がして、引っ張りまわして 
      放課後の逢瀬を楽しまなくちゃ。 
      八方美人の祐巳さんの関心を、いまは私だけが独占しているんだから。 
      写真にうつるのは嫌いだけど、祐巳さんの瞳の中に自分が映り込んでいるのは、 
      悪くない。 とても、悪くない感じね。 

 蔦子は、鼻の下が伸びないように注意しながら、祐巳の腕を取った。 



       ◇◇◇ 


 そうして、蔦子が自分のアンテナ(八木博士謹製)を信じて、2、3歩引いた所から傍観しているうちに。 事件はあっさりと収束に向かったようである。 正直、蔦子にとっては祐巳に被害が及ばなければ、暗躍する意思も必要性も無いのだし。 白薔薇さまがどうなろうとさして気に成らなかったが、優しい祐巳さんの悩み事が減ったのは良い事だと思う。 
 ストーキング中に 『麺食の風景〜つぼみの妹たち』 とか 『おろし髪の紅薔薇のつぼみの妹』 とか、貴重なショットがいくつも手に入ったし。 
 おニューのカメラの感触を楽しんで。 
 これから薔薇の館では、新しいコレクションが増える予定。 
 祐巳さんと白薔薇さまの仲が、ちょっと親密になったような気もする所が微妙だが、まあ概ね上出来。 やっぱり今回の騒ぎには踏み込まないのが正解だったようだ。 

 達人は達人を知る。 というけれど。 どうも白薔薇様は私のことに気付いているみたいだ。 藪をつつか無いように気をつけないと、祐巳さんの周りに居られなくなるかもしれない。 
 兎も角いまは、祐巳さんの傍で写真をたくさん撮れればいい。 そう割り切って人生を楽しもう。 
 (いつか其れだけで満足できなくなる自分を予感しているが、今はまだ耐えられるから。) 


 吐く息は白く、空は何所までも高く澄んでいた。 
 武蔵野の、今日はクリスマス・イブ。 

 蔦子の預かり知らぬ所で、新しい字(あざな)が付けられた事を知る由も無く。 
 カメラちゃんは狩猟本能(狩猟煩悩?)の命ずるままに、薔薇の館へと向かうのだった。 

 スキップをしながら。 



ねえ祐巳さん。 
  気をつけて寒すぎる冬の一日は 
    人肌が恋しくて、私の狩猟本能を逆に燃え立たせてしまうの。 
      だからあんまり、コケティッシュなポーズはしないでね。 


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