【473】 麦茶修行するなんて家族計画  (水 2005-09-04 02:12:49)


『ええっ?』
 その時福沢家で驚きの声が三つ重なった。 その驚きの原因の祐巳はもう一回繰り返した。

「だから、今日から麦茶を作るときにお砂糖は入れないようにしてね、お母さん」
「ど、ど、どうしちゃったの、祐巳ちゃん? お熱があるのかしら……それともダイエット?」
「ゆ、祐巳? な、なに恐ろしい事を……お前自分が何を言ってるのか分かってんのかよ……?」
「ふむう、そりゃ……厳しいな、それは……う〜ん厳しい……」
 それぞれ三者三様の表情だけど、みんなが揃っているのは理解不能だって事。 だから理解できるように祐巳は説明を続けた。
「だって、今日学校でみんなに笑われたんだもん……みんな麦茶にお砂糖どれ位入れてるって聞いたら」
「……なんて笑われたのさ?」
「普通は誰も入れないよって……」
『ええっ!?』
 再び驚きの声が揃う。 それはそうだ、祐巳もまだ完全に納得できた訳じゃないし。

「なにがどこでどうなってそうなるのかしら……?」
「お、お前担がれたんじゃないのかよ」
「う〜ん……そう言われると、随分昔にひい爺さんに聞いたことがあったような気も」
「あっ、お父さんも聞いたことあったんだね」
「うん、祐巳ちゃん。 うろ覚えだけど多分……おそらく……」
「お、親父もかよ……それじゃあ……」
「お父さんまで言うんなら、そうね……」
「うん……」
 今度は一家揃って。
『そうだったんだ……』
 みんなで揃って、ふか〜〜くため息。

「あ、でも祐巳ちゃん。 お家だけで隠れて飲む分には分からないのじゃないかしら?」
「そうだよ、お母さんの言う通りだって。 なあ祐巳、そうしようぜ」
「それは駄目だよ。 普段から充分慣れておかなくちゃ、いざって言うときとても飲めないもん」
「そうだなあ、祐巳ちゃんの言うのも確かに一理あるなあ」
 揃って。
『う〜〜ん……』
 悩む。

「試しにそうしてみましょうか。お母さんはお家だから良いけど、みんなはお外で我慢しなくちゃいけないものね」
「うう、俺はイヤだけど、恥掻くの分かってる訳だしなぁ……しょうがない、試してみるか」
「そうだよね、試しにやってみるのも悪くないって。 やってみたら慣れるかもしれないよ?」
「祐巳ちゃんの為ならお父さんはOKだよ。 それにそろそろお父さんもお腹が気になってきたし」
「だよね、最近ズボンがきつそうだもんね」
「(グサッ)ゆ、祐巳ちゃん、きついこと言うなあ……」
「それより祐巳。 お前が一番早くギブアップするんじゃないの?」
「うっ。 が、頑張るもん……」
「決まりね。 じゃあ今日から家族みんなで頑張りましょうね。 名付けて『麦茶修行』。 さあ、みんなで掛け声よ、さん、はいっ」
『エイ、エイ、オ〜!!』
 家族みんなで揃って断固たる決意の声をあげた。 絶対やってみせるって。



 でも、ホントに直ぐに『麦茶修行』は終わりを迎えた。 たったの一日。
 何故って?
 それは『麦茶修行』に苦しむ祐巳が、本能で裏ワザを発見したから。

 外で麦茶を飲むときには、あらかじめ口に飴玉放り込めば良いんだって。


一つ戻る   一つ進む