【475】 祐瞳あいうえお作文  (柊雅史 2005-09-04 02:53:11)


「お互いの名前であいうえお作文ですか?」
「そうだよ、あいうえお作文」
鼻歌を歌いながら紙と筆記用具を準備する祐巳さまに、瞳子は戸惑いの視線を乃梨子に向けてきた。
珍しく、祐巳さまと乃梨子と瞳子だけが揃った薔薇の館。ちょっと暇だな、と思い始めた頃に祐巳さまが突然言い出したのだ。
暇つぶしに『お互いの名前であいうえお作文』でもやろうか――って。
「ルールは分かる?」
「何度か見たことはありますけど……」
画用紙と筆記用具を渡されて、瞳子が戸惑ったように言う。
「それを、お互いの名前でやるわけですわね?」
「そうだよ。フルネームでも良いし、名前だけでも、苗字だけでも良いからね」
言いながら、祐巳さまはきゅっきゅっとマジックで『まつだいらとうこ』と書く。前回、8文字の祥子さまをこなした祐巳さまは、7文字の瞳子だということで余裕の表情だ。
しかし、懲りないお人だな、と乃梨子は思う。
「瞳子ちゃんは名前だけにする? それでも構わないよ?」
「む……祐巳さまがフルネームなら、私もフルネームにしますわ、もちろん」
変なところで負けん気を発揮する子だ。瞳子は。
「じゃ、出来たら挙手してね。乃梨子ちゃんは今回は審査員」
言って祐巳さまが画用紙と睨めっこを始める。瞳子も慌てて画用紙に『ふくざわゆみ』と書き込んで、うんうんと唸り始めた。
平和だなーと、乃梨子は窓の外を眺めてみたりする。
「うぅ……思った以上に、難しいですわ……」
瞳子が眉間に皺を寄せて苦悩していた。一方で、祐巳さまはスラスラと文字を書き込んで行く。
その様子をちらりと見て、瞳子は悔しそうに唇を噛んだ。
「――よし、出来た!」
はい、と祐巳さまが手を挙げる。
「はい、それでは祐巳さま。どうぞ」
「えーとね、
  『ま』けず嫌いで
  『つ』んつんしてて
  『だ』き心地が最高で
  『い』つもついついかまっちゃう
  『ら』ブリーな
  『と』゙リルがチャームポイントの
  『う』しろ姿が可愛いから
  『こ』うやって抱きしめたくなっちゃいまーす!
 ――えいっ!」
「ひぃあ! ちょ……離してください、祐巳さまっ!」
「ダメー♪ うーん、やっぱり抱き心地最高〜♪」
ひとしきりじたばたと暴れる瞳子を堪能していた祐巳さまは、そこでふと瞳子の手元を覗き見た。
「あれ? 瞳子ちゃん、もう出来てるじゃない」
「そ、それはちが……っ!」
「えーと、どれどれ〜?」
慌てる瞳子の手を華麗なステップでかわして、祐巳さまが画用紙を広げて読み上げる。
「お題、ふくざわゆみ!
  『ふ』いに抱きついたり
  『く』っついてきたりすると
  『ざ』わざわと
  『わ』たしの心は揺れてしまう
  『ゆ』みさまに
  『み』りょうされてしまったのでしょうか……?
 ――だって。えへへ〜」
「そ、それは違うんです! た、ただのあいうえお作文ですわ! こ、心にもないことですけど、仕方なく! 仕方なく単語を当てはめただけです!」
「分かってるよ〜。でもこれ、記念にもらうね」
「か、返してくださいませっ!」
「ダメー!」
画用紙を奪おうとする瞳子を、またもや祐巳さまが華麗なステップでかわす。なんでこの人は、こんな時だけ妙に機敏になるんだろう。
きゃいきゃいと戯れている二人を生暖かい目で見守り、乃梨子は判定を下した。
「この勝負、両者脳みそ溶けまくってるのでドロ〜」


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