【477】 犬それでいいのかよ!  (高見屋 2005-09-04 14:13:22)


No.428 紛れもないパワー強力マスコットガール くにぃさん作 
No.430 女王恋と危険渦巻くキャンペーン実施中 くま一号さん作の設定を拝借してます。

yPodとの交換条件で祐巳さまの1/1フィギュアを瞳子に納めてからしばらく経った、ある日曜日。
私は瞳子に呼ばれ、彼女の家を訪れていた。
「で、見せたいものってなにさ。もしかしてまたyPodみたいなヤツ?」
「確かに、デジタルガジェットの一種と言えなくはないかもしれませんわね」
「ふーん、なら前みたいに、学校に持ってくれば良かったじゃない?」
「さすがに学校へ持っていけるような大きさではありませんもの」
「大きい?……もしかして、パソコンとか?」
ふむ、それなら有り得るな。起動音が祐巳さまの声だったり、ログオン画面や、壁紙が全部祐巳さまの画像だったり。
「ちがいますわ。今回はペットロボットです。その名はYIBOと言うんですの」「……AIB○?」
「YIBO!ワイボです!!超画期的4足歩行自律型ロボットYIBOですのよ!」
「……瞳子。日本企業の商品のパクリはさすがにやばいと思うよ」
「パクリとはなんですか、失礼な。可愛さと機能性を追及したらたまたま結果として、犬っぽいペットロボットって所がそこはかとなく、なんとなく方向性が似通ってしまったというだけでしてよ」
「犬っぽい……やっぱり似てるんじゃないか……で、やっぱり祐巳さま仕様で?」
「もっちろん。乃梨子さん、私を誰だと思って?」
「祐巳さま大好きなのに、本人を目の前にすると素直になれない、プリンセス・オブ・あまのじゃくの松平瞳子さんです」
「……はぁ」「なんですかその溜息は」「別に」
「まぁ、よろしいですわ……とりあえず2台作成したのですけれどね、妥協のないリアルさを追求した結果、あまりにコストやら時間やらかかりすぎてしまうと言う事で非常に残念ながら……プロジェクト中止ということになってしまいましたの」
本当に残念そうに語る瞳子。
でも今出しても、市場にはあらゆる種類のペットロボットが氾濫しているし、流石にちょっとブームも過ぎているように見えるし、まぁ、懸命な判断じゃないかな。
「でも、せっかく作ったんですもの。このままお蔵入りにするのも忍びないではありませんか?で、乃梨子さんには先日あんなにすばらしい祐巳さまをお納めいただきましたから、もし乃梨子さんがお気に入りになったのでしたら、一台差し上げてもよろしいんですのよ」
「え、いやアレを喜んでもらえたならなによりだけどさ。でもほらアレ自体yPodの代価だったじゃない?悪いよそれは」
「そんな事ありませんわ。私、まさか乃梨子さんがあれほどのものを作られるとはまったく思っておりませんでしたもの。現物を拝見して、本当に感動してしまいましたの。だから、私の気持ちだと思って。じゃないと私の気が済みませんの」
「そ、そう?そこまで瞳子が言うのなら」
「もちろん、白薔薇さま仕様に調整いたしますわよ」
「し、志摩子さん仕様」
志摩子さん仕様ってどういうのかな……志摩子さんの声で話すAIB○てこと?
志摩子さんの声で甘えるAIB○……
志摩子さんのようにふんわり柔らかで、ちょっとだけ天然入ってて……
いいなぁ、志摩子さん仕様。私だけの志摩子さん仕様。ああ、私の志摩子さん……
「の、乃梨子さん?」
「……いや、ごめん。えっと、じゃあ見せてもらえるかな?」
「え、ええ。では少々お待ちいただけますか?」
「これで今日のような休日にも祐巳さまに出会えなくとも、まったくもって寂しくなどないのですわ」
「寂しかったんだね、瞳子」
「ええ、まったく。家族と食事をしていても、宿題をしようと机に向かっても、いつのまにやら祐巳さまが私の頭を占領して私はため息をつかされるばかり……ああ、なんてあなたは罪なお方なのですか!……って、なにを言わせますの!」
「あんたが勝手に言い出したことでしょうが……あんたさ。ほんとそろそろ祐巳さまの前でも素直になりなよ。病気になっても知らないよ」
いやまぁ、ある意味病気だけどなぁ。お医者様でも草津の湯でもってやつか。
「だ、だって……」
「はいはい。それじゃ見せてよ。その、祐巳さまに似せたっていうペットロボットを」
「え、ええ!すぐ連れてきますわ。そちらのソファにおかけになってお待ちくださいましね!」
おそらく自分の部屋にだろう。とても嬉しそうにかけていく瞳子。
まったく、瞳子にあんな表情をさせる祐巳さまは……そんなことを考えながら私は大きなため息をついた。
瞳子が、休日に祐巳さまを想ってつくため息はこの比ではないのだろう。
それを考えると、また溜息が出た。
ふと気が付くと向かいのソファの下あたりでガサゴソと何かが動き回る物音がする。
ひょっこり影から見えたのは人の顔。それも乃梨子が良く知る……
「え……祐巳さま?」
そう、そこにいるのは確かに紅薔薇のつぼみである福沢祐巳さま、その人の顔であった。
あれ?祐巳さまもいらっしゃってたのか。瞳子もそうならそうと言ってくれれば良かったのに。
「えっと、祐巳さま、ごきげん……よう……?」
「ごきげんよう、乃梨子ちゃん。その白いワンピース、とってもよく似合っているよ」
「え?あ、ありがとうござ……」
あれ、ちょっと待て。ちょっと待てよ。なにかがおかしい。ありえない……危険な信号が頭の隅でチカチカと点滅しているのを感じる。
「ああ、学校でもないのにごきげんようはおかしいよな、はは!」
恐ろしい予感が全身を走る中、思わず現実逃避したくなる。
でも、まったくもってこれは無理はないなと思う。だって、このゆ、祐巳さまは……


「う、うわあああああああぁああああああああああああ?!?!?!」
「ど、どうしましたの、乃梨子さん?!」
「あ、あああああれあれ!祐巳さまの、祐巳さまの生首ぃ!!」
「え、祐巳さまの?!……ああっ、こんな所まで来てましたのね。もう、すっかり探してしまいましたわよ、祐巳さまぁ」
へ?
「乃梨子さん、よくご覧くださいな。どこが生首ですかどこが」
そう言いながら、瞳子はその祐巳さまと思しき生首を抱き上げほお擦りをした。
いや、確かにその祐巳さまは首だけではなかった。
その首の先に祐巳さまの可憐なお顔とはまったくもってアンバランスなものがくっついていた。
瞳子は今度は何を作ったと言っていた?
ペットロボット?
えっと『犬っぽい』?『祐巳さま仕様の』?


そう。祐巳さまの首の先にくっついていたのは、とってもリアルな『犬の身体』。


リアルすぎだろいくらなんでも、おい。
毛もえらくフサフサで……肉球まで。うわ、触感がすごいリアル。
当然のことながら私はAIB○そのもの、ちょっと近未来的デザインのいかにもロボットロボットしたものを想像していた私にとって、目の前のものがどれほどの衝撃であるか。
「くすぐったいよ、乃梨子ちゃーん」
「うわあっ?!しゃ、しゃべった。しゃべったよ、瞳子!?」
「さっきからずっとしゃべってましたわよ?」
そ、そうだっけ。あまりの事にどうやら少しだけトリップしてしまっていたらしい。
しかし、身体は犬なのに、顔は祐巳さまで、祐巳さまの声でしゃべる。な、なんてシュールな光景……
「ふっふっふ。どうですか、乃梨子さん!今度は顔と声だけではありませんのよ。百面相と言われる祐巳さまのあんな表情もこぉんな表情も、癖も仕草も研究に研究を重ねてインプットして……」
この、えっと……犬型?ペット?ロボット?の魅力について猛アピールをする瞳子。
瞳子が語り続ける間、彼女に抱かれた祐巳さまは目を細め、優しい瞳で見守っているように見える。身体、犬だけど!
それはまるで包み込んで守る姉であるかのよう。なんとも微笑ましくも麗しい姉妹の姿に見えなくもない。顔の周りだけ、だけど!
……ふむ、確かに祐巳さまは可愛らしい。志摩子さんと瞳子の次くらいに可愛い。
一年生のうちで妹にしたいお姉さまナンバーワンと言われているのも、よくわかる。
そうだな、祐巳さまは可愛い。ならば祐巳さまの顔をしたこの犬ロボットも……
「かわいいわけあるかーい!キモイわ!ぶっちゃけとてつもなく怖いわ!!」
「ま、まあ!いくら乃梨子さんでも言っていい事と、悪いことがありましてよ!祐巳さまのお顔を気持ち悪いだとか、怖いだとか、締りがなくて甘ったるいだとか!なんたる侮辱ですか!!」
「いやいやいやいや、そこまでは言ってないし!ってか、そんなもん作っちゃってるあんたの方が侮辱してるってーの!わかれよ!!」
「……ああ、乃梨子さんったら。わかっておりますわ、白薔薇さま仕様のYIBOを早くよこせって事ですのね?もう、乃梨子さんのせっ・か・ち・さん♪
あ、開いた口が塞がらないとは正にこの事だ。
恐るべき松平電機産業も、さすがにこれはやばいと思ったのかもしれない。
コストが云々という話も、瞳子を納得させるための苦肉の策だったりして、案外。
などと思いながら、なおYIBOっていうか、人面犬ロボットと戯れながら熱っぽく、その魅力について語り続ける瞳子を、私は生暖かい目で見守っていた。いつまでもいつまでも。

後日。我に返った瞳子が、YIBOの処分方法に苦心惨憺するのだけれど……
はぁ〜……


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