琴吹が書いた【No:446】「天使に会った」の続きになります。
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「二条さんは本当に仏像好きなんだね。30分以上見てるとは思わなかったよ」
祐麒さんはそういって私を見て微笑んだ。
羽藕観音を見せてもらってから、1時間がたっていた。
今はM駅近くの喫茶店に二人で入って、お茶を飲んでいるところだ。
テーブルの上にはすでに、ホットコーヒーとミルクティーが置かれている。
「すみません、あまりにも珍しかったので、つい見入ってしまって」
あの仏像を見た瞬間、私は祐麒さんのことをすっかり、失念し、30分もあの観音様を見つめていたのだった。
「気にしないで、元々あれが目的だったわけだし。しかし、仏教とキリスト教って、意外と近いところにあるんだね。調べてみると面白いかも」
「私たちの文化祭のクラス展示がそんな感じの展示だったんですよ。『他教のそら似展』キリスト教と他の宗教のに照るところを比べてみようという企画だったんです」
「それ見たかったなあ・・・。当日は小林たちについて行ったから、そういう文化的な展示はよらなかったんだよね」
「そうですか、それは残念です」
見てくれていたら、この話で、もう少し話ができたのにと思う。だから、私はメモ帳に+1とつけた。
「さて、これからどうしようか。解散する?」
「そうですね……」
今日祐麒さんとあっているのは、花音寺の秘仏を花寺の生徒会長というコネを使って見せてもらうためというのが最大の理由だ。
祐麒さんにはそう説明してある。だから、それがすんでしまえば、解散するというもの至極当然な成り行きだろう。
でも、祐麒さんに言っていない目的があるし、その目的をなしにしても、このまま別れてしまうのは惜しい気がした。
私がそう告げようと思ったときに、祐麒さんが口を開いた。
「二条さんが忙しくなければ、一緒に映画でも見に行かない?」
私は、目をぱちくりして祐麒さんを見た。
そんな私を見て、あわてて祐麒さんが言葉を付け加える。
「もちろん二条さんが嫌じゃなければだけど」
おずおずとから慌ててにめまぐるしく表情が変わるのは、やはり姉弟だからなのだろうか。
「最近は、どんな映画が面白いんですかね?」
私はそう言うと祐麒さんに向かって微笑んだ。
その私の言葉を聞いて明らかにほっとする祐麒さんの表情見ていると、私の心の中に何かが灯った。
それはとても暖かく、優しい感じのするものだった。
【No:531】に続く