【497】 聖さまお茶発掘  (白紙 2005-09-08 20:34:23)


「ごっきげんよ〜」
 片手を挙げながらビスケット扉を開けたのは元白薔薇、佐藤聖様だった。
「ありゃ?」
 いつもなら誰かは居てごきげんようと返してくれるのだが、今日に限っては誰も居ない。
 窓は開いているし、誰かの鞄は置いてあるので一時的に席を外しているだけだろう。
「ま、いっか」
 かって知ったるなんとやら、荷物を机に置くと流しに向かう。
(コーヒー、コーヒー♪)
「えーっと、ありゃ?」
 流しの下の収納場所を見るも、タイミングが悪いのかコーヒーは置いてなかった。
 見れば、紅茶も緑茶もある。
 それどころか抹茶に昆布茶に玄米茶、その隣に『祐巳専用』と書かれた麦茶のパックまである。
 (む〜〜)
 別に、他の物でもいいのだが未だ誰も戻ってこないし、何より聖は暇だった。
 こうなってくると何が何でもコーヒーを見つけたくなるのが人情。
 ガサゴソとあさっていると出てくるわ出てくるわ。
「いったい誰が持ち込んだんだこんなもの」
 青汁と書かれた箱をぽいっと後ろに放る。
「そういえば出てきたこと無いわね」
 カルピスの瓶を横にどける。


 がさがさ

「む、なんだこりゃ?」
 ひとしきり中のものを外に放り出したら、何故か怪しい匂いのするダンボール箱がひとつ。
 ご丁寧にも封と書かれたガムテープが貼ってある。
 これを聖は躊躇もせず破り開ける。
 この後に惨劇が待つとも知らずに・・・。

 びりびりびり、がさがさ。

「こ、これは!」
 思わず手にとってしまった。
「で、何を漁っているのですか聖様」
 ビクッ
 首をぐぎぎと回すと既にヒステリーモードの祥子と目が合う。
(あ、青筋立ってる)
「いや、コ、コーヒーないあかなぁって・・・」
 思わず握り締めていたものをズボンの後ろのポケットに突っ込む。
「それで、なぜコーヒーを探しているはずの聖様が・・・って、そ、それは!」
 そう言うとものすごい勢いで祥子が飛び掛ってくる。
「うわぁ、ご、ごめん」
 とっさに頭をかばうが、どうやら祥子はそれ処では無いらしい。
 飛び掛ったのは段ボール箱の方で、ズリズリと聖から離すとキッと睨み付けた。
「聖様、見ましたね」
「い、いや。まだ見てないよ。ガムテープを剥がしただけで・・・」
「そうですか・・・」
「う、うん。そうだよ。まだ私は中を見てないし、誰の物かもわか・・・しまっ!」
「ふふ、ふふふふふふ・・・」
 ゆらりとダークなオーラを纏いつつ祥子が立ち上がる。
「そうですか、誰のかはわからないと・・・」
(笑ってる、祥子が笑ってる。でも、目が目がーー)
「しょうがありません。聖様には消えていただきましょう」
 おもむろに取り出した携帯を手早く操作して・・・
「え、な、なんで!てか、祥子どこに電話して・・・」
 ガシャーーン!!!
「うわぁ」
 聖が窓のほうに振り向くと黒尽くめの男が三人立っていた。
 手にしている素敵な黒い物を聖に向けて・・・。
「私が苦労してあちこちから収集した祐巳の下着は誰にも渡しませんことよ!」
「誰の下着と言ったんですか?お姉様」
「ゆ、祐巳!」
 何時の間に来たのか祐巳ちゃんが側に立って笑っていた。
 ごたごたで気がつかなかったけど入り口の扉は開いたままだった。

「ち、違うのよ祐巳。これは、私が大切にしまっていた物を聖様が・・・」
「とりあえずお姉様、お話があるので下までよろしいですか?」
 笑っているはずの祐巳ちゃんを前にして祥子が怯えている。
「ご、ごめんなさい祐巳。でも、聞いて!ただ私は・・・」
「早くこちらにお姉様。それから足立さん方にも帰ってもらってください!」
(あ、祥子が耳を引っ張られていく・・・)
 足立さん方と呼ばれた3人組も「おい、どうする?」などといいながらも結局窓から帰っていった。
「な、なんだったんだ・・・」


「いたっ!や、やめて祐巳。お願いだから鎖骨は止めてーーーー!!!」



 しばらく聞こえていた祥子の悲鳴も聞こえなくなった。
 どうやら、今回は助かったらしい。
「いえ、お姉様残念ながら」
「ひょえーーって志摩子!」
 何故か私の後ろに志摩子が立っていてするするとポケットから先ほどのぶつを取り出す。
「説明していただけますよね」
「えと、その。コーヒーが」
「それは先ほど聞きました」
(先ほどって、い、何時から!)
 思わず聖の背中を嫌〜な汗が伝う。
「ではお姉様もいきましょうか」
 にっこり
「え?いくってど。痛い痛い!!耳で引っ張っていかないでー!!!」

 掃除が手間取って少し遅れてしまった由乃と、教務室に用のあった令がたまたま廊下であったので二人で薔薇の館に向かっていた。
「さっきのは誰だったんだろうね令ちゃん?」
「さあ、シスターに挨拶していたから学校関係者だとは思うけど」
「でも・・・」


「志摩子ごめんなさいーーー!!お願いだから腕ひしぎは止めてーーー!!!!」



 由乃たちが薔薇の館に着くと、何故か窓ガラスが割れていて『私は獣です』と書かれたカードを首から提げた紅薔薇と聖様が正座していた。


一つ戻る   一つ進む