♪ざざんざーざざん、ざざんざーざざん・・・
とある放課後。教室の掃除を終え、薔薇の館へ向かおうとしていた乃梨子の前に、三人の戦士が謎のテーマソングを歌いながら、何か土砂置き場の山の上から着地してきた風にしゅたっ、と現れたのであった。そしてそのまま、しゃきーん、とか言いながらそれぞれポーズを取り始める。
「優雅! 高級! 佐藤錦レッド!」 しゃきーん!
「可憐! 高級! 高砂イエロー!」 しゃきーん!
「上品! 高級! ナポレオンホワイト!」 しゃきーん!
盛り上がる彼女らを前に、乃梨子はいたって冷静に努めながら、『佐藤錦レッド』こと敦子、『高砂イエロー』こと美幸、そして『ナポレオンホワイト』こと恭子を順々に眺め渡す。
『三人揃って! 高級戦隊フルーツバスケット!!』
「・・・いや、つーかさ、フルーツバスケット言う割には、全部さくらんぼの名前じゃないの?」
『とう!!』
一通り名乗りを上げた彼女たちは、それぞれ思い思いの方向に意味も無くジャンプした後、急いで美幸を中心に集合すると、何故か乃梨子に向かって「しゃー」とファイティング・ポーズを取る。
「聞けよ人の話」
「さくらんぼはバラ科だから、リリアン的に良いのです!」
「それを言うなら、リンゴもアンズもバラ科だけど?」
「そんな事を言って、私たちを惑わせようとしても無駄よ!」
「つーか、何言っても無駄じゃないかなあ」
「私たちの必殺技を喰らいなさい! 悪の女幹部、乃梨子さん!」
「さん付けかよ・・・って何? 私、幹部なの?」
じゃあ、ラスト三話目ぐらいかこれ? と呟く乃梨子を他所に、三人は敦子と美幸が前、恭子がその後ろという逆三角形の布陣をとる。
「・・・何をやりたいの?」
その(呆れ果てた)乃梨子の声には応えず、恭子は徐に懐から折畳式ハンガーを取り出すと、かちゃかちゃと広げ両手で構え、片足と共に、ばっ、と前に突き出す。それと同時に、敦子と美幸はぎゅっと片手を握り合うと、「佐藤錦サンダラ!」「高砂サンダラ!」と叫びながら、それぞれ逆の拳をぶるぶると握りしめ、恭子の「ナポレオー!」の声と共に、勢いよく掌を乃梨子に向かって突き出してくる。
「・・・で、何?」
「乃梨子さん乃梨子さん、私と美幸さんでは、どちらの生命線が長いと思います」
「え? ・・・えぇっと」
『すぱーくー!!』
ぱちん!
「あ痛っ!」
手相を確認しようと、近づいて二人の掌を見比べていた乃梨子の頬に、かけ声と共に敦子・美幸の左右からの張り手が振り下ろされる。張り手自体はさほど痛くはなかったのだが、何よりもいきなりのその行動に驚き、乃梨子は、ぺしゃん、と尻餅をつく。
「な・・・何?!」
「やりましたわやりましたわ!」
「悪の女幹部を倒したのですわ!」
「私たちの勝ちですわね!」
きゃっきゃっと歓声を上げながら、嬉しそうに飛び跳ねる三人のその様子を、乃梨子はただ呆然と見やっていたが、張り手の衝撃が徐々に収まってくると共に湧き上がってきたその理不尽な怒りに、両眉を瞳子ばりにカモメのように吊り上げながら、がばっ、と身を起こす。
「いきなり何するのよ! ふざけないで!!」
「違いますわ、乃梨子さん」
「・・・は?」
「そこはザケンナー、じゃなくて、ゴメンナー、ですわよ」
「知るか、そんなこと!!!」
かくして、怒りまくった乃梨子の凄まじいパワーにより、高級戦隊フルーツバスケットは一瞬にして壊滅の憂き目に遭ったのだが、事の一部始終を見ていた瞳子と可南子の励ましにより、後日、プリンスレッド、マスクイエロー、アンデスホワイトとして復活したりなんかしたのであった。