すでに体はボロボロだった、何度剣を振るっても結界に阻まれて志摩子に切りつけることが出来ない。
それでも由乃は、刃の所々にひび割れが入ってしまった聖剣を構え直す。 自分がたとえ時間稼ぎでしかないと分かっていても、そこから引く気など毛頭無かった。
「っでや〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
渾身の力を振り絞って裂帛の気合とともに呪文を詠唱中の志摩子に切りかかる。
”ガキーーーーーーーーン”
金属質の音を立てて結界が砕け散る。 必殺の間合いに身を躍りこませた由乃は志摩子に切りかかる。
「なっ?!」
横に薙いだ剣は、まったく動かない志摩子の首を捉えたかに見えたが、しかし。
「……おしかったわね……剣が折れていなければ私の首も取れたのに…」
「くっ‥‥この〜〜〜〜〜〜〜!! ぅあ〜〜〜〜〜〜〜〜っ?!」
折れた剣でなおも攻撃して来ようとする由乃に、志摩子は完成していた呪文を解き放った。 解き放たれた光すらも飲み込む闇の塊が由乃を包み込みその精気を容赦なく吸い取っていく。
「ぁぁ‥‥‥ゆ、祐巳‥‥ゆ‥み‥‥は、早く‥覚‥せ‥い‥‥して‥……」
闇に閉ざされかけた意識の中で、由乃は未知の力におびえ覚醒し切れていない友の笑顔を思い浮かべていた。
「そう、祐巳さんはまだ覚醒してはいないのね……」
由乃の言葉に笑みを浮かべる志摩子、しかし、その微笑みは見ているものを凍りつかせる死の微笑だった。
* * * * * * * * *
「ちょっとちょっと! 何よこれ?! 私死んじゃうの? 冗談じゃないわよ、却下よ却下!!」
「え〜〜〜〜? いい出来だと思うんですけれど……」
「あのねぇ、菜々。 山百合会の劇って言うのはね、万人に受けて、ハッピーにならなきゃだめなの! 分かる?! ハッピーよ?!」
「そうね〜、誰かさんはその劇のおかげで彼氏をゲットしたし」
「はい、祐巳さん! うるさいから口チャック!」
「え〜〜〜〜?」
「舞台装置にかなり凝らないと面白くなさそうだし、アクションとなるとかなり練習しないとタイミングとかかなり難しそうね。 それに、ゲストで来ていただく花寺の生徒会の方々の出番が雑魚のやられ役で、最初の頃にやられてしまうのでは申し訳ないわ」
菜々が書いて来たと言う山百合会の劇の脚本は、薔薇さま方の反対で(2名反対、1名由乃ににらまれて反対に投票)却下されたのだった。
「また書いてきます」