「……はちまきをどうするの?」
「巻くんですわ」
「だから巻いてどうするのよ?」
「巻くだけですわ」
「……」
毎回クラスメイトの奇行に悩まされている乃梨子。
今回も理解不能な彼女らの行動に振り回されるのかと思うと気が重くなるのだった。
「かしらかしら」
「はちまきかしら」
向こうの方ではちまきをした敦子と美幸がふわふわと踊っている。
「さあ、乃利子さんも」
椿色のはちまきを巻いた瞳子は極上の笑みを浮かべて頭に巻いているのと同じ色のはちまきを差し出した。
「はぁ……」
まあ、どういうつもりか知らないけど、今回ははちまきをするだけみたいだし、そのくらいなら大きな被害もないだろうと瞳子が差し出すはちまきに手をだした。
が、瞳子はすぐそれを引っ込めて言った。
「折角ですから巻いて差し上げますわ」
「そ、そう? じゃあお願いするわ」
そう答えると、瞳子はいそいそと乃梨子の後ろに回り「では失礼しますわ」といって前髪をかきあげるようにしてはちまきの布を額にまわした。
なるほど。おでこを出すようにして巻くんだ。
「ねえ、可南子?」
なんとなくそんな気がして気配はないけど可南子に話し掛けてみた。
「はい?」
案の定、待ってましたとばかりに返事が返ってきた。
もちろん可南子の額にもはちまきが。
「この際、気配がなかったとかはいいから、コレは可南子の仕業ね?」
「はて? 確かに鉢巻の巻き方に意見を出しましたが」
「クラスのみんなにはちまき巻かせてるの可南子じゃないの?」
「いいえ、皆さん自主的に巻いていらっしゃいます」
「……そうなんだ」
てっきり可南子が『みんなを凸にする会』とかはじめたのかと思ったのに。
「なにか失礼なこと考えてませんか?」
「え? そ、そんなことないよ?」
なんか勘が鋭いよこの可南子。
「できましたわ!」
乃梨子の後ろではちまきを結んでいた瞳子が声をあげた。
「あら、ありがとう」
その直後だった。
「「「おー!!」」」
ぱちぱちぱち
え!?
なんで歓声と拍手!?
教室を見回すと同じ色のはちまきで額を出したクラスメイト達が乃梨子に注目していた。
「なんなのよ?」
「乃利子さん期待してますわ」
「はぁ?」
「頑張ってくださいね」
「私達、応援しますから」
なんなのよ?
乃梨子はちまきをしてにわか凸と化したクラスメイト達に囲まれた。
「切れの良いエレガントな突っ込みを見せてください」
「つたないボケですけど微力ながら協力させていただきますわ」
「な、なんだってー!?」
よく見ると薄カメリア色(※椿色です)のはちまきには目立たない色で小さく『乃利子さんに突っ込まれ隊』と刺繍が施されていた。
「そっちかよ!! それになんでわざわざ刺繍!?」
「「きゃー」」
「すてきー」とか「出ましたわ」とか嬌声が鳴り響く。
「みんなで家庭科の時間に内職して作りましたのよ」
「労力の無駄遣いだよおい!」
クラスをあげてのボケに乃梨子は授業が始まるまで突っ込みつづける羽目となった。
授業が始まっても乃梨子がはちまきを取らなかったのは瞳子が結び目をとてもきつく結んでくれて簡単には外せなかったからだ。
しかし、授業にきた先生がこのクラスの過半数をしめる薄椿色の凸たちではなく乃梨子にばかり奇異の視線を送っていたのだが、その理由を知ったのは次の休み時間になって乃梨子が洗面所の鏡を見た時だった。
「と、瞳子ぉ〜!!」
「まあ、乃梨子さん、そのワイルドな突っ込み素敵ですわ〜」
スカートのプリーツを乱しまくって瞳子を追いかける乃梨子の額には太々とした勢いある毛筆書体でこんな文字が光輝いていた。
『突っ込み千人斬り』