『俯いちゃって、どうしたの?』
それは祐巳さま、あなたが見詰めてくるからです。
『ねぇ、顔を上げてよ。でないとあなたの顔が良く見えないよ』
止めてください祐巳さま、私の顔なんて見てもらったところで。
『そんなことないよ、ホラ、笑って?』
ダメです祐巳さま、歪んだ笑みしか浮かばないに決まっています。
『止めてよ、そんなことを言うのは。私、悲しくなっちゃうよ』
あああ祐巳さま、そんなお顔をなさらないで。
『ごめんね。あなたにまでそんな悲しい顔させちゃって』
祐巳さまは悪くありません。それに、あなたに悲しいお顔は似合いません。
『じゃぁ、笑って?お願い、私のために』
分かりました祐巳さま、あなたのためなら私…。
『やっと笑ってくれたね。ありがとう、お礼に…』
ゆゆゆ祐巳さま、何を?そんなにお顔をお近づけになっては…。
「むきゃっ!?」
突然、変な声を出して突っ伏した彼女に、近くのクラスメイト達が駆け寄った。
「どうなさったの?大丈夫?」
そっと肩を揺すりながら、クラスメイトが問い掛ける。しかし、反応はなし。
「まぁ、出血なさってるわ!」
クラスメイト達は、慌てて彼女を抱えると、すぐさま保健室まで運んでいった。
彼女の机の上には、血に塗れたノート。その影に隠れるように、一枚の写真があった。
紅薔薇のつぼみ、福沢祐巳の微笑む写真が。
そして、保健室のベッドに身を横たえた彼女。
血まみれのその顔は、やけに幸せそうな顔をしていた。