「あーりーじーごくー♪」
「つ、突っ込まないわよ」
とあるよく晴れた昼休み。乃梨子は瞳子に今日はみんなで外でいただきましょうと言われ、たまには良いかなと思っていっしょに外に出たのだが。
「ありが来るまでまーっているーぅ」
「おなかがすいてもまーっているーぅ」
みんなして砂地で輪を作って地面を見つめてよくわからない歌を歌っているのだ。
もちろん面子は瞳子・可南子そして敦子美幸。
瞳子の腹式呼吸の良く通る歌声もアレだが、それに重ねて敦子美幸の声はいやなくらいきれいにハモっていた。
「あ、あのね、その行動になにか意味があるわけ?」
「私たちは苦労しているのに悪い印象を持たれて嫌われてしまっている蟻地獄さまを労っているのですわ」
「さあ、乃梨子さんも」
「いや、わけわからないって」
「乃利子さんったら、この逆円錐の美しさをごらんくださいな」
確かに彼女らの真ん中に結構きれいな蟻地獄の巣があるんだけど。
考えてもみてほしい。何が悲しくて年頃の女子高生が校庭の隅で蟻地獄を囲んで良くわからない歌を歌わなければならないのか。
「だから、なんで蟻地獄なわけよ?」
「蟻地獄さまは現代のセールス戦略を端的にシンプルに体現しているのですわ」
「はぁ?」
「この円錐状のテリトリーが Advertisement すなわち宣伝ですわ」
「そしてここに迷い込む蟻が Visitor つまり訪問客なのですわ」
「蟻地獄さまがそれに対して砂を散らして中心に誘い込むのが Guidance すなわち案内」
「そしてめでたく蟻地獄さまの喰い物になってしまった蟻は Customer。そう顧客なのですわ!」
「顧客は喰い物かよ!!」
「まけぐみはーくいものー」
「かちぐみのくいものー」
間奏なのだろう。敦子美幸のコーラスがはいった。
「あーりーじーごくー♪」
「ありが来ないと飢えー死にぃー」
「砂に埋もれてすいじゃく死ぃー」
「労ってないよ! 労ってないっ!!」
あんたら、本当は蟻地獄きらいでしょう?