【517】 由乃は見た青田買い同好会!  (まつのめ 2005-09-10 23:02:03)


 非公認といいながら、一年生達の青田買い活動はもはや恒例になっていた。
 今日も中等部の校舎の前には下校する中学生達を品定めする一年生達が集まっていた。
 ちなみにこの一年生達、実は元祖青田買い同好会のメンバーではない。

「うわぁ、いっぱい居る……」
「興味なかったから来なかったけどこれはなかなか壮観ね」
「うーん、これ記事にして良いものかしら」
 クラスメイトの突っ込みに忙しくてこちらのことはすっかり忘れていた乃梨子だが、今朝また性懲りもなく遊びに来ていた例の中等部の子にその状況を聞き及んで、放課後こうして報道コンビとともに様子を見にきたのであった。
 この報道コンビ。次世代の日出美さんと笙子さんでは『ない』。
 蔦子さまと真美さまだ。
 何でこの二人が、と思われるかもしれないが、『神出鬼没』と言う言葉ですべてが説明されるであろう。
「で、経緯は日出美から聞いてるけど、白薔薇のつぼみとしてはこの状況をどうするつおもり?」
「うーん、元はといえばうちのクラスの連中の始めたことなんだけど……」
 青田買い同好会の噂は廃止になったにもかかわらずその活動が口コミで広がり、何も知らないお嬢様なだけに「それは素敵なアイデアですわ」と妹がほしい一年生達が中等部の校舎の前に押し寄せる結果となってしまったのだ。
「中等部は学園側の管理が強いから問題になる前に何とかしないとめんどうよ?」
 中学生たちの写真を撮りつつ蔦子さまはそんなことを言う。
 そうなのだ。高等部と違って導くのは先生だし。
「しかも山百合会の幹部が一枚噛んでたとなると……」
「もしかして生徒会の不祥事?」
「そうなるわね」
 それを聞いて青ざめる乃梨子。
 蔦子さまはそんな乃梨子の顔まで写真に収めているわけだが。
「あれ、由乃さん」
「え?」
 乃梨子たちは少し離れたところから青田買い集団を観察していたのだけど、その視界に集団に向かっていく由乃さまが入ってきた。
「あの子も一緒じゃない」
 例の中学生だ。
 そういえばあの子、初めて会ったときも由乃さまのこと知ってたわね。
 見ていると由乃さまは青田買い集団に何か言って追い払おうとしている様子。
 でもなんか反撃にあってる。
 黄薔薇のつぼみに反撃するなんてなかなか出来る事じゃないのに。
 もっとも乃梨子だったら理不尽なら平気で反撃するだろうけど。

「乃梨子ちゃん行くわよ」
 真美さまが言った。
「え?」
 蔦子さまはもう由乃さまの居るほうへ向かっていた。
「このままじゃトラブルになるから」

「最初にはじめたのは黄薔薇のつぼみではありませんか」
「そうです。黄薔薇のつぼみはご自身のことを棚にあげられるのですか」
「なっ、あんたら言わせておけば……」
「そこまでよ!」
 蔦子さまは写真を撮りながら激昂しそうな由乃さまに声をかけた。
「蔦子さん? それに真美さんまで?」
「黄薔薇のつぼみ、その『最初にはじめた』のところを是非お聞きしたいのだけど?」
「う、それは……」
「もしかしてそのお隣に居る子が?」
「の、ノーコメントよ! 菜々!」
「あ、はい」
 青田買い集団を蹴散らすのを放棄して由乃さまは例の中学生――もういいか、菜々ちゃんだ――を伴って行ってしまった。
「どう思う?」
「んー、クラスメイトとしてはまだそっとしておいてあげたいんだけど」
「そうね、相手が中等部じゃあまり騒ぎたてるのもまずいかな」
 なんて会話をしてる。
 まあ、春になればはっきりすることなんだけど。

「問題はこっちかしら」
 そういってお二人は由乃さまに続いて校内の有名人の先輩の登場に畏まる一年生集団に目を向けた。
「貴方達の気持ちも判るけどもう少し我慢しなさいな」
「由乃さんのは特別なのよ」
 この報道コンビの先輩は由乃さまのことをどこまで知っているのか。
 さっきの話からすると相手が中等部だから報道を自粛しているように聞こえる。
「ここで問題を起こして上級生、特に薔薇さま方に迷惑をかけるのは嫌でしょう?」
「もう少し大人になりなさいね」
 流石、言うときは言う。特に蔦子さまなんてこういうことは苦手そうなのに。
「と、いうのは建前で」
 おっと。
 きょろきょろと、お二人は下校する中学生もまばらになったことを確認した。
「あんたたち、もう高校生なんだからもっと上手くやんなさいよ」
「こんなにあからさまにやってたら中等部の先生に目つけられちゃうじゃない」
「人を観察するのに相手に自分の姿を見せるなんて素人のすることだわ」
「そうそう」
 ちょっとまて。
 先輩方、この子達をストーカー集団に仕上げるつもりか。
「あの、もう解散したほうがよいのでは」
 なにやら話が妙な方向に流れ始めたので慌ててとめた。
 それに、なんか向うの窓から中等部の先生らしき人がこちらを見ているし。
「それもそうね」
「はい、じゃあみんな帰った帰った」
 青田買い集団が散って居なくなると蔦子さまと真美さまもまだやる事があるからと高等部の校舎のほうへ帰っていった。


「流石、乃梨子さん。事を表沙汰にすることなく私たちの狩場から部外者を追い払う手腕、見事でしたわ」
「って可南子!?」
 また潜んでいたのか。
「人選が見事です。薔薇さまやつぼみを連れてきたらこうは上手くいかなかったでしょう」
「狩場ってなによ! 部外者って? なにが『上手く』いったっていうの!?」


 こうして青田買い同好会の地下活動は守られていくのだ。


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