これは【No:505】『私だけが知っている偽志摩子』の続きとして書かれています。
「あの、大丈夫ですか?」
「へ?」
その志摩子さん(?)はなんか心配そうに顔を近づけて来た。
さっき本物の志摩子さんが出てきて『私にそういう制服を着て欲しいの?』って聞いていたような気がしたんだけど。
どうやらあまりのことに自分で書いた小説だったことにして現実逃避してたみたいだ。
「顔色悪いですよ」
「アサヒ、その子なあに、知り合い?」
志摩子さん(仮)の向こうにいた同じ制服の子が言った。こっちは乃梨子みたいにストレートの黒髪を目の上でまっすぐに切り揃えた髪形だった。
「んー、なんか具合悪そうだから」
「そうなの大丈夫?」
「いえその」
黒髪ストレートの子はこの志摩子さん(仮)をアサヒと呼んだ。
やはり志摩子さんではなかったのだ。
「こっちに喫茶店あるから」
確かにこんな階段のところで固まっていてはほかの客に迷惑だ。
アサヒさんたちに引きずられるようにして私は同じビルの別の階の奥にある喫茶店まで連れて行かれた。
「アイスティーで」
「あ、じゃ私も」
「アイスティー3つで」
これはどういう展開なんだろう。
私は志摩子さんのそっくりさんとそのお友達と喫茶店で向き合っていた。
3人いた筈だけど一人は先に帰ったのか姿が見えなかった。
「あの、私の顔、何かついてます?」
「あ、ごめんなさい」
ついまじまじと見つめてしまった。だって本当にそっくりなんだもん。
そりゃ気持ち悪いよね、初対面なのにこんなに見つめられたら。
でもよく観察してたら違うってわかった。志摩子さんは絶対しないような表情が。
「ほんとうに大丈夫? 気分悪くない?」
「あ、違うんです、驚いてしまって」
「驚いて?」
流石は志摩子さんのそっくりさんってわけでもないんだろうけど、アサヒさんはかなりお人よしで世話好きな人らしい。さっきから初対面の私の体調を気にしている。隣に座っているアサヒさんのお友達はなんかちょっと白けてるけど。
「あの、知り合いにそっくりだったから」
乃梨子がそう言うと、アサヒさんは目を見開いてお友達と顔を見合わせた。
「まあ、世の中に似た顔の人は三人はいるって話だから?」
「でも、あんなに驚くほどってどんなかな?」
「あ、本当にそっくりなんですよ、似てるなんてレベルじゃなくて」
ああ、気分が悪いって言うのは当たってるかもしれない。志摩子さんがすごく違和感のある表情と話し方してなんか船酔いしてるような気分になってくる。
アサヒさんのお友達がアサヒさんに耳打ちするように話し掛けてる。こっちをちらちら見ながら。なんか信じてくれていないみたいだった。
「写真、ありますよ?」
とっておきの志摩子さんの写真。実は志摩子さん本人にも見せていない。だって写真持ってるの知られたら恥ずかしいし。でも今は志摩子さんにそっくりなアサヒさんに『ちょっとアブナイ子』みたいに思われるのがなんかいやだったから。
私は定期入れに入れている志摩子さんの写真をアサヒさんに見えるように差し出した。
お二人は顔を寄せてその写真に見入っていた。
しばらくして、お友達の方が顔を上げて私の方を睨んだ。
……なんで?
#こういう話だったんですが……。志摩子さんがいっぱいな話も読んでみたい気がします。
(つづき【No:548】)