「祐巳さまなんて・・・」
「どしたの?瞳子?」
「いえ、なんでもありませんわ」
祐巳さまは、何を考えてらっしゃるのか、わかりませんわ。
細川可南子にひどいことをされたというのに、その可南子さんにかまい、
おまけに、体育大会では何を賭けさせられるのかわからない、賭けまでする。
まぁ、それは祐巳さまが勝ったおかげで丸く収まったのだけれど・・・。
祐巳さまが賭けさせたのが、「学園祭までの手伝い」なんて・・・。
「はぁ・・・」
「瞳子、ほんと、大丈夫?朝からつらそうだよ?」
「いえ、大丈夫ですわ。」
乃梨子さんには悪いけれど、これは瞳子自身の問題。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう・・・あれ?可南子ちゃんは?2人と一緒じゃないの?」
「日直で遅れるみたいです」
「ふーん、じゃあ、代わりに瞳子ちゃん、一緒に来てくれる?」
「はい」
『代わりに』・・・。
祐巳さまは、多分、自分の言った言葉で瞳子が傷ついているなんて、知らない。
祐巳さまなんて、ただ、祥子お姉さまの妹なだけ。
瞳子にとっては、なにも気にならない、
・・・はずだった。
「瞳子ちゃん、演劇部で忙しいと思うからね、あんまり無理させたくないんだけどなぁ。
ごめんね」
「いえ」
「さて、可南子ちゃん、来たかな?」
祐巳さま、可南子さんなんか、気にしないでください。
「ほんと、瞳子ちゃんにも可南子ちゃんにも感謝してるよ。
忙しい時期に来てくれて」
可南子さんなんかと、同じにしないでください。
瞳子だけを、特別にしてください。
そんな願いは、瞳子が素直にならなければ叶わないことくらい、わかっていた。