「で、なぜ瞳子が祐巳様に付き合わなければならないのですか?」
「え〜、だって、お姉様はそういうのやらなそうだし・・・」
リリアン女学園からの帰り道。祐巳は瞳子に一緒に寄り道しようと誘っていた。
「ならば、由乃様辺りに声を掛ければよろしかったのではないのですか?」
「う〜〜ん。それが黄薔薇と家族でお食事だって・・・」
思わずシュンとなってしまう祐巳の様子に瞳子は「やれやれ」とつぶやく。
「わかりましたわ。でも、いいですか祐巳様!あくまで瞳子は付き添い、プレイするのは祐巳様一人でやってくださいまし」
「え〜、そんなぁ・・・せっかく二人でやりたかったのに・・・」
「なにか、仰りましたか?」
「いえいえいえ、なにも」
ま、いっか♪一緒に行ってくれるなら、と機嫌を取り戻す祐巳だった。
「この辺で良いかな?」
「よろしいんではないですか?あまりリリアンの生徒も見かけませんし」
「そうだね、うん。ここにしよう」
二人が着いたのは駅からも程近く、そこそこの大きさのゲームセンターだった。
駅前に新しくできた所でも良かったのだが、さすがに出来たばかりでお客さんも多、いまいちゆっくりと楽しむことが出来ないらしい(祐麒情報)
店内はそこそこの入りだった。しかしお目当てのゲームの周りには人は居なかった。
「瞳子ちゃんこれこれ」
「ちょっ、祐巳様袖を引っ張らないでくださいまし!」
「あ、ごめん。でもこのキャラクターかわいいでしょ♪」
「そうですわね、でもどこかで見たような?」
「そう?でも、結構前から出てるし、そのせいかもね」
「いえ、瞳子もこのゲームならば知っていましたわ。ただ・・・」
「ただ?」
「このキャラに似た方を見たような・・・」
ポップンミュージック10の前で二人はむむむと考え込んでしまった。
〜5分経過〜
「「由乃さん(様)!!」」
「あ〜確かに似てるかも、お下げといい、猫耳の合いそうな感じといい」
「ええ、それにもう一人のほうも・・・え!?」
「ん?、どうしたの瞳子ちゃん?」
「あの、祐巳様。もう一人ってうさ耳でソバージュヘアでしたでしょうか・・・」
「ん〜ん。うさ耳のほうもお下げだったよ」
プルプルと震えながら瞳子の指した先に確かにマリア様がいた。
「・・・・・・・・・え〜と、志摩子・・・さん?」
「どう言うことですか祐巳様!」
「リリアン仕様?」
「そんな可愛らしく首を傾げてみても瞳子は騙されませんわ!」
「・・・可愛い・・・瞳子ちゃんが可愛いって言ってくれた・・・」(テレテレ)
そのとろけ具合にほんのちょっと、いや少し、いやいやかなりグラッと来た瞳子だったが、何とか理性のふちに踏みとどまることに成功した。
「は、もしや」
そう言うや否や、ダダダッと瞳子は周りのゲームを一通り見て回る。
「なぜ、ここのゲームは皆リリアン仕様なんですか!」
戻ってきた瞳子がガァーッと吼える。
「ん〜、いいんじゃない?別に名前が出てるわけでもなし。だいいちたまたま似てるってだけだと思うよ」
「フーーフーーフーーーッ!!!!」
「ま、まあいいじゃない瞳子ちゃん。それよりも早速遊ぼうよ」
なんだか余り動じていない祐巳の様子に毒気を抜かれたのか、(後で開発者を締め上げますわ!)と思うだけでこの場は収めようと瞳子は思った。
早速ゲームを始めた祐巳の様子を見ようと振り返った。
♪〜〜♪♪〜♪♪〜〜♪〜♪♪♪♪・・・
タン! タタン!タタン! ズダン!ズダダダダ!!・・・
「え〜と、祐巳様?」
♪〜〜♪♪〜♪♪〜〜♪〜♪♪♪♪・・・
タン! タタン!タタン! ズダン!ズダダダダ!!・・・
「なに?今ちょっといいとこなの!」
そうとだけ言うと祐巳は流れてくる色とりどりの玉?に意識を集中させる。
♪〜〜♪♪〜♪♪〜〜♪〜♪♪♪♪・・・
タン! タタン!タタン! ズダン!ズダダダダ!!・・・
音楽が終わった時、祐巳は余韻を楽しむかのように、じ〜っと画面を見つめ続けた。
そして、成績表を見るとグレイトが172で後のグッドやバッドが0だった。
「ふう!やったよ瞳子ちゃん!パーフェクトなんて初めて!」
「そ、そうですか。おめでとうございます祐巳様・・・」
「やっぱり、瞳子ちゃんが一緒にいてくれたせいかな〜?」
「いえ、別に瞳子は祐巳様のお力になれたとは思えませんわ」
確かにすごい記録だった。祐巳に居てくれたからと言われたのも嬉しかった。
しかし、その曲名が瞳子の気持ちを全て粉砕していた・・・。
『安木節』
(なんで、この曲が?)
後日、このゲーセンはつぶれてしまった。
祐巳と行った後あしげく通っていた瞳子はしばらく放心状態だった。
その有様はまるで屍のようだったと乃梨子は言っていた。
(今日こそは祐巳様人形を取ろうと思っておりましたのに・・・)
どうやら、ゲームを見て回ったときに見つけていたらしい・・・