【539】 魔女っ娘札付き問題児  (素晴 2005-09-13 02:10:17)


♪る〜るるんるん、る〜るるんるん、る〜るるんるん♪
とある放課後。
そろそろたまった仕事を片付けに薔薇の館に行かなくちゃと思いながら「鼻行類―新しく発見された哺乳類の構造と生活」を読んでいると、乃梨子の前に、二人の少女が謎のテーマソングを歌いながら、優雅に宙返りでもしたかのように しゅた、と現れたのだった。
いや、本当のところはいつものようにふわふわと踊りながら、最後に軽くジャンプしたにすぎないのだが。
そしてそのまま、しゃきーん、とか言いながらポーズをとり始める。
「ケーキにやっぱり!女峰レッド!」
「甘くて大きな!章姫レッド!」
「ビタミンたっぷり!」
「お肌すべすべ!」
「「ふたりは、とよのか!!」」

……さて、どこからツッコんだものか。悩むくらいなら無視すればよい、とは思うのだけれど。
「そら乃梨子ちゃんあきませんて。ボケにはツッコミ入れたらなあきまへん。それが礼儀ちうもんや」
大K寺の和尚の言葉が脳裏をよぎる。

その間にも敦子と美幸の二人は「薔薇の館の乙女たちよ」「さっさとお家にお帰りなさい」などとほざいている。

あんたたちが余計な仕事を増やすから毎日遅くまで残らなくちゃいけなくなってるんじゃない、と言いたいのをこらえ、とりあえず最後から順にツッコミを入れることにする。
「仕事があるんだから、仕方ないでしょっ。それに章姫も女峰も、とよのか関係ないでしょうがっ。てかレッドが二人ってどういうことよ!元ネタどおりなら黒と白でしょうがっ」

「かしらかしら、どうかしら」
「ブラックベリーはいいとして」
「白いイチゴを食べたいかしら」
「おいしくないんじゃないかしら」
「それならせめて赤と黒にすれば」いいじゃない、と言いかけて、乃梨子は口をつぐんだ。
いけないいけない、ボケ以外を相手にする必要はないのだ。
いちいち受け答えをするから変な攻撃に屈することになるのだ。

「あらあらそれでは乃梨子さんは」
「ジュリアン・ソレルがお好みかしら」
「断頭台のヨハネの首に」
「サロメの口付け交わすのかしら」

「わぁ」
気が付いたときには目の前に変な顔があった。驚きのあまり、乃梨子は、ぺと、と尻餅をつく。

「な・・・何?!」
「やりましたわやりましたわ!」
「悪の女幹部を倒したのですわ!」
「私たちの勝ちですわね!」

よくよく見ればそれは敦子がどこからともなく取り出したビーチボール。マジックで人の顔が書いてある。ご丁寧にも口は「3」の形で。
きゃっきゃっと歓声を上げながら、嬉しそうに飛び跳ねる二人の様子を、乃梨子はただ呆然と見やっていたが、手にもったままのビーチボールを見ているうちに込み上げてきた怒りに、きっ、と二人をにらむ。

「一体、どういうことよ!」
「スタンダードですわ」
「……は?」
「フランス文学の名作なのですわ」
「それを言うならスタンダールでしょうが!!」

かくして、乃梨子のツッコミパンチで天まで飛んでいった敦子と美幸だったが、翌日には何事もなかったかのようにふわふわと登校して来ていた。
不思議なことだが、ギャグでは常識なのだろう。


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