がちゃSレイニーシリーズ
ロザリオ摩擦 【No:523】 くま一号に続きます。
志摩子がぺちゃん、と座り込んでいるともう一度電話が鳴った。
「はい、藤堂です」
『わたくしリリアン女学園の小笠原……』
「紅薔薇さま、志摩子ですっ。」
「志摩子。こんばんは。大方、由乃ちゃんあたりから電話があって落ち込んでるところだろうと思ったのよ。」
「はい。私、やりすぎたでしょうか。」
「いいえ。全然。まずひとつ言っておくわね。祐巳は本当に熱を出して休んでるのよ。落ち込んで閉じこもっているってだけじゃないわ。」
「だけじゃない……。少しだけ、安心しました。でも、こういうことになったら、もう退いた方が……。」
「そうは思わないわ。それではあなたがここまでしてきたことがなんにもならないもの。それにね志摩子。あなたは祐巳を許せないことがあるんじゃないの?」
「ええ。瞳子ちゃんを傷つけた。あのままあっさり祐巳さんが考え直してロザリオを渡したとしてもそのしこりは残り続けるでしょう。だから……。」
「乃梨子ちゃんのシナリオを越えて暴走したのよね。志摩子らしくもなく。その決着はつけなきゃだめよ。骨は拾ってあげるわ。」
「ふふふ。祥子さま。私は骨になるのが決定ですか。」
「友達ってそういう役目を引き受けるためにあるようなものよ。それで姉はその後始末をぜんぶ引き受けるの。」
「でも、祐巳さんが3日も落ち込んで閉じこもってるとしたら……。」
「違うわ。たぶん一人で考えたいのよ。瞳子ちゃんが祐巳に私を重ねていたと思いこんだ、という今回の発端を考えたら、私とも話したくないのもむしろ当たり前ね。」
「そんなことが……。間違いありませんか。」
「私はあの子のお姉さまよ。祐巳の考えることなんかお見通しよ。」
「祐巳さんの結論は、出たと思いますか?」
「結論は一つしかないもの、出てるわよ。問題は、志摩子、あなたよ。」
「え?」
「祐巳はあなたのことは不問にして、瞳子ちゃんにロザリオを渡そうとするでしょう。でも志摩子、あなたは許せないことは許せない。違う? まして、目の前で見ていた乃梨子ちゃんはなおのことね。 瞳子ちゃん思いよね、あの子。」
「よく見ていますね。祥子さま。」
「私は祐巳のお姉さま。そして、はばかりながら一度はあなたのお姉さまになろうとした私よ。隠し事ができると思ったら大間違いだわ。」
「ありがとうございます。祥子さま。祥子さまが見ていてくださるならば、思う存分やらせていただきますわ。」
「そうこなくては。吹っ切れた白薔薇さまを見せてほしいわ。二人の妹を持ちたいってあなたの提案はまだ有効よ。」
「瞳子ちゃん、ちょっと乃梨子を避けてるようですけれど。」
「それも不思議はないわね。意地っ張りだもの。でも、その意地っ張りが必死で自分の想いを告白したのに祐巳は受け取れなくて瞳子ちゃんを傷つけた。それならおしりをひっぱたくのがあなたの役目。それをフォローするのが私の役目。」
「それ、ひどいです。いいとこ取りしてますよ、紅薔薇さま。」
「とんでもない。最後に祐巳が感謝するのは瞳子ちゃんを拾ったあなたよ。自信を持ちなさい。今の祐巳はあなたが一つや二つひっぱたいても崩れたりはしない。」
「ありがとうございます、祥子さま。」
「志摩子。学年は一つ違っても薔薇さま同志。祐巳をここまで任せられるのはあなただからよ。今回、最初から直接私が説得すれば、ますますこじれただろうと思うわ。あなたのおかげなのよ。」
「祥子さま……。ありがとうございます。」
「それじゃ。祐巳のお母様に聞いたら、たぶん明日は出てくるそうよ。」
「わかりました。それではごきげんよう。お休みなさい。」
「ごきげんよう。志摩子。」
みんな、心配してくれている。そして祐巳さんと瞳子ちゃんが最後にうまくいくことを願っている。そう、明日の朝、祐巳さんと対決する、クライマックスよね。
それならやっぱり。
「もしもし、二条さんの」
「志摩子さんっっ。どうしよう。」
「どうしようって、やるわよ。」
「え・・・・・・・。」
「祐巳さんの中の幻の祥子さまは、金星か冥王星あたりへ飛んでいってもらうわ。」
「ふぅ。可南子さんの火星の話、いつのまにかみんなに広まってるのよね。」
「私は当事者の祐巳さん自身から聞いたわよ。とにかくそれをやらないかぎり、ただ祐巳さんが瞳子ちゃんへの気持ちに気づいてロザリオを渡しただけではダメなの。いつかはもう一度レイニーブルーが起きるわ。」
「うん。そう思う。じゃあ、ここだけ最初のシナリオに戻るの?」
「そうよ。可南子さん、来てくれるかしら。」
「それは大丈夫。瞳子とはもう『天敵と書いてともと読む』仲にちゃんとなってるから。でも、祐巳さまの方は本当にそこまでやって大丈夫なの?」
「いま紅薔薇さまから電話があったわ。一つ二つひっぱたいても大丈夫、だって。」
「うはははは。志摩子さん、私のことをそんな風に言い切れる?」
「無理ね。うらやましいかもしれないわ。」
「私は志摩子さんに3つ4つひっぱたかれても大丈夫だよ。」
「わかってるわ。あなたは清水の舞台からダイビングしても、グランドャニオンの断崖から蹴り落としても大丈夫よ。」
「はあ・・・・・・・。妹二人制度の提案ってまだ有効なんでしょう? 祥子さまのところに……。」
「だめよ。乃梨子は渡さないわ。」
「てへへ。」
「うふふふ。」
「令さまと由乃さまは役を振られていないのですけれど。」
「素直に驚く役がいなければ、劇は進行しないのよ。」
「あーあ、蚊帳の外ですかあ。」
「マリア祭のリペンジだったわよね? シナリオライターの令さまはねえ。」
「志摩子さんって……黒い。」
「あら、今頃わかったの?」
「うははははきゃきゃきゃ。」
「ふふふふふうふふふふふふふ」
「もしもし山口さまのお宅でしょうか。リリアン女学園の藤堂と申します。夜分に恐れ入りますが、真美さん……」