【541】 アタックインテルメッゾ  (くま一号 2005-09-13 08:32:42)


 操を立てるロザリオ返し  【No:538】 篠原さん に続いて、【No:510】の前に入る、ようなもの(大汗)



 祐巳さまの寝顔を見ている。

 この人はどうしてこんなに、無邪気になんの考えもなしに私の心を引っかき回すのだろう。

 今朝、倒れた、という。それも私が白薔薇さまからロザリオをもらったのを聞いて倒れた、と。ちら、と心の端で『いい気味』というかけらが踊ったことを否定しない。けど、これはない。
 白薔薇さま、いいえ、志摩子さまが本気なのはわかった。ロザリオを差し出した時の志摩子さまは、間違いなく乃梨子さんを見る時と同じ目をしていた。だから……瞳子、一生の不覚にも出されたロザリオを反射的に受け取ってしまった。

 その結果が、これだ。

 それなら、祐巳さまに本当に信じてもらうにはどうしたらいい。可南子みたいにうじうじと存在しない幻影を祐巳さまに重ねているのではない、ということを祐巳さまに納得してもらうにはどうしたらいい。白薔薇さまの方法はむちゃくちゃすぎる。現にこうして祐巳さまを傷つけてしまった。いいえ、文句を言っているんじゃない。白薔薇さまも乃梨子さんも祐巳さまに対して怒っている。

 でも……それは、違う。これまでずっと、女優、という仮面をかぶり続けてきた瞳子への罰。そしてあの梅雨の日の瞳子への……罰。どうして、どうしてこんなふうにからまってしまうのだろう。

「祐巳さま。あなたのことが大好きです。」
「祐巳さま。あなたの妹にしてください。」

 寝ている相手になら言える自分を嘲笑う。そして、一度だけ言えた時に刃向かってきた祐巳さまの中のかつての自分を嘲笑う。

「瞳子ちゃん」
「あ、祥子おね、いえ紅薔薇さま。」
「祐巳が目を覚ますまで、ついてる?」
 黙って首を横に振る。まだ話せる自信がない。

「祐巳はお父様が車で迎えに来るそうだから大丈夫よ。あなたは私が送っていくわ。」
「祥子お姉さま、それは結構です。自分で帰ります。」
「いいえ。たまには送らせて。」
「車、ですか?」
「ええ。松井さん。」
「わかりました。」

 鞄をとろうと下を向いた時に、自分がロザリオをしているのに気がついた。白薔薇さまに返そうとして一度外したものをなぜ私は首にもう一度かけた?


 次の日の朝、なんとなく乃梨子さんと顔を合わせづらくなった。白薔薇さまのロザリオは首に掛かっている。そう、かかっているのだ。つい、このまま志摩子さまの優しさと乃梨子さんの強さにすがってしまえたら、と考えている自分に驚く。あれは冗談だ。認められるわけがない。あわててはずす。わざわざ新聞種やクラスの口さがない連中の標的をふやしてやることはない。

 祐巳さまは3日目も出てこない。
梅雨の日の祐巳さまもこんな想いをしていたのだろうか。


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