【554】 由乃は見た志摩子のそっくりさん  (まつのめ 2005-09-15 22:04:16)


これは、【No:505】 → No.530 → 【No:548】 のシリーズのつづきとして書かれています。



 志摩子さんがテレビに出演した。
 そんな噂を祐巳が知ったのは朝の授業開始前のことだった。
 なんでもお昼のバラエティ番組で一般の人が参加するコーナーでしかもかなりはっちゃけた格好をしてたとか。
「なに? はっちゃけた格好って」
 祐巳は情報源の蔦子さんに聞き返した。
「都内の何処かの高校の制服でしかもギリスカだったらしいわ」
「義理?」
「ぎりぎりまで短くしたスカートのことよ。祐巳さん」
 いつのまにか近づいた真美さんが解説してくれた。
 つまり、リリアンの近隣高の女子高生が履いているのをよく見かける、パンツが見えそうなくらい短いスカートのことらしい。
 あそこまで短いと足の長さの差がはっきり判ってしまうから平均的日本人体型の祐巳としてはあまりしたくない格好のひとつだ。
 それに四六時中パンツが見えてしまわないか神経をすり減らしていなければならそうだし、単純に恥ずかしいというのもある。
「本当だったらぜひ撮りたいわね。ギリスカの志摩子さん」
 祐巳が想像して頬を赤くしているのに蔦子さんはなんか目を輝かせていた。
 この人もしかして学校外でも女子高生を隠し撮りとかしてるのだろうか。
 ふと、そんな怖い考えが浮かんだのだけど慌てて打ち消した。もしそうだとしても関わっちゃいけない、いや関わりたくないから。

「どうせ人違いでしょ。その何処かの高校に似た人が居たってだけで」
 最初から聞いていた由乃さんはなんかつまらなそうにそう言った。
 確かに話題としては面白みに欠けるかもしれない。というか志摩子さんがそんな格好してテレビに出るはず無いし。
「そうね、世の中には似た人が三人はいるって話だし」
 よく聞く話だけどその数字はどんな根拠によるのか祐巳は一度も聞いたことが無い。
 結局、志摩子さんに聞いてみればすむ話ということでその場は終わった。実際、以前あった騒動に比べたらたいして実害のなさそうな噂であった。

 ところが。

 志摩子さんが生活指導室に呼び出されたのは昼休みに入ってすぐだった。
 祐巳が由乃さんと生活指導室の前に着いた時、すでに扉の前に人だかりが出来ていた。
「あ、祐巳さん」
 集団の中には乃梨子ちゃんや桂さんとか知った顔が数人いて祐巳の顔を見て声をかけてきた。お姉さまと令さまの姿は見えなかったが来ていないのかそれとも扉の中なのかは分からなかった。
「……やっぱり噂の件?」
「わからないわ。でも、あんな噂くらいで呼び出すかな?」
 校則ではテレビに映ってはいけないという条項はなかったはず。まあ、高校生らしく節度を守ってみたいなことは書いてあるけど。
「ん? 乃梨子ちゃんなあに?」
 乃梨子ちゃんがなにか言いたそうにこちらを見ているのに気づいた。 
「もしかしたら、私、心当たりあります」
「そうなの?」
「それより、その番組、録画した人居ないの?」
 由乃さんが会話を分断した。
「それならもう入手したけど」
「蔦子さんそれ本当?」
 なるほど蔦子さん、校内にコネ多そう。
「今、持ってるの?」
「いや、録画してた人に話しつけただけだけど由乃さん知らないの」
「私?」
「黄薔薇さまよ」
「「ええっ!」」

 志摩子さんの呼び出しはやはり噂の件だった。
 呼び出しは十数分で終わりすぐに志摩子さんの話が聞けた。
 たまたま生活指導の先生が問題の番組を見てたとかで真偽を問う為に呼び出されたとのこと。
 志摩子さんの話ではその時間はお家の手伝いで家に居たという。
 ただ生活指導の先生はしつこくて、疑うのなら家族に問い合わせてくださいとまで言ったのに最後まで納得しなかったそうだ。
「つまり、次があるってこと?」
「本当に身に覚えが無いんだけど、先生が証拠を持ってくるからって」
 その先生は全然信じてくれなかったのだけど、一緒に居た担任の先生が仲介して後日仕切りなおしってことになったそうだ。

「信じられない。そんなの断固戦うべきだわ」
 話を聞いた由乃さんはやたらやる気になっていた。
「戦うって、どうするの?」
「作成会議よ。放課後令ちゃんの家に集まって」
「令さまの?」

  〜 〜 〜

 結局山百合会の二年生トリオ+乃梨子ちゃんが由乃さんの家のリビングに集合していた。
 令さまは部活で抜けられないからとビデオのありかだけ由乃さんに教えて部活に行った。祥子さまは話だけ聞いて「私が必要になったら関わることにするわ」と言って帰ってしまった。薔薇さまの立場で何かする必要が出てきたら、という意味だろう。
 そして。
「志摩子さんだ」
「志摩子さんよね」
「あら……」
 ビデオの問題のシーンを見た二年生トリオはそれぞれの反応をした。
 遠目で髪型が似てるとかそういうんじゃなく、アップでばっちり映ってるその顔はどう見ても志摩子さんだったのだ。
「うーん」
 由乃さんはさっきからビデオデッキに張り付いて問題の個所を何回も巻き戻しては再生を繰り返した。
「これ、志摩子さんのドッペルゲンガーとか」
「なによそれ」
「志摩子さんの潜在意識下の願望が本体の意思を無視して実体化したんだわ」
 由乃さんはオカルト物も読むらしい。
 なにやら怪しげな仮説をぶち上げてくれた。
「……そうなのかしら」
「志摩子さんも本気にしない」
「この制服どこのかな」
「見たことある気がする。志摩子さん分かる?」
「さあ」
「あのー」
 乃梨子ちゃんが恐る恐る手を上げた。
「なあに乃梨子ちゃん」
「この人、朝姫さんです」
「知ってるの!? そういえば昼間心当たりがあるって言ってたよね」
「はい、実は……」
 乃梨子ちゃんの話だと、朝姫さんというのは都立K女の二年生で、日曜日に偶然会って話までしたとか。
「そういう大事なことは早く言いなさい!」
「する隙がなかったんです!」
 無理もない。みんな番組のほうに気が取られていて、乃梨子ちゃんの些細な発言に注意を払っていなかったのだから。

「でもそうか、敵は都立K女に居るのね」
「由乃さん敵とちがう」



#登場する学校の名前はフィクションです。該当しそうな実在する学校があったとしても何ら関わりありません。
(つぎは【No:557】)


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