【557】 志摩子さんそっくり生徒会  (まつのめ 2005-09-16 11:32:13)


これは、【No:505】 → No530 → No548 → 【No:554】 のシリーズの続きとして書かれています。



 志摩子さんの呼び出しがあった日の翌日。
 放課後になっていきなり乃梨子を高等部事務局前に呼び出す放送があった。
 事務局は校舎とは別の管理棟と呼ばれる職員室などかある建物の一階にあり、職員用と外来用も兼ねた小奇麗な玄関の一画にその窓口が設けられている。
 乃梨子はその玄関の反対側にある渡り廊下から管理棟に入り事務局の窓口に向かった。

「あ、のーりこさーん」
 外来用の玄関を入ったところに見覚えのある短いプリーツスカートの集団。というか三人がいた。
「あ、朝姫さん!」
 ぱたぱたと手を振りつつ、志摩子さんと同じお顔で微笑む朝姫さん。
「どうしたんですか?」
「来ちゃった♪」
 あ、可愛い。
 朝姫さんはえへっとしなを作った。
「この子がニジョウさん?」
 薄い色のちょっと癖のある髪。ちょうど祐巳さまがツインテールを解いたような感じの髪型の子が乃梨子を見て言った。
「あ、二条乃梨子です」
「乃梨子さん、こちらはうちの生徒会長、桜明美さん」
 朝姫さんが紹介した。
「せ、生徒会長!?」
「桜です。はじめまして」
 生徒会同士の交流って本気?
 割と貫禄ある笑みをみせる桜さん。会長ってことは三年生かと思ったら、三年生は早々に引退するそうで、桜さんは朝姫さんのクラスメイトだった。

「なんだっけロサギガ……」
「白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)?」
「そうそれ。受付の人が私の顔見ていきなり呪文みたいな言葉言うからびっくりしちゃった」
「いったいなんなの?」
 そりゃ驚くわな。外から受験で高等部に入った乃梨子だって始めはリリアンの異世界っぷりに相当のダメージを食らったのだ。普通の都立高校(女子高だが)に通っている朝姫さんからすれば乃梨子以上にショックはあるはずだ。しかも彼女はリリアンの特異点である山百合会の中心人物に顔がそっくりというステータスを持っている。それは否応なくその特異点へと彼女を導くのだ。
「えっと、とりあえず生徒会室にご案内しますからその道すがら説明しますね」
 さて、彼女たちにどうやって世間一般の生徒会と違うリリアンの特殊事情を説明しようかと思案する乃梨子であったが、その前に。アポイントなしにいきなり来たことについて問うと、桜さんが事情を聞いてすぐ見たいと言いだして、説得するのも聞かずに放課後いきなり自転車を奪って(いや借りたとか意見が分かれてたが)来てしまったとか。
 桜さんってすました顔してるけど実は相当イケイケな性格のようだ。

 二回目の志摩子さんの生活指導室への呼び出しがかかったのは乃梨子が早口言葉のような生徒会役員の称号を朝姫さんたちに教えている時だった。
「今のってそのロサギガンチアじゃない?」
「桜、それちがう」
「志摩子さん……そうだ! 朝姫さん、一緒に来て!」
 そうなのだ。まさに渦中の人がここにいるのに行かなくてどうする。
 乃梨子は朝姫さんを引き連れて、いや、結果的に都立K女御一行さまを引き連れて生活指導室に向かった。


 こういうとき生活指導室前は必ず人だかりが出来るのだが、放送を聞いたとき比較的近くに居た為、人だかりはまだなく、乃梨子たちは一番乗りでドアを叩くことができた。
 K女の三人は中から現れた先生がシスターの姿をしているのに面食らっていたが、シスターの方は乃梨子に続く他校の制服を着た三人を見て「あら」と声をあげた後、朝姫さんの方を向き、なんか納得したように頷くと「お入りなさい」と4人を指導室に招きいれた。ちなみにこのシスター、学年主任だ。
 生活指導室の中はこの学年主任ともう一人、生活指導の先生だけでまだ志摩子さんは来ていなかった。
「ようこそリリアンへ。お嬢さん方」
 学年主任は簡単に自己紹介し、朝姫さんたちの自己紹介の番となった。
「私は都立K女子高等学校二年F組、桜明美と申します。現在生徒会長をやっております」
 事情もしらない筈なのにこの落ち着きっぷりは流石は生徒会長。 
 でもこの人、こんないかにもな自己紹介してるけど、実は守衛さんに呼び止められなければこっそり進入する気だったとか。なかなか食えない奴だ。
「同じく二年D組宮野春子。生徒会書記です」
 春子さんは淡々と。
「えっと、私は二年F組、藤沢朝姫です」
 最後に朝姫さんが挨拶した。
「乃梨子さんがこの方々をお呼びしたのかしら?」
「えっと、は、はい」
 たまたま偶然が重なっただけなんだけど、ここはそういうことにしておいたほうが良いと判断した。
「じゃあ、志摩子さんがまだだけど見てもらいましょうか? 良いですよね」
 学年主任はもう一人の先生に言った。
「はぁ、では」
 その先生は朝姫さんがこの部屋に入ってきた時からずっと呆けた顔して朝姫さんの方を見ていたんだけど、学年主任に言われて我に返ったようにテーブルの隅に置かれたビデオデッキを操作しはじめた。
 このビデオデッキ。いかにも持って来ましたよって感じでこの部屋の落ち着いた色調から浮きまくりなんだけど、志摩子さんが疑われた例の放送を録画したビデオを見るためにわざわざ用意したらしかった。
 やがて画面にはバラエティ番組の司会がなにやらしゃべってる場面が映し出されて少しすると問題の司会がギャラリーにインタビューする場面になった。
「これって……」
「日曜日のあれじゃない?」
 画面に映っているは朝姫さんと春子さんとあともう一人は桜さんじゃなかった。
 その時だった。
「遅れて申し訳ありません……乃梨子?」
 息を切らした志摩子さんが部屋に入ってきた。
 乃梨子たちはビデオに集中していて気づかなかったが、学年主任はいつのまにかドアのところにいた。
「うわっ、朝姫が二人いる!」
 声をあげたのは春子さん。桜さんも目を見開いて驚いていたがすぐに学年主任の方を向いて言った。
「この放送が問題になったのですね?」
 生徒会長をやっているだけあって頭の回転が早い。桜さんはリリアンの制服を着た朝姫さんのそっくりさんを見ただけで、もう何が起こっているのか理解したようだ。
「そうなんです。こちらは藤堂志摩子さん。本当に朝姫さん、そっくりなのね」
 志摩子さんは朝姫さんを見て驚くというより不思議そうな顔をしていた。
「このビデオに映っているのは間違いなくうちの生徒です。この宮野さんが証人になります」
「そのようね。わざわざ来てもらって申し訳ないわ。本当は志摩子さんのご両親から確認さえ取れればもう終わりにするつもりでしたのよ」
 学年主任の言葉に桜さんが不思議そうな顔をしたので乃梨子は志摩子さんがその時間はお家の手伝いをしていた事を告げた。
「どうも、うちの生徒がご迷惑をおかけしまして」
 桜さんは学年主任に向かって頭を下げた。
 そっくりなのは本人のせいじゃないんだから迷惑をおかけしてもないもんだと思ったけど、どうもそうではなく、バラエティ番組のギャラリーなんかに出ていたことを言っているらしかった。
 学年主任が生活指導の先生に「もういいですね」と問題の終結を告げて、今回の件は一件落着となった。




(つづき【No:574】)
---------------------------------------------------------------------------
>皆さんピッタシの題名が出るまでリロードするの?それとも題名見ながら云々考えるの?
私の場合、出た題名が手持ちのネタに上手いこと一致して出す場合と、題名にインスパイアされて書き下ろす場合と半々くらいです。
交流掲示板向きの話題ですので以降はあちらで。


一つ戻る   一つ進む