「知ってはならないことってあるわよね?」
お姉さまが、歪んだ笑みを浮かべて私に言った。
「あなたが選んだ妹…」
「桂がいったいどうしたとおっしゃるのですか?」
詰め寄る私。
私自身になら、何を言われようと、何をされようと構わない。
だけど、可愛い妹に対しては、例えお姉さまであっても、一切余計な手出しはさせない。
それは、姉としての最低限の義務だから。
「あなたの妹…、桂ちゃんは良い娘よ。ええ、とっても…」
「ですから、桂がいったい…」
「お忘れなさい」
その一言で、私の身体が凍りつく。
「く…、お、お姉、さま…」
「もちろん、桂ちゃんを忘れろと言っているのではないわ」
「で、では…な、何を…」
桂のため、私は必死に抗った。
でも…。
「お忘れなさい」
お姉さまに瞳を覗き込まれた私は、斑に色づいた意識の中で、静かに途絶えてしまった。
「お姉さま!」
恐らく私を呼ぶ、聞きなれた声。
「う…ん」
「お姉さま!」
「んー、あ…桂?」
「大丈夫ですか?」
「あー、うん、大丈夫」
ハの字に下げた眉の桂は、心配そうな表情をしていた。
そんな顔も可愛いわよ。
「ごめんなさい。心配かけたわね」
私の言葉に、両手の握り拳を胸元において、ふるふると首を振る桂。
「さぁ、それじゃあ練習に付き合ってくれるかしら」
「ハイ!」
いつものように元気な返事の桂の肩を抱いて、コートに出る私。
良い妹を持てて良かったわ。
一年桃組テニス部所属、私の妹、えーと、桂。
えーと…。
あれ?