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志摩子さんの呼び出しの件が終わった生活指導室で。
「乃梨子さん、困ってませんか?」
学年主任が出て行ったあと、ドアの外を覗き見ていた乃梨子に桜さんが言った。
ちなみに生活指導の先生はまだビデオデッキを片付けている。
「え?」と乃梨子が振り向くと桜さんは続けた。
「志摩子さんと朝姫って似すぎてるから。このまま出て行くと妙な噂が広がっちゃてお互いに迷惑とか考えてない?」
なんで判るかな。本当に桜さんって侮れない。
当の志摩子さんと朝姫さんは並んで立ってちらちらとお互いを見てるんだけど、こうして並んでいるのを見ると本当によく似ている。
まあ、流石に並べてみれば違いがわかるけど。
体格も身長も同じくらい。でも朝姫さんの方がちょっと小さくみえるのは痩せてるからだ。痩せてるっていっても志摩子さんが太ってるっていうわけじゃなくて、朝姫さんが痩せすぎって感じ。もしかしてダイエットしてるのかな。
「というか新聞部が待ち構えてるの」
「あらら」
「ノーコメントで通り抜けても顔は見れば判るから」
あのビデオ。他校のそっくりさん。生活指導室。三つのお題じゃないけど容易に記事が想像できてしまう。こんなことくらいで問題にされること自体腹立たしいのに、わざわざ協力してくれた朝姫さんをさらし者にするなんて絶対してはいけないことなのだ。
ドアの外は先生が出てきたときに散ったのかドアに張り付いてる生徒は居なかったもののまだ遠巻きに相当数のギャラリーが確認できた。
「朝姫、変装しな」
椅子に座たままそっくりコンビを観察していた春子さんが言った。
「えー」
「髪、縛って渋い顔してれば多分大丈夫だ」
「渋い顔ってなによ」
「ほら、かつあげするときの悪人の目つき」
なに?
不穏な単語を聞いたぞ。
「乃梨子さんがびっくりしてるじゃない。べつに本当にしてるんじゃないのよ」
「朝姫の一発芸なの」
なんだ。一瞬、外の高校だから裏でそういうことしてても不思議じゃない、なんて思ってしまった。K女はそんな廃れていないらしい。
結局その案を採用した。
朝姫さんは髪を後ろで縛ってオールバックにし、マスクをして(桜さんが持ってた)そして目は『悪人の目つき』をしてもらって、全員で速やかに薔薇の館に移動とあいなった。
新聞部には「今はお客さまが来てるから」と言って引き下がってもらった。これなら記事もかけまい。
「素敵な生徒会室ですね」
「流石、お嬢様学校」
「建物ひとつとは恐れ入ったわ」
順に朝姫さん、春子さん、桜さんの薔薇の館を見たコメントである。
薔薇の館には誰も居なかった。
志摩子さんに聞くと由乃さまと令さまは部活、祐巳さまと祥子さまは委員会の会合に出席してそのまま帰宅するとか。
三人を二階の会議室に招いて紅茶を振舞った。
「姉妹制度と薔薇さまとつぼみについてもう一度お話したほうが良いですか?」
「そうね、いろいろあって忘れてると思うからお願いするわ」
そのへんのリリアン特有の制度の話は生活指導室へ行く前に概略を話していたのだけど、乃梨子は改めて説明をした。
薔薇さまとつぼみについて説明が終わったところで桜さんが言った。
「あれ、でも乃梨子さん一年生よね? えっと、『白薔薇さまのつぼみの妹』じゃないの?」
「あ、それは実はですね……」
お三方はなれない雰囲気なのかちょっと畏まっていたけど、乃梨子が志摩子の妹で『白薔薇のつぼみ』であることを話すと、興味を持っていろいろと質問してきた。
乃梨子は先代の白薔薇さまが当時一年生だった志摩子さんを妹にしたことや、そのため今の薔薇様が一人だけ二年生で、自分が一年生なのにつぼみになってしまったことなどを話した。
「……なるほど、ドラマがあるのね。興味深いわ」
概ね、K女の方々との交流はよくできたと思う。まあ、リリアン側が志摩子さんと乃梨子だけなので、個人的な集まりの感が否めないけど、非公式だしファーストコンタクトとしてはこんなものだと思う。
乃梨子としてはもう少し、志摩子さんと朝姫さんでお話して欲しいと思ったんだけど、結局、生徒会長の桜さんと乃梨子の会話ばかりで志摩子さんは相槌だけ、朝姫さんもちょっと乃梨子に質問しただけで直接の会話は全然しなかった。
桜さんはリリアンが気に入ったらしく、あとで正式に申し入れをすると言っていた。
そして、ほかの薔薇さまによろしくということで今日のところはお開きとなった。
(つづき【No:583】)