【576】 レズる瞳子  (まつのめ 2005-09-18 11:40:04)


「私、『レズる』って言葉は嫌いですわ」
 そんな思い出したくない話題を瞳子が口に出したのはとある日の昼休み。
「瞳子、その話題は振らないで」
「あら、どうしてですの?」
「どうしてって……」
 先日の薔薇の館での惨状がまだ記憶に新しい。
 由乃さまの自爆はいいとして、祥子さまと志摩子さん。あの二人天然だから真顔で「レズりたい」とか口に出すんだもん。
 ああ、今思い出しても顔が熱くなる。
「ふぅん」
「な、なに?」
 なんか、瞳子がしたり顔で微笑んでる。
「まあ、乃梨子さんが白薔薇さまとそういう行為をしていても別に咎めたりしませんわ」
「してないっ!」
「それより聞いてくださる? 『レズ』という言葉はもともと……」
「話をきけよ」
「……『レズビアン』を略した言葉で、女性を称えた詩で名高い古代ギリシャの女流詩人サッポーの生地レスボス島から来ているのですわ」
「トリビアかい!」

「かしらかしら」
「『へー』かしら」
 敦子と美幸がふわふわと現れた。この二人も微妙に神出鬼没だ。
 瞳子の披露したトリビアに反応したようだ。3へーくらいか。

「で、嫌いだって話は何処へ行っちゃったのよ?」
「それですわ。乃梨子さん」
「『レズる』という言い方は見る側のエゴが感じられるから汚らわしい行為を指してるみたいで嫌い、なんでしょ?」
「……」
 あ、当たりだったみたい。
「乃梨子さん、意地悪ですわ」
「はいはい、嘘泣き上目遣いで拗ねた顔しない」
「まあ、それはともかく」
「立ち直り早っ」
「レズといえば女性同性愛、女の園に何年も学んでいるリリアン生としては避けて通れない話題なのですわ」
「その言い方は微妙だけどまあ同意するわ」
「そうですわ、身近にそういう方が居るんですもの」
「話題にしないわけにはいきませんわ」
 敦子と美幸がそう言う。
「身近って?」
 そんな人居たかな? 聖書朗読クラブには居そうもないんだけど。
 まあ、過去にそういうことがあったって噂というか伝説はあるけどそれを『身近』とは言わないし。
「というわけで当事者の乃梨子さんには是非その体験をお聞きしたいですわ」
「まてい」
「私たちはキリストの教えを学んでいる身ですけど乃梨子さんの愛は見守っていきますわ」
「美しい友愛ですわ」
「……あんたら私のことどう思ってるのよ?」
「白薔薇さまにべた惚れの乃利子さん」
「自分はノーマルと言いつつ白薔薇さまとガチな乃利子さん」
「普段は突っ込みだけど白薔薇さまが絡むとボケに転じる乃梨子さん」
「……」
 否定しきれない自分が憎い……。

「欲望に汚れた行為はキリストさまも当然否定なさってますわ。でもお互いを慈しみ合うような愛ならばきっと許してくださるに違いないのですわ」
「なんか綺麗にまとめようとしてない?」
「そう考えれば『レズる』という言葉も崇高な響きが感じられるようになるんですわ」
「いや、それはならないだろ」
「乃梨子さん、私たちは乃利子さんを応援しているんですわ」
「大きなお世話よ」
「というわけで新しい会を考えたのですわ」
「話を聞けってば」
「会の名前は『乃梨子さんとレズりた「却下ーーーーっ!!」


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